グループサウンズ全盛期に登場した、サイケデリック色の強い異色のバンドがジャックスです。コントラバスのピチカートを含むリズムセクションはジャズの影響が強く、ヒステリックに歪むギターは「Inside Looking Out」期のアニマルズかデビュー時のフランク・ザッパのような過剰さをはらんだサイケデリック感。そしてリーダーでヴォーカルの早川義夫の書く詞は、時として入水自殺をはかった人の視点で、海の底から見つめた空の描写まで出てくるほど幻想文学的。ビートルズのコピーですら間に合わなかった当時の日本の音楽状況でははまる場所のない、しかし強烈なインテリ性と狂暴性を兼ね備えた早すぎた日本のサイケ/アンダーグラウンド・ロック・バンドでした。

今回は、今も伝説として聴き継がれるジャックスの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただこうと思います。

■ジャックス / ジャックスの世界 (Express, 1968)

ジャックスでひとつだけレコードを聴くのであれば、間違いなくこのデビューアルバムです。ジャックスのレコードデビューは68年で、グループ解散が69年。オリジナル・アルバムは本作と翌年発表『ジャックスの奇蹟』のみ、しかし後者はバンド解散後にさまざまな音源を寄せ集めたものなので、実質的には本作こそレコードとしてのジャックスだと思います。

先述の海の底からの俯瞰が描かれるのは「からっぽの世界」。同様に幻想的な内容に彩られた詩は「遠い海へ旅に出た私の恋人」(「遠い海へ旅に出た」というのは隠喩でしょう)、「つめたい空から500マイル」(遠い海へ旅に出た後に来るのが「つめたい空」である点に注目)など、グループサウンドのバンドが作ったファーストアルバムとは思えない詩が並びます。

演奏も素晴らしく、フォービートで支えるリズムセクションをバックにエレクトリック・ギターが暴発する「マリアンヌ」は特質もの、これを超えるフリージャズ感覚に満ちた日本の歌謡音楽を私は知りません。こうした音楽の系譜は大資本のレコード会社が紹介した日本のロック/ポップスではジャックスで途絶え、この経脈を受け継いだのは灰野敬二などのアンダーグラウンド・シーンのロックでした。しかしこの流れが海外の音楽ファンが再評価した「日本のロック」である事は皮肉です。

レコードは高額必至のプレミア状態で、68年発表の赤盤となると2万円越え、帯つき美品が海外オークションで3万円近い値をつけたものを見た事もあります。赤盤に限らず、レコードは間違いなく高額必至でしょう。

■早川義夫 / かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう (URC, 1969)

 リアルタイムでは、ジャックスよりも「サルビアの花」を歌った早川義夫の方が認知されていたのではないでしょうか。ジャックス解散後、URC からリリースされた早川義夫のファーストアルバムです。

世界観はジャックスのファーストアルバムそのまま、しかし演奏をピアノまたはギターの弾き語りとしたことで、より言葉で語られる世界観がクローズアップされた作品となりました。まるでビートルズの「Let it be」のように太い音がするピアノ弾き語りの1曲目が、苦悩する若者の心情を吐露する数え歌なのですから、抜群の独創性と感じます。また「もてないおとこのうた」「サルビアの花」など、乾いた表現ながら言葉が刺さるのも独特で、早川義夫の本質はプロレタリアート詩人なのかもしれません。

なにせURCのレコードのうえ、伝説の人として音楽の世界から姿を消した早川義夫が発表した唯一の作品ですから(のちに復帰)、状態が良ければなかなかの価格がつくレコードです。しかしこのレコードで分からないのは、比較的手に入れやすい価格で売られていると思えば、1万円越えする事もあるのが不思議です。状態やリイシューかどうかの差なのかも知れません。

■ジャックス / Live ‘68’7’24 (1973)

68年7月24日に東京・御茶ノ水のホールで行われたライブ・レコーディングで、ジャックスのファンクラブが制作した限定生産レコードです。ドラムやギターのソロを含む即興性の強い「マリアンヌ」のようなナンバーですら、レコードを流したのではないかというほどファーストアルバムに準拠したパフォーマンスです。『ジャックスの世界』と同じメンバー/アレンジ残さされたほとんど唯一のライブ録音として、時代が経過するとともに高く評価されるようになりました。

限定300枚とも400枚とも言われるファンクラブ制作の初期盤は天井知らずの高額、ヨーロッパで1300ユーロ(単純計算で13万)、国内で7万円超という値をつけての落札を見たことがあります。ヨーロッパでプレスされたブートレグですら1.5万円超えが普通という超プレミア盤です。

ところで、なぜこのアルバムは制作枚数が正確に分からないのでしょうか。かつて東京の明大前に、アンダーグラウンド・ミュージックのレコードを扱う有名なレコード店がありました。そこの店は同人誌も発行していて、同誌が早川義夫の新譜に対する忌憚のないレビューを書いた事で、このレコードを制作したファンクラブの方と信頼関係が生まれたそうです。そしてこのファンクラブから、余剰在庫となった本盤の販売を委託されたそうです。レコード店は反りの入ったレコードをはじき、このレコードを探してやまないファンのために、かなりの枚数を捌いたそうです。

以上はそこの店主から直接お聞きしたのですが、以降は推測を含みますので、信じるかどうかは読んでくださる方次第でお願いします。恐らく500枚程度が制作され(500枚はレコードのプレス単位のひとつです)、最初はファンクラブ限定で販売、次いで昔の日本のレコード組合のディストリビュートにこそ乗せられなかったものの通信販売で流通。しかし100枚か200枚が残り、これがその店に持ち込まれ、保管状態の悪いものは処分された。こう考えると、200枚限定は最初のファンクラブ限定時の枚数、300枚~400枚という数は実質定期な販売枚数で、どれも嘘ではないという事になるのではないでしょうか。

■ジャックス / Echoes In The Radio (Eastworld, 1986)

ジャックス再評価の機運が高まった80年代なかばにリリースされた、レコードデビュー前のパフォーマンスを収めた発掘版です。ファースト収録の「遠い海へ~」がアコースティック・ギター弾き語りで美しいハーモニーを聴かせるなど、元々はフォークからスタートしたのではないかと思わせる驚愕の内容。青春時代にジャックスに熱狂した私ですら、ジャックスでもっともよく聴くアルバムがこれになってしまったという素晴らしさです。ラジオ音源のマスターテープなのか音質も素晴らしく、未聴の方はぜひ。

■幻のバンドだけにレコードは買取りも高額必至

今でこそジャックスは日本独自のサイケデリック/アンダーグラウンド・ロックの走りという認識が強いバンドでしょうが、リアルタイム世代ではあくまでグループサウンズという認識、しかも広く認知される前に消えた幻のグループでした。それが現在のような評価を受けたのは、80年代になってジャックスのオムニバス・レコードが発表されてからで(『Legend』1985)、これで中古レコードの需要が高まり、プレミア化が進んだのだと思います。高額必至ですが、大枚をはたくだけの価値がある世界に冠たる日本のサイケデリアと思います。

もしジャックスのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。