60年代NYフリージャズの要人のひとりとしてデビューしたマリオン・ブラウンですが、その音楽は勢いだけの無策なパワージャズではなく、さまざまなコンセプトを持ち、そこからしっかりとしたスコアを作り、その上で即興演奏されたものが多いです。そしてそのコンセプトはアフリカン・アメリカンのルーツに根差したものが多く、ここに音楽家としてのマリオン・ブラウンのアイデンティティを強く感じさせられます。その最たる例が、1973年にインパルスから発表されたレコード『ギーチー・リコレクションズ』でした。

今回は、ジャズと呼ぶにはあまりに異端、しかし作品として見れば屈指の名作ともいえるレコード『ギーチー・リコレクションズ』を取り上げさせていただきます。

■アフリカの痕跡を残すギーチー音楽をジャズの脈絡から再構成

「Once Upon A Time」ではドラムのみならずアフリカン・パーカッションまで使われて組み上げられるポリリズミックな打楽器セクションを持ち、ピグミーやカリンバ音楽のようなアフリカ音楽を想起させます。「Karintha」では詩が朗読されます。フリージャズどころかメインストリームなジャズよりも込み入った作曲といえそうですが、これだけ意図的に構成しながら、サイドBでは見事なインプロヴィゼーションを聴かせるあたりに、ジャズ・ミュージシャンとしての矜持を感じます。作曲にも即興演奏にも対応しなければならないという、要求の多い音楽を支えたのは、レオ・スミスやスティーヴ・マッコールといった優秀なシカゴ派ジャズ・ミュージシャンでした。

これだけ多彩な事をやりながら、アルバムに見事な統一感を感じるのは、コンセプトが統一されているからなのでしょう。アルバムタイトルにも入っている「ギーチー」とは、マリオン・ブラウンの出身地ジョージア州に住むアフリカン・アメリカンの事で、彼らの文化にはアフリカの形跡が数多く残っている事で知られています。マリオン・ブラウンは逃亡奴隷の子孫でもあり、それだけに「自分は何者であって、どのような存在であるのか」という意識が強かったのかも知れません。ギーチーに残された音楽の断片を拾い集め、それを再構成する事は、ギーチーの現代的な価値を見出し、ひいてはアフリカン・アメリカンの文化社会的位置を定立させる結果につながったように感じます。エンターテイメント音楽だったジャズがここまでの文化レベルにまで来たのかと驚かされた、フリージャズきってのインテリジェントな名作でした。

■レコード高価買取に関するあれこれ

73年発表のUSオリジナル盤は、なんとクアドラフォニックとステレオのコンパチブル盤で、カートリッジとアンプがあれば4チャンネル再生する事が可能です。これは、打楽器セクションを含めていろいろな音が飛び出す音楽性を考慮したものかも知れませんね。ちなみに、クアドラフォニック盤はステレオ再生も可能です。このUSオリジナル盤はプレミア価格となる場合があります。US盤レコードは73年リリースのコンパチ盤しか存在しないため(日本盤はステレオ盤)、今後も高額化していく可能性があります。

もし、マリオン・ブラウンやESPのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。