アメリカのフォーク・ロックやカントリー・ロックと言われるジャンルは、日本では評価を受けにくい傾向にあるのかも知れません。詞が重要な音楽なので、英語の苦手な日本人には良さが伝わりにくいという面はあるでしょう。実は私もそうしたリスナーのひとりで、ニール・ヤングのいくつかの有名なレコードを聴いて、「詞を楽しめないと楽しめない音楽だな」と早い段階で決めつけてしまい、せっかくの素晴らしい音楽を聴く機会を長らく逸していました。しかしある時、そんな自分の中でのニール・ヤング評を根底から覆すライヴ・アルバムに出会い、そこからニール・ヤングの聴こえ方がまったく変わってしまいました。
ニール・ヤングはカナダ出身のフォーク・ロック系のミュージシャンです。バッファロー・スプリングフィールドやクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング(CSN&Y)に参加して名をあげ、ソロ活動後は同ジャンルを代表するミュージシャンのひとりとなりました。『After The Gold Rush』や『Harvest』といった初期の人気レコードはアコースティックなサウンドの目立つフォーク色の強いものでしたが、それはニール・ヤングの一面。クレイジー・ホースというバンドとともに、それとは相反する暴力的と言えるアグレッシヴなロックも演奏しました。今回は、ニール・ヤングの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただきます。
■Neil Young (Reprise, 1969)
デビュー・レコードがいきなりのおすすめ大名盤、フォーク・ロックの歴史を作ったバッファロー・スプリングフィールド解散後に発表された、ソロ第1弾アルバムです。ライ・クーダーのほかにバッファロー・スプリングフィールドやポコのメンバーが名を連ねますが、このメンバーから想像できそうなフォーク・ロックが演奏されるのはアルバム冒頭の1曲だけで、以降は到底このメンバーによるものとは思えないほどの挑戦的な音楽が続きます。
ファズが荒れ狂う曲があるかと思えば、弦楽四重奏とアコースティック・ギターのアンサンブルもあり、その音楽の幅の広さに圧倒されます。ニール・ヤングの特徴をあげるとしたら、保守と革新、静と動、こういった対極にある者をどちらも併せ持った器量。アコースティックとエレクトリック、あるいはフォークとロックという対置にもそれがあらわれているのではないでしょうか。なお、この傾向は同じく高評価を受けたセカンド・アルバム『Neil Young with Crazy Horse / Everybody Knows This Is Nowhere』(邦題:ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース)にも引き継がれます。
■Neil Young / After The Gold Rush (Reprise, 1970)
ニール・ヤングの静と動を示したのが1枚目と2枚目のアルバムなら、静の部分をより押し出したものが3枚目と4枚目のアルバム。これは70年発表のサード・アルバムで、レーナ―ド・スキナードにアンサー・ソングを作られたというニュース性を含め、ニール・ヤングのアルバムでもっとも有名なもののひとつです。
ロック・バンドがバックをつけますが、基本はアコースティック・ギターの弾き語り、そこにコーラスが重なります。ある意味でカントリーと言ってもいいほどに温かみを感じる音楽ですが、実は詞がカントリーとは正反対。音の印象だけで聴いていると、内容を取り違える事になるかも知れません。フロンティア・スピリットに溢れた過去、核シェルターに隠れる現代、宇宙に逃げる未来を「ゴールド・ラッシュの後に」と例えるもの(After The Gold Rush)、いまだに人種への差別意識を棄てない合衆国南部を批判したもの(Southern Man)など、こうした強い主張を自分の意見として歌い切ることが出来る所に、アメリカで活躍するフォーク・ミュージシャンの強さを感じます。
なお、この次に発表した4枚目のレコード『Harvest』も同様の音楽性を持ったアルバムで、アメリカ、カナダ、イギリスなどでチャート1位をとる大ヒット作となりました。
■Neil Young / Tonight’s the Night (Reprise, 1975)
ニール・ヤングを代表する曲のひとつ「Tonight’s the Night」収録の6作目です。3~4枚目のアルバムがアコースティック色の強い「静」のレコードだったのに対し、このレコードはエレクトリック色の強い「動」のレコード、完全にバンド・ロックです。
演奏自体は決してうまくないのですが、しかし耳が惹きつけられて聴きこんでしまうのが、このバンドの魔術。スワンプ・ロックに近い演奏をしていますが、たとえばエリック・クラプトン『461 Ocean Boulevard』などは、バックバンドは歌にもフロントを務める楽器にもあまり絡まず、淡々と伴奏をします。しかしこのバンドは、ビートを出すところは出し、語らせる所では控え、音楽を変化させたい所では前に出て…と、バンド全体が生き物のようにグルーヴします。
そうした「音楽のツボを分かった」演奏をしたキーマンのひとりは、のちにブルース・スプリングスティーンと共演するEストリート・バンドに参加したニルス・ロフグレン。うまくはないのですが、緩急自在の演奏が光ります。音楽面では70年代前半のニール・ヤングを代表するレコードではないでしょうか。
■Neil Young & Crazy Horse / Live Rust (Reprise, 1979)
ここまでニール・ヤングのスタジオ・アルバムを静と動に分けて紹介させていただきましたが、静と動という意味で言うと、スタジオ・レコーディングとライヴにも、この図式が成立します。極端に言うと、ライヴ・レコードでは動に回った瞬間のエネルギーが桁違いで、ガレージやノイズといいたい所にまで音楽が到達します。
ライヴでの常連曲「Like A Hurricane」や「Cinnamon Girl」はもちろんですが、「The Loner」絵のエレクトリック・ギターの激しさが圧倒的。ニール・ヤングの音楽を聴くに、バッファロー・スプリングフィールドやCSN&Y に独創性やロック的なニュアンスを加えたのは、ニール・ヤングであったと言って間違いない所でしょう。
■Neil Young & Crazy Horse / Weld (Reprise, 1991)
ニール・ヤング&クレイジー・ホースのライヴ・レコードで、ぜひもうひとつ紹介したいのがこれです。デビューから20年以上経過したのちに発表されたものなので、その間にロックやニール・ヤングから離れてしまった人もいるでしょう。そういう人がこのアルバムを聴いたら、『Live Rust』をさらにブーストさせたかのような強烈なグランジ感に驚くのではないでしょうか。反対に、このあたりのグランジでガレージなニール・ヤングを先に経験した人にとっては、これこそがニール・ヤングの切り札的なアルバムと思っているかも知れません。そのぐらい、「動」「ロック」方面のニール・ヤングの極みともいえるレコードで、私が誰かにニール・ヤングのアルバムをひとつだけ薦めるとしたら、間違いなくこれです。
■Neil Young / Dead Man (Vapor, 1996)
ガレージをさらに進み、アヴァンギャルドにまで到達したニール・ヤングを聴くなら、ジム・ジャームッシュ監督映画のサウンド・トラックであるこれが最適。映像を見ながらほぼ即興で録音されたという音楽は、ロック流サウンド・インスタレーションとでも呼びたくなるほどにアーティスティックなレコードです。また、楽曲の合間に映画のセリフが挟まれ、映画から離れてこのレコードだけでひとつの作品と呼びたくなるほどに、作品としても見事にまとめられています。
■レコード高価買取に関するあれこれ
ソロ第1弾『Neil Young』は世界発売され、69年リリースのものでも、ジャケット・デザインや仕様の違いが見られます。USオリジナル初回はジャケット上部に「NEIL YOUNG」の文字が入っていないゲートフォールド仕様で、状態によっては数万円をつける事もあるプレミア盤です。以降、再プレス後はUS盤を含め、おおむねジャケット上部に「NEIL YOUNG」の文字が入るようになりました。日本盤は初回からこの仕様で、これも一定の人気があります。
『Live Rust』は、CDではなくLPレコードでぜひ入手したいアルバムです。というのは、CDは1枚に収めるために、LPに収録されていた部分を色々とカットしたためです。面白い事に、このレコードは海外では日本盤がUSオリジナルをはるかに上回る値をつける事があります。調べきれませんでしたが、日本盤LPだけに入っている何かでもあるのでしょうか。
『Dead Man』をリリースしたVapor は、ニール・ヤングの個人レーベルです。CD時代にリリースされたアルバムだけにLPレコード自体が貴重。2枚組LPとしてリリースされたUS盤もドイツ盤も、は万単位の値段をつけるプレミア状態です。
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