1970年代後半に起きたロック最大の衝撃は、パンク・ロックの台頭ではないでしょうか。パンク・ロックに繋がる音楽的な動きは色々とありましたが、「パンク」と呼ばれるようになった動きはニューヨークのラモーンズなどが先鞭をつけ、ロンドンのセックス・ピストルズのデビューによって本当の衝撃となりました。
自由主義のキリスト教圏で「俺はアンチキリストだ」「ファシスト政権がお前らを低能にしていく」と反体制的な詞を叫び、王制を残すイギリスで女王陛下の目と口を覆い隠すレコードジャケットを発表。ステージでは行く先々でスキャンダルをまき起こし、ヴォーカルのジョン・ライドンは左手を刺されます。
権力や持つ者が持たざる者を押さえつけ始め、正論を口にする事ですら憚られるような社会ムードの中で、「お前らはファシストだ」「ムカつく奴らだ、ぶっ潰せ」と叫ぶ人が出たら、どうなるでしょうか。熱狂的な支持と、それとは正反対の罵倒やもみ消しが同時に起きるのではないでしょうか。それがセックス・ピストルズという現象だったのだと思います。
今回は、セックス・ピストルズが唯一残したスタジオ・アルバム『Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols』の中で、特に人気が高いレコードを紹介させていただきます。
■『Sex Pistols / Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols』について
邦題は『勝手にしやがれ』、セックス・ピストルズ唯一のスタジオ録音アルバムレコードです。ロックファンに限らず、このジャケットを知らない音楽ファンはいないのではないかというほど有名なアルバムですが、現在だとこのアルバムデザインの意図は伝わりにくいかもしれません。昔は、政治犯などが犯行声明文を発表する際に、筆跡鑑定をされないように新聞の文字を切り貼りしたのです。つまり、詞だけではなく、視覚面でも「犯行声明」のようなイメージ戦略を打っていたわけです。パンク・ロックというと「やりたい放題」なイメージがあるかも知れませんが、少なくとも販売戦略においては相当に周到に仕掛けられたブームだったことが、こういう所でも分かります。
失業率や貧富の差の拡大が問題になる中、それでも維持され続けるイギリス王室や政治構造に向けられた痛烈な皮肉「God save the Queen」。セックス・ピストルズとの契約を破棄したレコード会社EMIを攻撃する「EMI」。メッセージがより直接的な「Anarchy In The UK」。スタジオ・アルバムがこれしかないのですから当たり前と言えば当たり前ですが、セックス・ピストルズの代表曲はすべてこのアルバムで聴くことが出来ます。また、70年代末のパンク・ムーヴメントの核心に何があったのかは、このアルバムに収められた曲の詞にあらわれているのではないでしょうか。
このアルバムは発表までにドラマがありました。このアルバムはヴァージン・レコードから発表されていますが、ヴァージンに先駆け、最初はEMI レコード、続いてA&M がピストルズと契約していました。ところがピストルズの素行の悪さから契約破棄が繰り返されて権利関係が複雑化、さらに話題が広まる事でデビューアルバム以前に海賊盤が先行リリースされそうな事態となりました。それに対応しようとしたことや、UK,盤以外の各国盤との整合性を図ったことなどから、『Never Mind the Bollock』のレコードは数多くのバージョンを生むことになりました。
■UK初回11曲盤
『Never Mind the Bollock』は、予約販売だけで12万枚を超えたと言われていますが、海賊盤の流通よりも前に発表する必要に迫られ、ヴァージンはイギリスでの発売を急ぎ、1977年の10月中旬から約半月にかけて発表された初回盤のみ、特別な形になる事になりました。
こうしてUK初回盤は12曲入りのはずが、「Submission」を除く11曲入りの状態でリリースされる事になりました。曲順も、のちに発売になった12曲版と異なります。このレコードは、元々はプロモーション盤として使う予定だったという話もあります。最もはやく市場に投下された11曲盤は、裏表紙に曲クレジットが入っていません。11曲入り無地裏ジャケットは、今でもなかなかの値段がついています。
■UK11曲盤 ポスター、ステッカー、特典EP盤セット
『Never Mind the Bollocks』は、この後に12曲入りフランス盤が出る事になります。この12曲入りフランス盤の流入を考慮したのだと思いますが、イギリスでは次に裏ジャケットに「Submission」を除く曲名の印刷された11曲盤がリリースされました。ポスター、ステッカー、そして景品として「Submission」の入った片面EPがセットとなる形です。
このバージョンは今も人気が高く、EP、ポスター、ステッカーが完備となると高額で取引されています。レコードのラベルは青のヴァージンです。
■UK12曲盤
初回発売のUK11曲入りの販売期間は非常に短く、約半月ほどです。そこから約半月後となる77年11月からのUKプレスは、現在も一般に伝わっている曲順に並べ替えられた12曲入りとなっています。しかし、レコード番号は初回プレス11曲版と同じ「V2086」で、青ヴァージンラベルです。80年代の再発以前の『Never Mind the Bollocks』は、ピクチャーラベルを除くと青ヴァージンラベルである事は、コレクションする際の目安になるかも知れませんね。
この12曲入りにも人気盤がいくつかあります。とくに、1978年1月プレスのUK盤はピクチャーディスクです(しかしレコード番号はやはり「V2086」のまま)。このピクチャーラベルも人気があります。
■US盤 ジャケット配色違い
黄色いジャケットが有名な『Never Mind the Bollocks』ですが、配色違いのジャケットを見た事がある方も多いのではないでしょうか。中でも有名なのが、US盤のピンクとグリーンの配色のものです。
セックス・ピストルズのレコードはコレクターが多く、『Never Mind the Bollocks』だけで何枚も持っている人が少なくありませんが、配色違いのUS盤は「2枚目のトップ人気」という所でしょうか。
■セックス・ピストルズのレコードはビートルズやストーンズに迫るほどの人気
ジョニー・ライデン脱退までの初期セックス・ピストルズは、アルバム1枚とシングル4枚を残しています。ヴァージン以前に契約したA&Mでプレスされた幻のシングル『God Save the Queen』が200万円超えで取引されるなど、EP盤もすさまじい人気があるのですよね。今回は記事に書きませんでしたが、「犯すのは君だ」のコピーが有名な日本盤帯つき『勝手にしやがれ』なども人気があり、レア盤、人気盤の宝庫です。しかしバリエーションが多いだけに、その違いや価値を見極めるのは、ロックのレコード専門業者でないと、なかなか難しい状況です。
もし、セックス・ピストルズのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。