モダン・ジャズでもっとも有名なジャズ・ギタリストといえば、多くの人がウェス・モンゴメリーの名をあげるのではないでしょうか。60年代という、ジャズの潮目がハード・バップ全盛から次第に移っていく時代に、堂々とハード・バップ・スタイルを押し通して活躍。親指ピッキングやオクターブ奏法など、演奏に独特な署名を残す一方で、シングルラインでほぼ押し切るそのプレイ・スタイルはチャーリー・クリスチャン直系、アフリカン・アメリカンのジャズ・ギターの王道を行くものでした。

また、60年代後半から徐々にモダン・ジャズからポピュラーへと音楽を変え、若者むけではない大人の鑑賞に堪えるレイドバック・ミュージックを生み出しました。

今回は、ウェス・モンゴメリーの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただきます。

■Wes Montgomery / The Incredible Jazz Guitar of Wes Montgomery (Riverside, 1960)

ウェスは、50年代初頭にライオネル・ハンプトン楽団に参加しながら、その後故郷インディアナに帰って演奏活動を続けたキャリアを持っています。そのためか、60年代に発表されたウェスのアルバムは、有名な共演者があまり登場しません。しかしこのアルバムは特別。トミー・フラナガンやアルバート・ヒースなどのモダン・ジャズのビッグネーム揃いで、安定した王道のハード・バップを演奏、ウェス・モンゴメリーの出世作となりました。

■The Montgomery Brothers / Groove Yard (Riverside, 1961)

モンゴメリー家のファミリー・バンドである本作は、モダン・ジャズの世界では無名に等しかったメンバーたちによる演奏ながら、バンドの息も合い、ウェス自身も水を得た魚のようにはつらつと演奏。曲によっては後年では考えられないほどに挑戦的な演奏も聴かせてくれる、知られざる名作です。

単旋律の演奏ながら、ウェスの演奏は非常に和声的に聴こえますが、その理由のひとつはツーファイブというジャズ独特のコード進行でのアプローチにあるように感じます。この進行をするときのジャズは、ロックやポップスやロマン派までのクラシックと違い、和音を変化させてアプローチするのが常套手段となっています。ウェスの場合はそこでさらに代理コードと言われる和音をあてるので、それがシングルラインで演奏されても和声的に聴こえる大きな原因となっています。その最たる演奏が本アルバム収録の「Bock To Bock」でのアドリブ・パートで、高速で和音が変化していくかのように聴こえるフレージングと切れ味たるや神業級。ウェス・モンゴメリーのアドリブ演奏を聴くなら恐らくこれがナンバーワン、隠れ大名盤と思います。

■Wes Montgomery / Full House (Riverside, 1962)

ジョニー・グリフィン参加、メインストリーム・ジャズ期のウェス・モンゴメリー最高傑作にあげる人も多いアルバムです。高速で連なる16分音符がそのままテーマとなっている「SOS」は、このテーマ部分を弾けたらギター中級は卒業というほど難しいフレーズですが、ウェスはそれをとんでもないリズム感で弾きこなします。ウェスの素晴らしさのひとつに、ドラマー以上にグルーヴするリズム感をあげる事が出来ると思いますが、その好例がこの「SOS」での好演ではないでしょうか。ウェスには珍しいギター独奏を聴く事も出来るレコードでもあります。

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■Wes Montgomery / A Day In The Life (A&M, 1967)

リヴァーサイドとの契約が切れたあと、ウェスはヴァーヴ、そしてA&Mとレコード会社を渡っていくことになります。その過程でウェスはモダン・ジャズからポピュラーへと音楽性を徐々にシフトしていきました。その決定打となったレコードがビートルズの曲をアルバム・タイトルとした67年発表の本作です。

ムード・ミュージック調ですが、安易なイージー・リスニングではありません。アレンジャーにドン・セベスキーを配し、見事なスコアを完成させた管弦入りオーケストレーションで、それがウェスのムーディーなギターと見事に絡みます。同じA&Mレーベル作品でいえば、アントニオ・カルロス・ジョビンの大傑作『ウェーヴ』のような、レイドバックした大人の雰囲気のインスト音楽。ウェスの代名詞ともなったハイトーンを絞ったオクターブ奏法は、マイルドな音が合うこの時代の音楽に実にマッチしていました。

■ウェス・モンゴメリーのレコードで買取り価格が高いものはリヴァーサイド時代のアルバムに多い

リヴァーサイド時代のウェスのレコードは、USオリジナルではモノ盤とステレオ盤のふたつが作られる事が通常です。どちらが人気となるかはタイトルによるようですが、総じてモノ盤が買取り価格も高額になる傾向があります。ただしそれはもの次第で、たとえば出世作となった『The Incredible Jazz Guitar』でいえば、ジャケット上部が白抜きとなる初回ステレオ盤は、海外では3~4万円が相場。しかし上部が水色となるものは、その半分に達する事すら稀です。一方の60年USオリジナルのモノ盤は1万円超えが当たり前、場合によっては5万円近い値がつく事もあります。まさに「もの次第」といった感じです。

もし、ウェス・モンゴメリーのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。