14歳にしてすでに音楽の仕事をするも、麻薬禍によって50年代を棒に振り、モダン・ジャズ黄金時代も過ぎかけた60年代にようやくレコード・デビューするや、ジャズ・ギターの歴史を塗り替えるほどの演奏を聴かせたのがジョー・パスです。

歌伴でもソロでもすべて一流、ウォーキング・ベースとメロディの同時演奏をはじめそれまでのジャズ・ギターの常識を覆す演奏を連発、彼が記したジャズ・メソッドは後進のジャズ・ギタリストすべてが影響を受けたといっても過言ではないほどの足跡を残すものでした。もし私がモダン・ジャズ黄金時代のギタリストを人に薦めるとしたら、間違いなくジョー・パスとジミ・ホールのふたりをあげます。

今回はジョー・パスの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただきます。

■Joe Pass / For Django (Pacific Jazz, 1964)

パシフィック・ジャズからリリース、ジャズ・ギタリストとしてのジョー・パスの名を一躍有名にしたアルバムです。

タイトル通り、戦前の名ジャズ・ギタリストであるジャンゴ・ラインハルトに捧げられたアルバムで、10曲中4曲がラインハルトの手によるナンバーです。フランスで活躍し、「ジプシー・スイング」と呼ばれたラインハルトの書いたナンバーは、アメリカのクラシック・ジャズにはない洗練された曲想のものが多く、バップを通過したジョー・パスがそうした楽曲を演奏するところに独特な面白さを感じます。

このアルバムはセカンド・ギターを伴ったカルテッド編成で、ジョー・パスは和音をセカンド・ギターに任せ、メロディラインとアドリブ演奏に徹しています。後年、アルバム『Virtuoso 4』で再度披露する事になる「Limehouse Blues」の高速演奏は、これだけでジャズ・ギターの歴史に新しいスターが誕生したことを知らしめるに十分なものでした。

■Joe Pass / Intercontinental (MPS, 1970)

編成から見たジャズ・ギターには、独奏を除けば大きく3つに分ける事が出来ます。ひとつは伴奏をピアノなどの和声楽器に任せて自分は単旋律のアドリブを取るもの。先述の『For Django』はこれにあたります。ふたつ目は、サックスなど管楽器をフロントに置き、和声面を重視していくもの。これはリーダー作よりサイドマンとして起用される際によく出てくる編成です。そして3つ目が、ピアノも管楽器も排し、ギターが和声もメロディもひとりで弾いてしまうギター・トリオです。共演者に頼る事が出来ないギター・トリオがもっとも技術を問われる編成ですが、ジョー・パスの中でその代表的なレコードがこれです。

リラックスしたムードで、ボサノヴァなども取り上げるなど、ジャズというよりポピュラー・インストというムードも漂うアルバムで、和声とラインをひとりで演奏する演奏システムが実に巧み。クラシック・ギターやフラメンコのように、常に同時に演奏しているわけではないのですが、アドリブを交えながら両者を成立させたバップ系ジャズ・ギタリストは、ジョー・パスとジム・ホールのふたりが最高峰だったのではないかと思います。

■Joe Pass / Virtuoso (Pablo, 1973)

ジョー・パスの代名詞ともなったギター独奏アルバムです。モダン・ジャズの世界で、このアルバムより前に完全なギターソロがリリースされた例を私は知りません。アドリブを重視した音楽だっただけに、ギター独奏でそれを果たすのは音楽のリアリゼーションの面でも技術面でも大変なことで、ピアノ以外の楽器でそれを果たしたのは歴史的な事件だったでしょう。

若い頃のジョー・パスは、両親の開いているホーム・パーティーでリクエストされた曲なら、どんなジャンルの曲でも弾いていたそうです。このレコードや、デビュー時に契約したパシフィック・ジャズの作品を聴いても感じる事ですが、実際のところはジャズだけにこだわっていたわけでもないようです。ウォーキング・ベースをはじめ、ブルースやカントリーといった他のアメリカのギター音楽から流用されたと思われるテクニックが色々と混じっているところは、ある意味でアメリカのギター音楽を統合した音楽のようにも聴こえます。

このレコードは大変な評判となり、シリーズ化されて第4集までリリースされました。

■Carmen McRae / The Great American Songbook (Atlantic, 1972)

ひとり多重奏にテクニカルなアドリブと、ジョー・パスはギターのテクニックで評価されてきた面があり、実際にもそうした部分を押し出したアルバムが多く制作されました。ところが歌伴を務めると、ジョー・パスの演奏は途端に表現力に富む艶やかなものとなります。有名なのはエラ・フィッツジェラルドとのコラボレーションですが、ギターのサウンドメイクや録音の音質などを含めた総合点で最高傑作としてあげたいのが、カーメン・マクレエの歌伴を務めたこのライブ録音です。

曲や歌を生かすその演奏は見事というよりほかにありません。また、音色に無頓着なジョー・パスがこのライブでは実に素晴らしくギターをサウンドさせており、ギターレスで歌われていたところに、ギターソロがいきなり食い込む「Satin Doll」の入り、メドレーで素晴らしい演奏を聴かせる「Easy Living / The Days of Wine and Roses / It’s Impossible」は、ジョー・パスの最高演奏ではないかと言いたくなるほどの素晴らしさです。

■Quadrant featuring Joe Pass, Milt Jackson, Ray Brown, Micky Roker (Pablo, 1979)

セッション・ミュージシャンとしてのジョー・パスの力量を楽しむことが出来るレコードです。名を成したベテラン・ミュージシャンたちのセッションですが、古き良きジャズを懐かしむようなぬるさは微塵もなく、攻めの演奏が続きます。なんといってもジョー・パスとミルト・ジャクソンのアドリブが強烈で、「Joe’s Tune」ではなんとモード・ジャズにまで挑んでいます。

■レコード高価買取に関するあれこれ

『Catch Me』に並ぶ出世作『For Django』の64年USオリジナル盤は、モノとステレオの2種が存在します。ジャケットは類似しているのですが、モノ盤は表ジャケットに「Mono」と書いてあるのが特徴です。どちらもそれなりの値段になっていますが、ステレオ盤の人気が若干高いようです。UK盤はプレス元が変わるたびにジャケットが変わっていきましたが、初回の流通を受け持ったフォンタナ盤はその中でも比較的人気が高いものとなっています。

『Virtuoso』はさすがの名盤で、74年USオリジナルは5000円以上となる事が多い人気です。音楽的には第2集以降も同じことをやっているのですが、第1集がやはり一番人気のようで、ジョー・パスのアドリブを採譜した楽譜集も、その多くがこのアルバムからの曲を何曲か取りあげる事が多い人気となっています。

もし、ジョー・パスのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。