50年代後半にジャズ界に登場したのがローランド・カークです。いくつもの管楽器を口や鼻で同時に鳴らすマルチ・インストゥルメンタリストにして、アドリブを取ればハード・バップの一線級のプレーヤーに引けを取らない演奏を披露。フルートを吹けば声と楽器の音を混ぜる表現を行うなど、圧倒的な実力と無類の個性を発揮しました。初期はハード・バップを軸にしたものでしたが、次第にオリジナル曲で個性を発揮。さらにジャンルに拘らないブラック・ミュージックまで創り出すに至りました。
今回は、ローランド・カークの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただきます。
■Roland Kirk / Triple Threat (King, 1957)
デビュー・レコードです。当然のように2管クインテットかと思って聴いていたのですが、クレジットを見るとワンホーン・カルテット。マルチ・インストゥルメンタリストとは知っていたものの、これ程までとはと驚きました。なお、オーバーダビングもあり、音楽から察するにテーマ部分の複数管の和音演奏がマルチ演奏、ツーコースのアドリブがダビングと思われます。
しかし本当の驚きは曲芸的なマルチ演奏ではなく、テナー・サックスの演奏の素晴らしさではないでしょうか。音楽はオールド・ジャズからハード・バップにかけてのスタイルで、その中で達人級のアドリブ演奏を聴かせます。インプロヴィゼーションの見事さはもちろん、アーティキュレーションにおいてはジョン・コルトレーンやソニー・ロリンズよりも上ではないでしょうか。
■Roland Kirk / Domino (Marcury, 1962)
それまではワンショット契約(レコードごとにリリースの契約をする事)だったローランド・カークが、はじめてレーベル契約したのが、ジャズの名門マーキュリーでした。このレコードはマーキュリーからの第2弾アルバムです。
それまでハード・バップをベースに、卓越したアドリブやひとり多重奏といった大道芸的な演奏を売りにしてきたカークですが、このアルバムでは半分の曲で作曲を行い、これが独創性に優れたものとなります。ここで独創的な演奏と曲が揃い、ついにローランド・カークという音楽ジャンルが登場。セロニアス・モンクのようにねじれたテーマを持つ「Meeting on Termini’s Corner」、マルチ・インストゥルメンタリストとしての技が曲とリンクする「Roland」、「3-in-1 Without the Oil」など、作曲面でのカークの才能を聴くならこのレコードが一番でしょう。
■The Roland Kirk Quartet / Rip, Rig and Panic (Limelight, 1965)
ジャキ・バイアード、リチャード・デイヴィスやエルヴィン・ジョーンズといったメインストリーム・ジャズの超大物たちとカルテットを組んだレコードです。コルトレーンゆかりのメンバーを揃えた真の理由は、恐らくコルトレーン・カルテット級のモード演奏を見据えたラスト・ナンバー「Slippery, Hippery, Flippery」。これだけの大物たちとバックに従え、強力なフロントマンとして機能するカークの演奏は見事で、ジャズ・ミュージシャンとしてのローランド・カークの頂点を示すレコードと思います。
レーベルはマーキュリーからライムライトに移行していますが、ここはマーキュリー参加のサブレーベル。つまり、ライムライトまでがマーキュリー期のローランド・カークであり、ここまでが音楽もメインストリーム・ジャズの流れにあったローランド・カークと言えるかと思います。
■Roland Kirk / The Inflated Tear (Atlantic, 1968)
アトランティックに移籍してからのローランド・カークは、メインストリーム・ジャズだけでなく、同時代のソウルやR&B をはじめ、ブラック・ミュージック全般を手にかけて独特のアフリカン・アメリカン・ミュージックを作るようになっていきました。邦題に『溢れ出る涙』とつけられたこのレコードは、そうした色がはっきり出ています。スピリチャル/ゴスペル調、デューク・エリントン、ジョン・コルトレーンばりの演奏を聴かせるモード曲など、独創性は加速。ローランド・カークのアルバムの中でも評価の高いレコードになりました。以降のカークは、『Volunteered Slavery』や『Blacknuss』といったレコードで、さらにソウル/R&B系の音楽に近づきました。
■Roland Kirk / Left & Right (Atlantic, 1969)
ラージ・コンボにストリングスが加わる大編成に、20分近い組曲を含む、ローランド・カーク生涯きっての大作です。アレンジャーはギル・フラー、組曲にはアリス・コールトレーンが参加してスピリチャル・ジャズ色を強めるなど、音楽の独創性も抜群です。また、どこかでエンターテイメントな要素を入れがちなカークの音楽の中では、相当にシリアスに作品を構築しているのも特徴です。レコードB面は、シリアスな組曲とは打って変わってジャズ・ジャイアンツたちの曲を取り上げ、ハートウォーミングな内容。自由民権運動や反ベトナム戦争といった当時のアメリカ社会の気風の中で、カークはジャズやソウルといった垣根を超え、汎アフロ・アメリカン・ミュージックというものを構想していたのかも知れません。
■レコード高価買取に関するあれこれ
デビュー・レコード『Triple Threat』のオリジナルはキングからのリリースでしたが、製造数が少なかったようであまり流通せず、今では10万円以上をつけるほどの激レアのプレミア盤となっています。しかしさすがはスター・プレーヤーのデビュー作でもあり名演でもあるので、ベツレヘム、アフィニティ、アベニューといったレーベルによって再発され続けました。気をつけないといけないのは、再発の際には『Third Dimension』『Early Roots』とタイトルが変わる事です。なお、ベツレヘム盤『Third Dimension』は62年が初リイシューですが、これも1万円超のプレミア状態です。
エルヴィン・ジョーンズ参加『Rip, Rig and Panic』は、USオリジナルはモノとステレオの2種があります。この中にはゲートフォールドにさらに細工を施してポップアップ(飛び出す絵本のような仕組み)となった特殊ジャケット盤があり、これは高値がつく事が多いです。また、UK盤はジャケット違いとなり、やはり高値となる事があります。
人気レコード『The Inflated Tear』もモノとステレオの2種があり、どちらもUSオリジナルはプレミアです。ただし、USオリジナルでなければ、意外に入手しやすい価格に落ち着く事が多いです。
大作『Left & Right』は、日本では出回り数が少ないです。しかし音楽の内容はカーク最高傑作と言っても過言でないほどの折り紙つき、さらにジャケット・デザインの素晴らしさもあり、高値を付ける事があります。ちなみに、2022年8月現在の某ネットオークションでの最低価格は9000円台でした。
もし、ローランド・カークのレコードを譲ろうとお考えでしたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。思わぬ高額買取りレコードになるかもしれません。
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