■今では信じられない?! CDへの乗り換え時期、LPはたたき売り状態だった
私がロックにもっとも夢中になったのは、中学生から高校生にかけての頃でした。時代はCDが出始めたころで、新譜はCDとLPの両方のメディアで発売となり、どちらで買うか迷ったものでしたが、美しいジャケットだと「これは絶対にLPで買いたい」と思ったものです。まして特殊ジャケットとなると、間違いなくLPで入手していました。
面白いと思ったのは廉価盤で、旧譜とはいえLPの新品が1800円でリリースされ、しかも特殊ジャケット仕様のままのものがあったのです。私が買ったレコードでは、レッド・ツェッペリンや、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのアルバムがそうでした。
現在はLPのプレス工場が激減したため(たしか、日本では一社のはずです)、LPを新たにプレスしたうえ、特殊ジャケット仕様にしたら、1800円で発売など不可能でしょう。当時だって厳しかったはずなので、もしかすると旧プレスの売れ残りのレーベルだけを張り替えて在庫を一掃したのかもしれません。LPからCDへの移行期は、それぐらいにLPがたたき売りされていた状態でした。
■当時安かったからと言って、いま安いとは限らないLP相場
その頃は新品だけでなく、中古LPもずいぶん安く売っていました。ビートルズやローリング・ストーンズなどのメジャー・アーティストでも、ロックの名盤といわれていたアルバムでも、どれもほとんど1000円前後で入手できました。そのようにしてLPを集めた方も多いのではないでしょうか。
ところが、そのように安く集めたレコードでも、今も安いままであるとは限りません。私の場合、価値もよくわからないまま「1000円なら」と買い集めたビートルズなどのロックのレコードの一部は、「そんなに高くなるの?」という値段で買い取ってもらえた経験があります。高かった理由は自分でも分かっていないのですが、ビートルズの『ホワイト・アルバム』などは、もしかするとシリアル番号がいい番号だったとか、特典のポートレートが完備されていたとか、何か理由があったのでしょうね。
そういう、プロでないとなぜ高かったのか分からないものと違い、特殊ジャケットのLPは人気の理由が分かる気がします。こればかりはCDではどこまでやってもLPにはかないませんものね。 そんなわけで、ロック系の特殊ジャケットLPをいくつか紹介させていただこうと思います。
■ローリング・ストンーズの特殊ジャケット
私見ですが、ビートルズやローリング・ストーンズはアナログ盤で聴きたい音楽だと思っています。ローリング・ストーンズの特殊ジャケットは、『Through The Past, Darkly (Big Hits Vol. 2)』、『Sticky Fingers』、『Some Girls』あたりが有名です。
ローリング・ストーンズ脱退の翌月に謎の死を遂げたブライアン・ジョンーズの追悼盤ともなったストーンズ2枚目のベスト盤『Through The Past, Darkly』は、4隅が斜めにカットされた8角形ジャケットです。再発やCD化の際には4隅が墨塗りとなっていたり、あるいは墨塗り自体がされていなかったりと、様々なバージョンがあることでコレクター魂をくすぐる1枚でもありますが、やはり特殊ジャケットであるオリジナルの8角形ジャケットは人気があります。
ストーンズがデッカから独立し、自分たちで作ったローリング・ストーンズ・レコードから発表した第1作『Sticky Fingers』も特殊ジャケットです。このジャケットのデザインはアンディ・ウォーホールで、ジーンズのファスナーが実際に開きます。これはLPサイズでないと出来ない芸当で、LP以外の選択肢はないのではないでしょうか。ちなみに、音楽面で私が一番好きなローリング・ストーンズのアルバムはこれで、「Wild Horses」でいつも泣けてしまいます。ちなみに、アンディ・ウォーホール制作のジャケット・デザインといえば、やはりヴェルヴェット・アンダーグラウンドのバナナジャケットかと思いますが、私はもったいなくてバナナの皮をむいたことがありません。
1978年発表の『Some Girls』は、ツェッペリンの『Physical Graffiti』に近い特殊ジャケットで、女性の顔部分がくりぬかれ、レコードの内袋に印刷されたメンバーの顔やほかの有名人の顔がのぞくようになっています。ところがこの時に肖像権の使用許可を得ていなかったために、様々な有名人の顔がのぞくジャケットはファーストプレスのみとなったそうです。ほかにも、配色違いなど、ジャケ違いがいろいろとあるアルバムでもあります。
■特殊ジャケットの宝庫 プログレッシブ・ロック
アート性の高さという意味で、プログレッシブ・ロックは特殊ジャケットの宝庫です。中でも産業ロックから離れた位置にあるプログレは、特にデザインに秀逸なものが多くあります。
ドイツのバンドであるファウストのデビューアルバム『Faust』。透明ジャケットに手のレントゲン写真と、アートセンスが素晴らしいです。音楽のほうもコラージュを多用するなどアヴァンギャルドな作風で、アメリカン・ソング形式ばかりのロックやポップスに飽きた方にはお勧めのレコードです。しかし、ファウストのデビュー作のオリジナル盤入手は困難かもしれません。
ピンク・フロイドと同じUFOクラブで活動してレコード・デビューを果たしたソフト・マシーンのデビュー作『Soft Machine』は、実に手の込んだ特殊ジャケットで、私がこの世で2番目に好きな特殊ジャケットはこれです(1位はファウスト)。廉価版のLPやCDではひとつの絵柄がプリントされているだけなので、特殊ジャケットであったことを知らない方もいらっしゃるかも知れません。私は、ソフト・マシーンの音楽はジャズ色の強まる『THIRD』から『Fifth』までが格別に好きなのですが、このアルバムは音楽よりもジャケットが好きです。
エマーソン・レイク・アンド・パーマーの『Brain Salad Surgery』(邦題「恐怖の頭脳改革」)は、観音開きの特殊ジャケットです。怪物じみたジャケット画は、映画『エイリアン』でエイリアンをデザインしたH.R.ギーガーによるものでした。
■ハードロックの王道!レッド・ツェッペリンの特殊ジャケット
ハードロックのファンならまた別ですが、メタルのファンの場合、アナログ盤に対するこだわりが強い人は少ないように感じます。そういう人の場合、レッド・ツェッペリンの『Led Zeppelin III』や『Physical Graffiti』が特殊ジャケットであったことを知らない方もいるのではないでしょうか。
『Led Zeppelin III』は、部分的にくりぬかれた表ジャケットの裏に絵柄のプリントされた円盤が付いており、この円盤を回すことで絵柄が変化します。私のお気に入りは、ジョン・ポール・ジョーンズが大きく見えるポジションです。ついでに、レッド・ツェッペリンは、このサードアルバムが至高で、切れずにつながる「Friends」から「Celebration Day」の流れは神です。
『Physical Graffiti』は、アパートの窓がくりぬかれており、窓からレコード内袋に印刷された文字などがのぞく仕様となっています。定位置の文字ではなく、人物写真がのぞくようにするのが好きです。このアパート、ダリオ・アルジェント制作のホラー映画『インフェルノ』に出てくる魔女が建築させたアパートのように見えて、個人的にはとても好きです。クラシックに感じるのですよね。
そのようなわけで、昔は簡単に手に入ったLPでも、現在は意外に高値がつくことがあります。LPの処分をご検討の方は、いちど専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。
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