60年代なかばに行われた北爆以降、ベトナム戦争は泥沼化。これに呼応するかのように、アメリカン・ロックはサイケデリックの色を強めていきました。ジェファーソン・エアプレインやグレイトフル・デッドのようなヒッピー文化に後押しされたバンドもドラッグ・ミュージックとしてのサイケデリック感覚を持っていましたし、アメリカをも席巻したビートルズやローリング・ストーンズといったブリティッシュ・ビート・バンドですら次々にサイケデリック色の強いアルバムを発表していました。しかし黎明期のサイケデリック・ロックは、当時出始めた各種のエフェクターやシンセサイザーを音楽に用いた音遊びの範囲に留まるものが多く、作曲や作詞面で進化の余地を残す状態でした。

ドアーズは、1967年のデビューと同時にセンセーションを巻き起こしたロック・バンドです。サウンド面でサイケデリック的な特徴を持たないドアーズをサイケデリック・ロックに含めてよいかどうかは難しいところでしょうが、サイケデリック・ロックの時代思潮をこれほど捉えたバンドもいなかったのではないでしょうか。幻視者ウィリアム・ブレイクの詩の一節からバンド名を取ったというだけに、ドアーズの曲は預言的でメタファーに満ちた詩が多く、当時も今も、ロック最高峰といっていいほどの見事な言葉に彩られていました。また、メンバーの演奏技術も楽曲の完成度も高く、デビューアルバムにしてセンセーションを巻き起こしても当然というレベルにあるバンドでした。

今回は、ドアーズのアルバムの中で、名盤の評価を受けるとともに、高額での買い取りが見込めるレコードを紹介させていただきます。

■The Doors (Electra, 1967)

ドアーズのデビューアルバムです。時間をかけてアッチェルしてカオスに達する「ジ・エンド」、オルガンの長いソロが素晴らしい「ハートに火をつけて」、文学詩なみの見事なレトリックが素晴らしい「ブレイク・オン・スルー」など、名詩・名曲・名演ぞろいで、ドアーズどころか、ロックの代表的アルバムのひとつと言っても過言ではないアルバムです。ベトナム戦争を舞台とした映画『地獄の黙示録』でコッポラ監督が本作収録の「ジ・エンド」を使った事は、それだけこの音楽にベトナム戦争介入時のアメリカの雰囲気を感じていたのかも知れません。

ヴォーカリストのジム・モリソンによる詩の素晴らしさは筆舌に尽くしがたいものがあります。「昼が夜を破壊し、夜は昼を裂く」などのレトリック、「街の外れは危険だ、王のハイウェイに乗れ」といったメタファーの見事さは、ロック詩の中でも随一ではないでしょうか。

録音も格別で、同時代のロック最高位の録音です。恐らくプレートリヴァーブのEMTを使ったであろう響きは、ベースレスの小編成であるドアーズのサウンドに厚みと立体感を与え、見事にアンサンブルさせています。60年代当時、ビートルズもストーンズも、ここまで良い録音のアルバムは残すことが出来ませんでした。

「ハートに火をつけて」がビルボード1位と大ヒットした事もあり、本作はイギリス・フランス、日本など各国でリリースされました。貴重さで言うと67年発売オリジナルのモノ盤(US、UKともEKL-4007。ステレオ盤はUS、UKともにEKS-74007)というものがあります。また、日本盤帯つきも人気があり、高額となりやすいです。

■Waiting For The Sun (Electra, 1968)

1968年発表、ドアーズのサード・アルバムです。ドアーズ初のビルボード1位獲得アルバムで、こういった所にも60年代後半のアメリカでのドアーズの人気の高さをうかがい知ることが出来ます。

詩集も出していたジム・モリソンの詩の世界は深みがあり、アルバム自体がジム・モリソンの詩を軸に作られているような作品です。朗読部分でのオルガン伴奏、軍隊のマーチを模したリズムの使用、鎮魂歌を模したコーラスなど、詩が描いた情景のサウンド化が目立ちます。ジム・モリソンの参加作品すべてに言える事ですが、特にこのアルバムは詩に注目して聴きたい1枚で、ロック・ミュージック付き詩集ともいえそうです。

ドアーズのオリジナル・アルバムのレコードは、USオリジナル盤はもちろん、それ以外のものでも押しなべて人気が高いです。日本盤も帯・ライナーつきで状態良好であれば1万円超えの高額になる事があり、このアルバムもそのひとつです。

■L.A.Woman (Electra, 1971)

1971年、ロック界はジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソンとスターを立て続けに失いました。本作はジム・モリソン最後の参加作で、本作のレコーディング後にジム・モリソンは休養を取り、パリで客死しました。死因は不明ですが、ドラッグの過剰摂取ではないかと言われています。アルバムのラスト「ライダーズ・オン・ザ・ストーム」の詩にあらわれた「骨すらもらえない犬のような、この世に投げ入れられ、嵐に乗る者たち」という表現は、ジム・モリソンの人生観・生命観をあらわしているようで、それだけに彼の死を暗示しているようでした。

■詩だけでなく、独創的な曲や演奏も見事なドアーズの世界

詩人として、またセックス・シンボルとしてのロック・スターとして、ある時代のアメリカ社会に影響力を持ったジム・モリソンに注目が集まりますが、ドアーズ自体が素晴らしいプレイヤーの集団でした。バンドのサウンド・カラーを決定づけたレイ・マンザレクのオルガンはもちろん、ロビー・クリーガーはフラメンコを学んでいたギタリスト、ジョン・デンズモアもジャズを叩いていたドラマーです。ファースト・アルバム冒頭のドラムのリム・スティックひとつを聴いても、バンド自体のレベルも当時のアメリカン・ロックで抜けた存在であったことが分かります。似た音楽を奏でるバンドですら存在しない唯一無二のロック・バンドでした。

もし、ドアーズのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。