ヨーロッパ芸術を音楽中心に眺めれば、バロック以降はやはりドイツ/オーストリアが中心地であったように思えます。しかし視点を美術などに移すと話は別で、この構図が大きく変わります。面白いのはスペインとイタリアで、特にイタリアはドイツに比べると音楽だけが突出しているわけでなく、美術や他芸術も発達している点に興味を惹かれます。バロック以降のイタリアの代表的な音楽家を取り上げても、バロックの夜明けとなったモンテヴェルディも、また「ウィリアム・テル」を書いたロッシーニ、「椿姫」のヴェルディ、「蝶々夫人」のヴェルディなどのロマン派以降の作曲家も、純音楽作曲家ではなく、文学や美術など他芸術とコラボレートした作品を生み出していました。

イタリアのプログレッシヴ・ロックを代表するバンドのひとつアレアは、キング・クリムゾンと双璧をなすプログレッシヴ・ロック最高峰の演奏技術を持つバンドでしたが、一方でいかにもイタリア的な脱境界性もあわせ持っていました。音響面だけを取りあげても、プログレッシヴ・ロック屈指の演奏能力は勿論、ロック、ジャズ、バルカン半島やアラビア音楽、果てはアヴァンギャルドまでが折り重なります。こうした多様性は音だけに留まらず、共産主義や精神疾患を含めた社会性を持った詩など、その背景には今では歴史に埋もれつつある、19世紀末から連なるヨーロッパ独特の強烈な思想潮流をも感じさせるものでした。

今回は、アレアの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただきます。

■Arbeit Macht Frei (Cramps, 1973)

アレアのデビュー・アルバムです。音楽面で言えばジャズ、ロック、そこに民俗音楽が融合した音楽で、緻密に書き込まれた曲が驚異的なテクニックで演奏されます。

注目は、のちにライブ定番曲となった「Luglio, Agosto, Settembre (nero)」で、演奏はまさにプログレやフュージョンのようなテクニカルなものでしたが、バルカン半島の民族音楽やクレズマーなどの影響を色濃く映す作曲面がいかにも独特です。

イタリアとバルカン半島は、アドリア海を挟んですぐの距離にあります。バルカン半島の民俗音楽は、ギリシャにしてもマケドニアにしてもまさに多様、ロマの影響が強い音楽からフォークダンスまで、とうてい同じ文化圏にあるとは思えない音楽が混在しています。それでもこの地域に共通する民俗音楽に舞曲があり、これは地域問わず似た傾向を持っています。つまり、この地域のフォークダンスは、難しいステップを踊りこなすこと自体が楽しみのひとつとなっており、それが複雑な変拍子(難しいステップを創り出すため)やアッチェル(曲がだんだん速くなる事)に繋がっています。「Luglio, Agosto, Settembre (nero)」はまさに変拍子とアッチェルにまみれていますが、その背景には、両親がギリシャ出身であるヴォーカリストのデメトリオ・ストラトスの出自があるのかも知れません。

■Caution Radiation Area (Cramps, 1974)

■Crac! (Cramps, 1975)

セカンドおよびサード・アルバムです。アレアのファーストからサード(ライブ盤を含めれば『Are(A)zione』まで)は音楽性がほぼ一貫しており、どれかひとつでも良いと感じれば、恐らくどれも最高に感じる事でしょう。少なくとも、クオリティの低い作品はひとつもありません。

驚異的な演奏面だけを取りあげるのであれば、『Crac!』はアレアのスタジオ・アルバム最高傑作。アレアがエレクトリック・マイルス以降に登場した優秀なフュージョン・バンドのひとつであった事は間違いありません。

しかしアレアがそうした枠に収まりきらなかった理由は、ある意味でイタリア的とも言える、音響外のものへもアクセスしていくその姿勢にあったのではないでしょうか。レコード『Caution Radiation Area』の収録曲「Lobotomia」は、かつて精神外科として用いられていた外科手術ロボトミーの事。しかし患者が感情を失ってしまうなどの重大な副作用があったために、今では行われていない前頭葉の切断手術です。日本でも、この外科手術を巡って殺人事件が起きた事がありました。音楽は、恐らくロボトミーの心的状況を音化したものと思われますが、これを音楽化するその姿勢に、アレアが何を目指して活動していたのか、その一端が垣間見える思いがします。

こうした社会性は、初期アレアの原動力でもありました。ファースト・アルバムのタイトル「Arbeit Macht Frei」は、ナチのアウシュヴィッツ収容所跡に残された碑文の引用であり、初期アレアを師事したイタリアのファンは、音楽以上にアレアの社会主義的な詩に拍手を送ったとも言われています。

■Maledetti (Cramps, 1976)

ライヴ・レコードを除けば、アレア4枚目のレコードです。アレアの音楽には、主となるジャズ、ロック、民俗音楽のほかにアヴァンギャルドの要素も入ってくる時がありますが、このレコードと、次のライヴ・レコード『Event ‘76』のふたつは、フリー・ジャズ/フリー・インプロヴィゼーションの世界で活躍するスティーヴ・レイシー (sax) とポール・リットン (percussion) とコラボレーションする事で、特に前衛色の強いものとなりました。部分的には狂気的なものまで感じます。

イタリアの前衛音楽と言えば、まずは「戦後の前衛三羽烏」と呼ばれた現代音楽作曲家ルイジ・ノーノが思い浮かびますが、ノーノもまた共産主義者でした。ノーノにしてもアレアにしても、その過激な前衛志向はサウンドだけの事ではなく、社会思想を背景に行われた行為自体の事だったのかも知れません。ちなみに、このレコードに収録曲「SCUM」は、アンディ・ウォーホルを銃撃したフェミニストであるヴァレリー・ソラナスの書いたマニフェストで、この世界から政府と貨幣を無くし、そして女性を抑圧する男を抹殺する旨が述べられています。怖いです。

■Concerto Teatro Uomo (Cramps, 1996)

77年にミラノのテアトル・ウォーモで行われたパフォーマンスが収録された2枚組ライヴ・アルバムです。オーディエンス録音のようで、録音状態は悪いのですが、異常とさえいえるほどのテクニックと熱気に満ちたそのパフォーマンスは強烈きわまるもので、間違いなくバンドのピークを記録しています。プログレッシヴ・ロックの中でこれに比肩する演奏があるとしたら、それは69年か73~74年のキング・クリムゾン以外にはないでしょう。

アレアを作り、みずからも卓越したヴォーカリストとして高く評価されたデメトリオ・ストラトスは、79年にこの世を去りました。70年代のアレアのレコードは、ライブ盤も含めて駄作なし、すべてが名盤と言える作品で埋め尽くされたまま、幕を閉じました。96年になってようやく陽の目を見る事になったこのアルバムがそうであるように、のちに未発表音源が数多く発表された事は、その証でもあるでしょう。

■レコード高価買取に関するあれこれ

プログレッシヴ・ロック熱の高い日本は、イタリア以外でアレアを評価してきた数少ない国です。20世紀中にファースト・レコード『Arbeit Macht Frei』をリリースした国は、イタリアと日本しかありません。共産主義的な内容を含むために西側諸国で発売しにくかった事情もあったのかも知れませんが、それがアレアのレコードのプレミア化に一役買っているように思われます。70年代アレアのオリジナル盤は、ひとつひとつ取りあげて書くまでもなく、すべてプレミア状態で、1万円超えもざらです。日本盤や再発盤も、伊オリジナル盤ほどではないにせよ、軒並み高額となっています。

もし、アレアのレコードを手放そうとお考えでしたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。思わぬ高額買取りレコードになるかもしれません。

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