60年代の日本のグループ・サウンズ(略してGS)のブームは、ビートルズやモンキーズなどの英米アイドルバンドの日本フォローというイメージが強いです。沢田研二擁するザ・タイガースや、堺正章やかまやつひろしを擁したザ・スパイダースなどの音楽を聴くと、たしかにそう感じます。

当時は、ロックをやると言っても、楽器を手に入れる事も、演奏や音楽理論を学ぶ事も難しい時代。それだけに、多くのグループ・サウンズの演奏は、いま聴くとお世辞にも優れているとは言えません。曲もアレンジも極端にモノフォニーで、歌と楽器がシンコペーションせずに同時進行してしまう稚拙さを感じるほどです。

こうした、まだロックを学び始めたばかりだった日本のGSのグループの中に、極端に演奏能力の高いグループがふたつありました。ゴールデン・カップスとモップスです。特にモップスは、デビューアルバムにして英米の名だたるサイケデリック・バンドの曲を収録するなど、グループ・サウンズと呼ぶにはあまりにロックなグループでした。

今回は、モップスのアルバムの中で、名盤の評価を受けるとともに、高額での買い取りが見込めるレコードを紹介させていただきます。

■サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン(Victor, 1968)

モップスのデビューアルバムです。オリジナル曲のほかに、ジェファーソン・エアプレイン「Somebody to Love」「White Rabbit」、アニマルズ「San Franciscan Nights」「孤独の叫び」、ドアーズ「ハートに火をつけて」などが収録されています。フォーク・演歌・昭和歌謡が日本のチャート音楽の多くを占めていた時代に、相当に突き抜けた存在だったのではないでしょうか。

ただし、演奏やバンドアレンジの能力は後年の素晴らしいレベルにはまだ達しておらず、今からすれば、エイプリル・フール、ブルース・クリエイション、フラワー・トラベリン・バンドなどよりも早く日本でロックを演奏していたという記録的な意味合いが強いアルバムかもしれません。

このレコード、オリジナル盤は1968年に発表され、78年にはタイトルと想定を変えて再発されます。黎明期の日本のロックの評価は海外の方が高いと言えるほどの現状ですが、68年盤は、国内外でレア盤として高値がついています。78年盤も高値がつく状態です。

■御意見無用 iijanaika (Liberty, 1971)

60年代後半、様々なスタイルの登場によってロックは一気に進化しましたが、その中にニュー・ロックやアート・ロックと呼ばれた音楽がありました。実験性を持つブルース・ロックや、サイケデリックな感覚を持つ音楽がここに含まれましたが、71年発表のこのアルバムは、当時の英米のニュー・ロック/アート・ロックと比べても遜色ない楽曲と演奏能力を持つ素晴らしいアルバムでした。もし、GSと思ってモップスを聴いていないロック・ファンの方がいましたら、このアルバムを聴いていないのは大きな損です。

裸の女が蜃気楼のように浮かび上がる見事なアートワークも魅力のひとつであるこのアルバム、やはりアナログ盤が人気です。

■雷舞 (Liberty, 1971)

ロックバンドとしてのモップスの素晴らしさを知るなら、このライブ盤が最適ではないでしょうか。「GSにしてはロックがうまい」などというレベルではなく、現在に至るまで日本のニュー・ロック/ブルース・ロック最高峰のアルバムのひとつであり続けている大名盤です。

この素晴らしさの主人公は、ギターの星勝ではないでしょうか。ビートルズ「抱きしめたい」はサイケデリックなブルース・ロック調にアレンジされ、星勝によるポール・コゾフばりの見事なファズギターが炸裂。ほとんどインスト曲と言っていいほどハードに楽曲を展開させる「Gimme Some Lovin’」は、ギターがオーケストレーションのほとんどです。良くも悪くもモップスを有名にした「月光仮面」では、Tボーンウォーカーからエリック・クラプトンへと引き継がれた6度/9度を使うモダン・ブルース・スタイルを聴くことが出来ます。オリジナル曲「年老いた娼婦の唄う詩」は、フリーやサイケ時代のアニマルズに匹敵するレベルの楽曲と演奏です。

これも国内外でアナログレコードの評価が高く、帯つきで盤の状態さえよければ、1万円越えが当たり前の状態となっています。

■雨 モップス’72 (Liberty, 1972)

モップスは、英米ロックの優れたカバーバンドというだけに止まらず、素晴らしい曲を多く残したバンドでもありました。バート・バカラック、ポール・マッカートニー、カーペンターズなど、戦後の西洋ポップスで名曲を数多く書いた作曲家の楽曲の特徴は、一時転調をどれぐらいうまく使えるかではないかと思うのですが、モップスはバンド編成でこれを見事に果たしたバンドでもした。その最たる例が、このアルバムに収録された「雨」「夕暮れ」「迷子列車」といった楽曲ではないでしょうか。

■GSというよりも、日本最初の本格的なロックバンド

グループ・サウンズ期に登場したからGSに区分けされているだけで、実際のところは日本最初期の本格派ロックバンドというのが、モップスの実際の姿ではないかと思います。サイケ、ブルース・ロック、ニュー・ロックと進化し、海外の名ロックバンドと遜色ないほどの演奏と楽曲を残したモップスは、解散後も国内外で何度も再評価され、それが現在のレコード価格に反映されているのでしょう。

もし、モップスのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。