モダン期のジャズ・ピアノを大別すれば、アフリカン・アメリカンがバップへと発展させていったものと、50年代に西海岸に集まった西洋音楽の教養あふれる白人ピアニストが発展させたもの、このふたつの流れがあります。40年代に生まれたビバップは、ジャズに新しい語彙を生み出し、以後に続くジャズの基礎となりましたが、クラシックの教育を受けていたピアニストたちは、そこに近代的なヴォイシングを施して音楽を発展させていきました。

その代表格としてビル・エヴァンスをあげる事が出来ますが、ビル・エヴァンスと同じリバーサイドからデビューしたドン・フリードマンも記憶に残るひとりでした。また、ドン・フリードマンは、ビル・エヴァンス的なジャズのヴォイシングに留まらず、さらに挑戦的な音楽を目指していったミュージシャンでもありました。

今回はドン・フリードマンの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただきます。

■Don Friedman Trio / Circle Waltz (Riverside, 1962)

ドン・フリードマンの演奏するジャズは、比較的オーソドックスなものと、かなり先鋭的なものに分かれます。前者の代表的なアルバムとして知られるのが、62年発表のこのレコードです。ヴォイシングやリハーモニゼーションなど、今となっては王道のジャズ・ピアノと言える演奏ですが、こうしたスタイルを作り上げたのがビル・エヴァンス、スティーヴ・キューン、ドン・フリードマンといったクラシックの素養を持ちながらバップの語法も身につけたピアニストたちでした。

ビル・エヴァンス以上にエレガントな演奏を聴かせる「Circle Waltz」などは、現代に繋がるピアノ・トリオのルーツとも言える規範的な演奏ですが、「In your own sweet way」のオープンパートでは8音音階にも踏み込み、すでにニュージャズ的な片鱗すら垣間見ることが出来ます。

なお、このトリオでベースを弾いているのはチャック・イスラエル。さらに、フリードマンはこのレコードの前年にスコット・ラファロとも共演しており(アルバム『Memories for Scotty』に収録)、共演者もビル・エヴァンスと共通しており、バップを発展させたピアノ・トリオのスタイルを築きあげたオリジネイターのひとりとも言えるのかも知れません。

■Don Friedman Quartet featuring Attila Zollar / Dreams and Explorations (Riverside, 1965)

ドン・フリードマンのもうひとつの顔である、先鋭的なニュージャズへと初めて踏み込んだ作品です。曲中で変化するテンポやリズム、長調にも短調にも属さない音階音楽への接近など、類を見ない独特な音楽が生み出されています。なお、レコードのサイドBはオーソドックスなジャズに戻りますが、それもレコード『サークル・ワルツ』のようなエレガントさは影を潜め、アグレッシブな演奏が続きます。

先鋭的な音楽へと踏み込んだ理由のひとつは、ギタリストのアッティラ・ゾラーでしょう。フリードマンとゾラーは盟友ともいえる間柄で、互いが相手のアルバムに参加しており、また互いが参加したアルバムが最高傑作と言えるものに仕上がっています。ゾラーは『The Horizon Beyond』というジャズ史に残る名アルバムを残していますが、フリードマンはそのアルバムにメンバーとして参加しており、『The Horizon Beyond』とこのレコードでは2曲が共通しています。

■Don Friedman / Metamorphosis (Prestige, 1966)

レコード『Dreams and Explorations』ではサイドAとBで別の音楽を描き分けたフリードマンでしたが、本作でついに先鋭的な音楽に徹したレコードを完成させることになりました。オーソドックスなジャズとニュージャズのどちらのフリーマンが好きかは人それぞれでしょうが、創造性でいえばこのレコードがドン・フリードマンの最高到達点ではないでしょうか。

本作にもアッティラ・ゾラーが参加、曲もほぼ二人が書いていますが、1曲だけ取りあげられた他の曲の作者がサード・ストリームの極限にあったジミー・ジュフリーである所にも、このアルバムの先鋭的傾向があらわれています。また、リズム・セクションを固めるのがリチャード・デイヴィスとジョー・チェンバースであり、演奏面でも一流の達人技を聴く事が出来ます。

■レコード高価買取に関するあれこれ

ピアノ・トリオの名盤と知られる『Circle Waltz』は、ものによって価格が大きく異なりますが、意外にもなかなかリイシューされなかったレコードでもあります。62年発表のUSオリジナルはモノとステレオの2種類がありますが、どちらも高額となっています。中でも青ラベルとなるモノ盤は1万円超えが当たり前の状態です。

『Dreams and Explorations』は、US盤しかリリースされた事のない貴重なレコードです。65年当時はモノ盤とステレオ盤の2種がリリースされましたが、ファンタジーがリイシューした際にはモノ盤しか製造されませんでした。現在、決して高い値がついているわけではありませんが、出回り数が多くなく、しかし音楽的には大変に高度である事は間違いないので、今後65年ステレオ盤は値を上げていくかもしれません。

もし、ドン・フリードマンのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。