以前、高音質のレコードやCDを復刻制作しているMobile Fidelity Sound Lab(モービル・フィデリティ・サウンド・ラボ)というレーベルについての記事を書きました。良い音で古いカタログのレコードを聴けることは実に嬉しい事ですよね。

そして、モービル・フィデリティ・サウンド・ラボのように高音質でレコードやCDを復刻製造するレーベルは、他にもあります。有名どころでは、ANALOGUE PRODUCTIONS(アナログ・プロダクションズ)も、高音質レコード復刻レーベルとしてその名が知られています。

アナログ・プロダクションズが高音質復刻するレコードのジャンルは、ブルース、ジャズ、ロック、フォーク、クラシックと幅が広いです。個人的には、高音質もさることながら、良い状態で入手する事の難しくなった作品を復刻対象としているように見える事、そしてある時からはジャケット・アートも作品の一部と捉えているようなオリジナル・ジャケットへも配慮するようになったこと、こういうアナログ・プロダクションズの仕事は素晴らしいと思っています。

今回は、アナログ・プロダクションズについて、ご紹介させていただきます。

■音が良いとする根拠ってなに?

アナログ・プロダクションズは高音質を謳ったレーベルです。ところで、高音質と言えば、なにもアナログ・プロダクションズに限らずとも、大手レコードレーベルだって「24bitリマスタリング」のように、復刻の際にたいがいは高音質を謳いますよね。アナログ・プロダクションズの復刻するレコードは、どのあたりで高音質を担保しているのでしょうか。

メーカーの売り文句に従って言えば、3つあります。ひとつは、オリジナルのマスター・テープを使って復刻を行う事。ひとつは、重量盤でプレスを行う事。ひとつは、ある時期からはQuality Record Pressings(クオリティ・レコード・プレシング)という自社プレス工場を使ってプレスを行う事で製造ムラを無くした事です。

■オリジナルのマスター・テープを使う価値ってどれぐらいあるの?

盤の反りなどに強い重量盤が再生に有利な事は想像が容易です。それは分かるのですが、オリジナル・マスターテープが良いって、どういう事でしょうか。「オリジナル」という語感から何となく良い気はしますが、具体的には何が良いのでしょうか。

マスターがアナログだった時代のレコードは、プレス・マスターを製造する際に使ったマスター・テープがオリジナルであるかどうかは、音質を大きく左右する重要事項のひとつです。たとえば、アメリカで作られたジャズのレコードが日本でプレスされる場合、紛失などへのケアの観点から、オリジナルのマスター・テープをコピーしたものが本国から送られ、このテープからプレス・マスターが作られる事が常でした。一度ダビングが行われているわけですから、以降の作業がどれほど精度の高いものであれ、オリジナル・マスターを超えるファイデリティを確保する事は出来ません。

現在、ほとんどの音楽の録音やマスターは最初からデジタルです。途中で一度アナログを通す事はあっても、最終マスターはやはりデジタルとなる事がほとんどですので、マスターがデジタル化して以降のレコードに関しては、「オリジナルのマスター・テープを使用」といった事はメリットどころかその存在自体がないので起こりえません。この点は、アナログ・プロダクションズの設立事態に関わる項目でもあります。

■オリジナルのマスター・テープの使用と復刻タイトルとの密接な関係

アナログ・プロダクションズは、他のレーベルのカタログを復刻して大きくなったレーベルです。そのように復刻したカタログは、ピンク・フロイドやジミ・ヘンドリックスなどのように作品として単発で出されたものもありますが、カタログの一部は、シリーズ別にサブレーベル化されました。列記すると、Impulse! のリイシュー、Prestidge のリイシュー、RCA Living Stereo シリーズ、Blue Note リイシュー、Verve のリイシュー、DECCAのクラシック・シリーズなどがその一例です。

さて、これらのカタログをオリジナルのマスター・テープで復刻する価値はどこにあったのでしょうか。高音質での復刻以前に、ある程度まともな状態のアナログ盤を入手する事が難しくなっていたタイトルを、いま一度音楽ファンが触れる事の出来るようにしたことの方が優先事項だったのかも知れません。

私はクラシックも好んで聴くのですが、リビング・ステレオのオリジナルのレコードの一部などは、今となっては聴く事すら敵わない伝説のプレーヤーの演奏にもかかわらず、目にすること自体が難しく、また見つかったとしてもあまりに高額で、手に入れて聴く事などとうてい不可能です。そうしたレコードをどうせ復刻するのであれば、元の状態にもっとも忠実な形とするべくなるべく手を加えず、かつ実現できる限りの高音質を保証する形で…こう考えるのは自然ではないでしょうか。

オリジナルのマスター・テープを使った復刻の背景には、音質と同時に入手困難となってしまった作品のアナログ復刻もあった事は、カタログにもあらわれているのではないかと思います。

■アパートの一室から始まったアコースティック・サウンズとの関係

そのような入手困難となったレコードを高音質で復刻しようとした背景には、アナログ・プロダクションズの設立と密接に関係したものでした。

アナログ・プロダクションズは、1986年に創業者チャド・カシームが設立したアコースティック・サウンズAcoustic Sounds Inc. という会社の一部門です。スタートは小さなアパートの一室だったそうで、雑誌を通じて中古レコードの売買を行っていた会社でした。そのうちにカシームは、人気がありながらも古くて状態の良いものの入手が難しいレコードが数多くある事に気づき、そうしたレコードを良い音のまま復刻する事に踏み込みました。それが92年にスタートしたアナログ・プロダクションズでした。

「人気あるタイトルを高音質で」というだけでなく、「良い状態のものが入手困難な人気あるタイトルを高音質で」というスタイルが、創業時からあったわけです。

■そして…

個人の音楽ファンが小さなアパートの一室から始めたアコースティック・サウンズも、今ではプレス工場をアメリカに3つ持つほどの大きな会社に成長しました。良い状態のアナログ・レコードを良い状態で届けてくれるレーベルは、音楽やレコードのファンにとってもありがたい存在ですね。

そんなアナログ・プロダクションズのレコードは、専門の買い取り業者は高く評価しています。もし手放す事があるようでしたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。