母国で生きていけなくなった人々が再起を図ったフロンティア・スピリットと、その道が容易ではなかった事。このコンプレックスがそうさせるのか、アメリカ合衆国の民衆は定期的にタフガイたる英雄を生んできました。リンカーン、ヘミングウェイなどもそうですが、こうした英雄像は、20世紀に入って大衆文化にも領域を広げていきます。ハンフリー・ボガートやスティーヴン・セガールなどもその例ですが、ジャズ・シンガーとして世に出て、ポピュラー音楽にまで領域を広げたフランク・シナトラは、それらとはまったく違う英雄像をアメリカにもたらしたのではないでしょか。最終的には、ミュージシャンというレベルを超えた文化的符号を持つ象徴的存在にまでなったシンガーだと思います。
今回は、フランク・シナトラの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただきます。
■Tommy Dorsey, Frank Sinatra / The Dorsey/Sinatra Sessions 1940-1942 (RCA, 1972)
映画『ゴッドファーザー』に、マフィアのボスが銃を突きつけ、歌手の楽団移籍をまとめるシーンがあります。フランク・シナトラがハリー・ジェイムス楽団からトミー・ドーシー楽団へと移籍する際を描いたものといわれているシーンです。
白人スイング・ジャズのレイドバックした心地よさと、6ブラスなどの高度なアンサンブル・ライティングの同居した音楽は、さすが世代を代表する白人ビッグ・バンドのひとつと思わされました。その中でのフランク・シナトラのヴォーカルは、まるでバンド・アンサンブルに溶け込むかのように優雅。事の善悪はともかく、フランク・シナトラは移籍したトミー・ドーシー楽団で一躍名をあげる事になりました。
■The Voice of Frank Sinatra (Columbia, 1946)
フランク・シナトラ初のソロ・アルバムです。おすすめなデビュー作にして全米1位を獲得しました。例外はありますが、曲のほとんどがストリング・カルテットと木管楽器という伴奏。フランク・シナトラは張る事のないソフトな声で語るように歌います。品格と親しみやすさ、知性とレイドバック感覚の同居した音楽です。
この音楽や歌を聴いて、私はジャズよりもアメリカン・フィフティーズのバラードに近いと感じてしまいます。考えてみれば、フランク・シナトラがジャズのビッグ・バンド楽団以前に参加していた「ホーボーケン・フォー」は4声コーラスのグループであり、ジャズではありませんでした。もともとそういう素養のヴォーカリストだったのでしょう。カウボーイ・ソングやブルーグラスなど、前例はあるのでシナトラが元祖というわけではないでしょうが、しかしフィフティーズ直前に大流行した事を考えると、直接の影響を与えたのはシナトラだったのかも知れません。
■Swing Easy! (Capitol, 1954)
デビューから15年ほどのフランク・シナトラの集大成とも言えそうなのがこのアルバムです。音楽はどこを切っても爽快なスイング・ジャズ。シナトラの歌唱も素晴らしいです。シナトラの全盛期を、翌年発表『In the Wee Small Hours』以降と見る人もいるかと思いますが、こと歌唱力に関して言えば、ここまでがシナトラの全盛期。初期シナトラの音楽は、アメリカン・エンターテイメントという事も出来ると思うのですが、その中でも特に爽快なレコードです。
■In the Wee Small Hours (Capitol, 1955)
世界初のコンセプト・アルバムとも言われているレコードです。このアルバムからフランク・シナトラはシンガーだけでなくアーティストとしての顔を持つようになりました。
「wee hours」とは真夜中という意味で、この言葉をなぞるように、全編にわたってウィズ・ストリングスのスロー・ナンバーが内省的な音楽を紡いでいきます。このストリングス・アレンジを担当したのがネルソン・リドル、聴いていてゾクッと来るほどに見事なアレンジを行いました。以降のシナトラとネルソン・リドルのコンビは名作を立て続けに生むことになりました。私がもしフランク・シナトラのレコードから1枚を選ぶとしたら、間違いなくこのアルバムです。
■Sings for Only the Lonely (Capitol, 1958)
これもフランク・シナトラとネルソン・リドルのコンビが生み出したウィズ・ストリングスの傑作のひとつです。テーマは「Only the Lonely」、しかしシナトラの肖像画にピエロのようなメイクが施され、血の涙を流している所からは、単に孤独を歌っただけのコンセプト・アルバムでない事を暗示するかのようです。
ヨーロッパ移民が中心となって建国したアメリカ合衆国白人が担ぎ出した英雄像は、イギリス系や第2移民となった別のルーツを持つもので若干異なりますが、その多くが典型的な英雄でありタフガイ。ところがフランク・シナトラは、デビューからしばらくはやさしい声で歌う優男であり、50年代なかばからは都市生活者の孤独やナーヴ差を前面に出しました。これは、人種差別問題など数多くの問題を抱えた現代の合衆国の英雄像が、タフガイという単純なものではうまくいかなくなったことを暗示していたのかも知れません。
■レコード高価買取に関するあれこれ
『The Voice of Frank Sinatra』は、もともと10インチSP盤4枚組という形でリリースされました。このSP4枚組には裏ジャケットにバリエーションがありますが、4枚組を見つけるだけでも貴重な状態なので、そこまでこだわってコレクションするのは大変かもしれません。
『Swing Easy!』は、元々は8曲入りの10インチ・レコードとしてリリースされ、のちに12インチLPとしてボーナス曲を追加した12曲入りとして再リリースされました。10インチ盤は貴重で、高額になる事が多いです。
『In the Wee Small Hours』は、リリースとなった55年の時点で、10インチ盤2枚に分売されたものと、12インチLPにひとつにまとめられたものの二種が混在していました。どちらも貴重ですが、12インチUSオリジナルは数万をつける事もあり、より人気が高いようです。
『Sings for Only the Lonely』は、モノ盤とステレオ盤があります。人気作だけに出回り数が多く、価格は大変にやすいものから高額まで様々です。58年リリースの日本赤盤は海外で数万をつける事があります。これは希少価値のほか、日本のユーザーはレコードを大事に扱う傾向があるという面も影響しているのかも知れません。
もし、フランク・シナトラのレコードを譲ろうとお考えでしたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。思わぬ高額買取りレコードになるかもしれません。
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