カナダに生まれ、1950年代にバップ系のジャズを演奏してレコードデビュー。以降はオーネット・コールマン周辺のミュージシャンに重用された事をきっかけに、フリー寄りのジャズ・シーンで頭角をあらわしたピアニストが、ポール・ブレイです。そんなポール・ブレイが、いよいよ独自の音楽世界を作り上げ、その真価を発揮した最初のレコードが、1963年にサヴォイからリリースされた『Footloose』でした。しかしこのレコードでポール・ブレイがやった事は時代の先を行きすぎたのか、あまり注目されないまま、幻のレコードとして一度は忘れられた幻の一枚でした。

今回は、音楽面から見たジャズにとっても、ポール・ブレイにとって大きなマイルストーンとなった大名作レコード『フットルース』を取り上げさせていただきます。

■ジャズ最先端を行く楽曲

今のジャズと比べても水準のはるか上を行く音楽を披露した、あまりに素晴らしいこのアルバムの特徴をあげるとすれば、本作で取り上げられたカーラ・ブレイとオーネット・コールマンの楽曲の作曲技法上の素晴らしさ、そしてバップ・イディオムだけではとうてい演奏不可能なこれら楽曲を演奏しきったバンドの高いポテンシャルではないでしょうか。

たとえば、本作収録のカーラ・ブレイ作「Floater」は、モードをベースに長調と短調の区別を曖昧にする3度抜きの和声の多用という、音楽上の明確なヴィジョンを持ったものです。どこまでいっても機能和声以上のところに行くことがなかったジャズを、みごと次の段階に推し進め、ジャズの伝統を殺す事のないまま新たなサウンドを獲得しています。

■難曲をアドリブしてしまうバンドの驚異

こういった曲となると、音楽後進国アメリカのエンターテイメント音楽であったジャズが培ってきたアドリブ・メソッドだけで対応しきれるとは思えませんが、20世紀前半のクラシック音楽にも通じていたポール・ブレイとスティーヴ・スワロウは、即興を絡めて見事に演奏しきってしまいます。

以後、ジャズはロックと同様にエンターテイメント音楽に再び組み込まれるか、クラシックで生きていく事の出来なかったプレーヤーの下野先と成り果てた観すらあり、こうした音楽上の高い視点を追求する事が稀になってしまいましたが、それだけにこのレコードの素晴らしさ時代を超えて輝いてみえます。そしてこの路線は、ポール・ブレイとスティーヴ・スワロウが参加した新生ジミー・ジュフリー・トリオで頂点に達する事になります。

■『フットルース』のレコード高価買取に関するあれこれ

主流ジャズにしては先鋭的といえるこのレコードをリリースしたレーベルは、なんとジャズの中でも保守的なものを好んできたサヴォイです。これがミュージシャンとレーベルの双方にとって良くない結果をもたらしたことは容易に想像できる事で、オリジナルのUS盤レコードは63年の初リリース以降、2度と再発される事はありませんでした。それだけに今となっては希少価値が高く、本国でも70ドル越えは当たり前、日本だと1万円以下なら即買いレベルのプレミアがついています。

こうして人知れず消える事になったかも知れない幻の大傑作を救ったのはヨーロッパと日本でした。仏BYGはヨーロッパに本作を流通させ、日本は90年代に入ってCDやLPで、この幻の傑作の復刻を果たしました。BYG 盤はジャケット違いのためか高額化はしていませんが、帯つき日本盤はUSオリジナルほどではないにせよ、なかなかの人気です。

もし、ポール・ブレイのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。