今でこそドイツはハードロック/ヘヴィメタル系の音楽のヨーロッパ枢軸といえる状態ですが、ある時期まではオーバードースしたドラッグ・ミュージックやプログレッシヴ・ロックが中心でした。その中からハードロック系のバンドとして頭角をあらわし、ジャーマン・ロックの潮流を大きく変えたのが、スコーピオンズでした。ギタリストのルドルフ・シェンカーとヴォーカリストのクラウス・マイネを中心に、マイケル・シェンカーやウルリッヒ・ロート(のちのウリ・ジョン・ロート)などの名ギタリストを輩出。ジューダス・プリーストやホワイト・スネイクなどとともに、初期ヘヴィメタル・バンドのビッグネームとして名を残しました。

今回は、スコーピオンズの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただきます。

■Lonesome Crow (Brain, 1972)

スコーピオンズは、ジューダス・プリースト系の典型的なヘヴィメタルの様式にたどり着くまでに音楽性を色々と変えてきたバンドです。デビュー・レコードとなった本作(邦題は『恐怖の蠍団』)は、ハードロックよりもアート・ロックに近い音楽です。まるでドイツの暗い森の中に響く亡霊のような声、リート形式にこだわらない劇的構成の楽式など、独創性に富む音楽が響きます。

バンド全体が創り出す、そうしたアート系の音楽の前で看板に担ぎ出されているのが、のちに「ギター・ゴッド」の異名を取ったマイケル・シェンカー。バンドの中に一人だけプロが混じっているというほどの卓越したプレイを聴かせます。「It All Depends」や「Lonesome Crow」といったナンバーは、彼のインプロヴィゼーションを前提にしている曲といって過言ではありません。

マイケル・シェンカーが参加したスコーピオンズのレコードは本作のみ。ディープ・パープルやシン・リジィなど、デビュー・レコードがもっとも独創性に富みながら、評価を得ることが出来ずに音楽性を変えていったバンドがロックには多いです。スコーピオンズもそうで、スコーピオンズのレコードの中でもっとも独創性に富んでいたのはこのレコードではないでしょうか。

■In Trance (RCA, 1975)

マイケル・シェンカーがUFO に移籍、他のメンバーにも脱退者が相次ぐことで、アルバム1枚で活動休止を余儀なくされたスコーピオンズでしたが、ジミ・ヘンドリックスから強い影響を受けたウルリッヒ・ロート(のちのウリ・ジョン・ロート)をリード・ギタリストに迎える事でRCA との契約に成功。ドイツ屈指のハード・ロック・バンドへの道を歩む事になります。

『In trance』(邦題『復讐の蠍団』)は、ウルリッヒ・ロートが参加してから2枚目のアルバムです。路線はハードロック寄りのものですが、クラシックでもロックでも前衛志向の強いドイツが生み出したハードロックはある種のアヴァンギャルドさもあわせ持った独特のものでした。冒頭曲「Dark Lady」では、リフを刻むギターがハーモニクスを混ぜて音色を変え、ロートのリード・ギターはアーミングを多用してアウトします。

ジャケットもダーク。女性は明らかに何かを行為している姿勢と表情を浮かべています。もしこれがアメリカ制作のレコードであれば、似たようなデザインをしてもどこかに明るさや楽観性が見えた気がしますが、どこまでも暗く背徳的なムードが漂うのはドイツゆえかもしれません。

■Virgin Killer (RCA, 1976)

同じくロート在籍時代のアルバムですが、アート・ロック的な側面を持っていたスコーピオンズが、よりシンプルでストレートなハードロックへと舵を切ったレコードです。これでスコーピオンズの人気はヨーロッパから世界へと広がりました。日本でのスコーピオンズの人気も、このレコードからでした。

本作がハードロック/ヘヴィメタル路線のスコーピオンズのスタートである事は間違いないですが、それは同時にドイツがヨーロッパ随一のヘヴィメタル産出国として歩み始めた狼煙でもありました。明るい曲を演奏してすらどこかエキセントリックさを感じる独特の雰囲気は、音楽だけでなく、全裸の少女の股間から亀裂が入るという、恐らくロックでもっとも過激なジャケットにもあらわれたように感じます。

■Love At First Sting (RCA, 1984)

80年代以降のスコーピオンズは、悪く言えば画一化されたヘヴィメタルの養子期に嵌まりもしましたがが、よくいえばヘヴィメタルという音楽スタイルの洗練をきわめたバンドという事も出来るでしょう。マティアス・ヤプスの強烈なライトハンドから幕を開ける「Bad Boys Running Wild」、恐らく世界で最も多く聴かれたスコーピオンズの曲「Rock You Like a Hurricane」といった強力なナンバーを含むこのレコードは、ジャーマン・ロックというよりも、汎メタル・ミュージック。実際にスコーピオンズがアメリカでもっとも高く評価されたのも、この時期でした。

■レコード高価買取に関するあれこれ

『Lonesome Crow』をリリースしたBrain というレーベルは、ノイ、グルグル、クラウス・シュルツェといったクラウト・ロック系のレコードをたくさん紹介してきたジャーマン・ロックの名レーベルのひとつです。スコーピオンズがまだブレイク前だった事もあり、ゲートフォールド仕様である72年ドイツ盤『Lonesome Crow』は、驚くほどの高額をつける事があり、私が見たものでは5万円近い値をつけたものもありました。そこまで行かずとも、レコードであれば高値がつきやすいレコードです。

サード・アルバム以降のスコーピオンズのレコードは、ジャケットデザインが淫靡なものが多く、禁忌のアートワークとして一定の人気を集めています。『In Trance』は、よく見ると女性がトップレス。CDではなくレコードで持っていたいアルバムのひとつでしょう。これも現在一定以上の評価を受けています。

同一路線では『Virgin Killer』の少女ジャケットは、世界で発禁やジャケット差し替えとなった事から、需要に比べて供給が明らかに少なく、つねに一定以上の値をつけています。日本はある時期まで少女ジャケットのままリリースされ続けていたので、昔はあまりそういうイメージはなかったかもしれませんが、今は違います。

もし、スコーピオンズのレコードを譲ろうとお考えでしたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。思わぬ高額買取りレコードになるかもしれません。

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