イギリス南東部、ドーヴァー海峡にもロンドンにも近い場所に、カンタベリーという都市があります。古くはケルト人の活動拠点となった主要地域であり、その後もローマ侵略、アングロサクソン入植後にはカンタベリー大聖堂が出来てイギリスのキリスト教会の中心地となり、現在ではいくつもの大学がある文化的な学生都市、イギリスきっての知性の都になっています。この都市に生まれた「カンタベリー・ロック」が知的な雰囲気に包まれているのは、この都市の持つ重層的で教養深い文化が背景にあるのではないでしょうか。

ソフト・マシーンは、キャラバンと並ぶカンタベリー・ロックの代表バンドです。初期は文学性、ジャズ、複雑な楽曲という複数の要素を持ったロックでした。それが次第に前衛ジャズ色を強める事で最盛期を迎え、驚異的なジャズ・ロックを生み出します。そして最後にはギターをフロントに据えたフュージョン色の強いプログレッシヴ・ロックへと変化しました。これだけ音楽性を変化させながら、それぞれの時代に突出した音楽を創り出した点も素晴らしいです。

今回は、ソフト・マシーンの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただこうと思います。

■The Soft Machine (Prove, 1968)

カンタベリー・ロックの名盤のひとつとして知られる、ソフト・マシーンのデビュー・レコードです。オルガン・トリオの形態で、演奏はジャズ・ロック、詩と楽曲はアヴァン・ポップという様相で、なるほど大学都市で生まれただけの事はある知的なロックと感じます。初期のソフト・マシーンは「非常に凝った先鋭的なポップス」というカンタベリー・ロック色の強い音楽を作りますが、その色が強いのはセカンド・アルバムまでです。なお、創設メンバーのひとりであるケヴィン・エアーズ(ヴォーカル/ベース) が在籍したのはこのアルバムまででした。

本アルバムは、ソフト・マシーンがジミ・ヘンドリックスの全米ツアーに帯同した余波で作られた経緯からアメリカ制作となり、68年リリース時にUK盤はありません。LPレコードは歯車の中心部が回転して絵柄が変わる特殊ジャケット仕様で、オリジナルUS盤はもちろん、この仕様のレコードはいずれも高額買取りを期待できます。また、68年当時に制作された日本盤は尻を出した裸婦が表にレイアウトされたジャケット違いとなっており、4万円超えが当たり前の人気レコードとなっています。

また、高額レコードという意味では、セカンド・アルバム『Volume Two』(Prove, 1969)のUK盤も、1万円超えが当たり前の状態となっています。

■Third (CBS, 1970)

アヴァン・ポップではなく、進歩的なジャズそのものへと踏み込んだ最初のアルバムです。過激に歪ませたオルガン独奏に始まり、演奏は『太陽と戦慄』期のキング・クリムゾンに劣らないほどのダイナミズムを持ち、楽曲はレコード2枚組で全4曲と大曲が揃います。カンタベリー・ロックらしかった初期ソフト・マシーンと過激なジャズ・ロックに走った中期ソフト・マシーンの両方を聴くことが出来るアルバムなので、ソフト・マシーンを聴く最初の1枚としても最適かも知れません。音楽的にいえば、このアルバムから72年発表の『Fifth』までがソフト・マシーンの最盛期ではないでしょうか。

UKオリジナルのレコードは高額必至です。また、72年にリリースされた日本盤はジャケットデザインが違い、これも国内外で人気があり、高額での買取りとなることがあります。

■Forth (CBS, 1971)

ついに全曲インストとなり、新主流派ジャズと言われても信じてしまいそうになるほど、ソフト・マシーンが先鋭的なジャズに近づいたレコードです。このレコードの音だけを聴いて「ロック」と思う人はいないのではないでしょうか。

冒頭曲「Teeth」の主要部は、マイルス・デイヴィス「So what」やジョン・コルトレーン「Impressions」と同じ形式を持つモード・ジャズですが、作曲された展開部を持たせて大楽節を形成している点で、マイルスやコルトレーンのそれよりも構成力を増しています。第3曲「Fletcher’s Blemish」は、大半がフリー・インプロヴィゼーションですが、トゥッティによる展開の制御を施しており、フリー・ジャズの組織化を図っています。この時代、ジャズの大半がポップス化したフュージョンへと進みましたが、一方のロックは高度な音楽を目指したこうしたバンドを多数生み、ロックが音楽面でも西洋大衆音楽の主導権を握ったように思えます。

このレコードは高額化するものとそうでないものがありますが、エンボス加工によって「4」の数字が浮彫りとなっているもの(初回UK盤などがそうです)の人気が高く、高額化しやすいようです。なお、71年ヨーロッパ盤は、表ジャケットに「4」の数字が見えないようですが、着色していないだけでエンボス処理が施されています。

■Softs (1976)

1975年以降のソフト・マシーンはギタリストをフロントに据え、フュージョン色を強めた音楽へと変化しました。76年発表の本作はその中のひとつで、ジョン・エサリッジのギターによる攻撃的なスピードプレイを核とした音楽が展開されます。その速さたるや驚異的で、マハビシュヌ・オーケストラ在籍時のジョン・マクラフリンやイレヴンズ・ハウス時代のラリー・コリエルにも劣らないほどの演奏を聴くことが出来ます。ギター・フュージョン期のソフト・マシーンを聴くなら、このアルバムが白眉でしょう。

■ソフト・マシーンのレコードの買取りは、旧タイトルほど高額化する傾向あり

ソフト・マシーンのレコードを音楽面から分類すれば、初期2枚のアヴァン・ポップ期、サードからシックスまでのジャズ・ロック期、セブン以降のフュージョン期に分けることが出来るかと思います。しかしレコードの買取りはこの区分けとは少し違うようで、初期2枚、サードとフォース、フィフス以降、この3つに分割できそうで、この区分けの古い順に高額となる傾向があるようです。最初の2はProve というマイナーレーベルからのリリースで出回り数が決して多くなかった点、サードとフォースは単純にソフト・マシーンの音楽が最も高い所にいた時期のアルバムという事もあるのかも知れません。

もしソフト・マシーンのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。