1950年代後半というモダン・ジャズ黄金時代に活躍した女性ジャズ・ヴォーカリストがビヴァリー・ケニーです。トミー・ドーシー、ジョージ・シアリング、ジョニー・スミス、レスター・ヤングといった有名ジャズマンとの共演を通して評価をあげ、55年から59年の5年で6枚のアルバムを残しました。

声を張らずにソフトに出す発声は美声そのもの。ミックス・ヴォイス/ヴィブラート/ピッチ/リズム/ベルティングというヴォーカリゼーションも見事ですが決して技術披露には走らず、詞を大切にする歌唱は、聴いているとまるでビヴァリー・ケニーと会話している錯覚に陥りそうになるほどです。個人的な話になりますが、歌を聴いて感動したことは何度もあるのですが、ヴォーカリストに恋をしそうになったのはビヴァリー・ケニーぐらいかもしれません。28歳の若さで自殺、ビッグネームになる前にシーンから消えたため「知る人ぞ知る名ヴォーカリスト」となってしまいましたが、ダウンビート誌上にてナット・ヘントフがクリス・コナーやヘレン・メリルより高く評価したほどの素晴らしいヴォーカリストである事は間違いありません。

今回は、ビヴァリー・ケニーの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただこうと思います。

■Sings for Playboys (Decca, 1958)

レーベルをRoost からDecca にステップアップしたケニーの移籍第1弾アルバムで、ビヴァリー・ケニーの最高傑作として推薦したいレコードです。演奏はピアノとウッドベースのみで、結果的にこの編成がビヴァリー・ケニーの歌の長所を最大限に引き出したのではないかと思います。ミックス・ヴォイスを駆使した倍音豊かな美声がオケに埋もれることなく、こまかい表現まで伝わったのは、この編成にも理由があったのではないでしょうか。

アルバム冒頭の「Do It Again」を聴いただけで、その美声、囁くような歌いまわし、ヴィブラートやクレッシェンドの見事さなど、あらゆる声の表情や表現にため息が出そうになります。感情を爆発させるのではなく少し控えて表に出すという美的感覚が、ビヴァリー・ケニーの個性なのでしょう。このレコードの再発回数は本国アメリカより日本の方が多く、こうした点に日本でのビヴァリー・ケリー評価の高さが伺えます。淑やかさやしおらしさを美徳とする日本の文化に合っていたのかも知れません。

ビッグネームとなる前に夭折してしまったミュージシャンのアルバムという事もあってか、素晴らしいアルバムでありながら、アメリカでのレコードのリリースはステレオ盤(黒ラベル)とモノ盤(「DECCA」ロゴがベルト状にレインボーカラーになっています。恐らく60年代のリリース)がそれぞれ1度しかありません。このオリジナル盤は高額での買取り必至です。アメリカ盤以外のLPレコードも高く買取りされる事が多いようで、スペインで1度(86年)、日本で2度(94年、2010年)リイシューされていますが、いずれもなかなかの額になる事が多いようです。そして、5度のCD化のうち4度が日本。やはり日本人気が高いヴォーカリストなのですね。

■Born to Be Blue (Decca, 1959)

ビヴァリー・ケニーが生前に発表した最後のアルバムです。ウィズ・ストリングス作品で、その点ひとつとってもDecca が彼女に力を入れていたことが伺えます。

オーケストラをビッグバンドではなくストリングスとした事も、スローからミドルテンポの曲を極端に多くした事も、ビヴァリー・ケニーの性格や声の特性を考えての事でしょう。これが実に的を射たディレクションで、大編成での彼女の代表作と言えるレコードです。ジャズというよりハリウッドの映画音楽のようで、ビヴァリー・ケニーはモダン・ジャズ黄金期にニューヨークで活躍したためにジャズのフィールドで活躍する事になりましたが、時代と場所が少しでも違っていたらと想像させられる内容でした。

このLPレコードもUSオリジナルはリリース時にモノ盤とステレオ盤が作られたきりで、どちらも状態さえ良ければ高額での買取り必至です。両者の見分け方は簡単で、ステレオ盤はジャケット表面上部に大きく「STEREO」と書いてあります。美しいジャケットのデザインを損ねてしまっていると思えなくもありませんが…。59年リリース時は他にカナダ盤(mono)も存在、以降のレコードのリリースで目立つのはやはり日本で、重量盤も作られました。いずれも一定以上の価格で取引されているようです。

■大ブレイク前の夭折によるUSオリジナル盤の数の少なさがレコードの高額化と買取り価格の高騰につながっている?

これだけの素晴らしいヴォーカリストが28歳で自死してしまったことは残念です。その後も生きていたら、どれだけ素晴らしい歌を聴かせてくれたのでしょうか。

今回は音楽面の質の高さからDecca に残された2枚のアルバムを紹介させていただきましたが、音楽面だけで言えば、ビヴァリー・ケニーがデビュー前に吹き込んだデモテープをレコード化した『Snuggled On Your Shoulder』も絶品です。あるいはレア度で言うと、Decca 以前に契約したRoost に残された3枚のレコードのUSオリジナルはさらにレアで高額、USオリジナル以外のリイシュー盤(その多くが日本です!)もLPレコードは平均以上の買取り価格が期待できそうです。

もしビヴァリー・ケニーのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。