標準的なロックやジャズでは飽き足らなくなり、フリージャズや現代音楽にはまっていた時期があります。どちらも今までまったく聴いたことがないサウンドに満ちた素晴らしい音楽でしたが、人間なんて勝手なもので、次第に、現代音楽のように独創的なフォルムを持ちつつ、フリージャズのように爆発力ある演奏を聴かせる音楽はないものかと思うようになりました。そんな時期に出会ったのが、スティーヴ・レイシーでした。

古き良きジャズと、先鋭的なニュー・ジャズ。相反するとも思えるこの両極端が同居したソプラノ・サックスの響きが、スティーヴ・レイシーの音楽でした。若い頃にディキシーランド・ジャズを演奏していたレイシーは、50年代以降に登場したアメリカのジャズ・サクソフォニストには珍しく、チャーリー・パーカーやビバップの影響を感じさせないスタイルのソプラノ・サックスに聴こえました。ディキシーランドを演奏するだけあってアドリブに優れ、ギル・エヴァンスのコンボに参加できるほどスコアにも強く、そして先鋭的な音楽も指向するレイシーの音楽は、時代とともに、自らの追う音楽を明確な形へと変えていきました。

今回は、スティーヴ・レイシーの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただきます。

■Reflections (Prestige, 1959)

スティーヴ・レイシーの初リーダー・アルバムを発表する以前から、すでに有名ミュージシャンたちに起用される存在でした。注目すべきはその音楽の幅の広さで、ジョー・ピューマのような保守派から、セシル・テイラーといった革新派のセッションにまで参加しています。さらに、ギル・エヴァンスのオーケストラにまで加わる状態で、即興演奏だけでなくスコアにも強かったことが分かります。なぜデビュー時点ですでにそれだけ広い音楽に対応できたのか、

その理由はセロニアス・モンク作品集であるこのレコードで分かった気がしました。

モンクはビバップ時代の代表ミュージシャンのひとりですが、その音楽は相反するものが同居しているような奇妙さに溢れています。50年代、モンクは自分のバンドのフロントマンを次々に入れ変えましたが、ジョン・コルトレーン、ジョニー・グリフィン、ソニー・ロリンズに共通して言えるのは、チャーリー・パーカー以降という色を感じる演奏をした事でした。それは演奏表現としては見事でしたが、モンクの作品意図にどれほど迫れていたのかというと、疑問を感じます。しかし本作でのレイシーの演奏は、モンクの作品のあのレイドバック感覚とグロテスクさの両方が見事に昇華されており、本来はこういう音楽が目指されていたのではないかと思わされました。スティーヴ・レイシーの意識には、最初から伝統と革新の両方が含まれていたのだと思います。

なお、レイシーにとってモンクは特別であったようで、以降もモンク作品を多く取りあげたアルバムを作っています。本作の他では、ピアノレスに2管というオーネット・コールマン編成で挑んだ『Evidence』(New Jazz, 1962) もまた見事です。そして、モンク作品集を作った事がきっかけになったか、60年にレイシーはモンクのクインテットに引っ張られました。この時の録音も、少なくとも2曲は現存しています。

■The Forest and the Zoo (ESP, 1967)

フリージャズという枠で語られる事の多いレイシーですが、ゲスト参加や海外公演での現地ミュージシャンとの交流を除けば、何の準備もなしにフリーに演奏する音楽は少ないです。そんなレイシーが、もっともフリージャズ寄りの演奏を披露したリーダー・レコードのひとつが本作ではないでしょうか。アルバムを通して全2曲、バンドはトランペットのエンリコ・ラヴァとの2管によるピアノレス・カルテットによるライブ演奏です。

ヘッドと思える場所ですら相当にデフォルメされており、混沌とした音楽が鳴り響きます。レイシーは70年代に拠点をヨーロッパに移しましたが、ヨーロッパではイギリスでもドイツでも、アメリカのフリー・ジャズのオリジネイターとして、多くのセッションに招かれるようになりました。これがフリー・インプロヴィゼーションというレイシーの軸のひとつとなりましたが、そのスタート地点となったのはここではないでしょうか。

■Solo – Théâtre Du Chêne Noir (Emanem, 1974)

スティーヴ・レイシーの代表的な音楽スタイルのひとつ、ソプラノ・サックス独奏を収録したレコードです。このレコードは、日本では間章が紹介した事で有名になったものでもあります。

ソロにせよコンボにせよ、レイシーの音楽は、大まかなデザインを決め、何度も繰り返されるフレーズで作られたヘッドを持ち、それを即興演奏するスタイルを取るものが多いです。このスタイルで書かれた曲は、ライブ録音の多いレイシーのレコードで何度もヴァリエーションされたため、結果としてレイシーの即興能力の高さが浮き彫りになりました。本作では、道教から影響を受けたレイシーの書いたもっとも有名な組曲「TAO」からの曲、ラジオを流しながらの演奏、ベン・ウェブスターに捧げられた曲など、多彩な作曲作品と独特なソプラノ・サックスの即興を体験することが出来ます。楽曲のテンポに縛られないソプラノ・サックスの高速演奏が飛び出すのも、独奏ならではと言えるかもしれません。

なお、本作はCD化に際してボーナストラックが追加され、『Weal & Woe』とタイトルを改めて再発されました。また、レイシーのサックス独奏では、日本公演を収めた『Solo At Mandara』も人気があります。

■Scraps (Saravah, 1974)

70年代に入ってレイシーは居をパリに移しました。ここでレイシーはスティーヴ・ポッツ (sax) を含むレギュラー・バンドを作り、ジャズと言うにはあまりに独創的な音楽を創りあげる事になります。

ヨーロッパ時代のコンボには名作が多いですが、ここではサラヴァ・スタジオで録音された録音状態の良いものをひとつ紹介させていただきます。多民族都市であるパリらしく、まるで芝居小屋の喜劇音楽を異化したようなもの。オープンパートではセクステット全体がインタープレイをするもの。ラウドペダルを踏んだままのピアノ演奏など、バラエティに富んだ音楽を聴くことが出来るレコードです。そしてシリアス、レイシーの求道的な面が色濃く反映された見事な音楽と思います。

レイシーはサラヴァから5作のリーダー作を発表しましたが、それは現在『Scratching The Seventies』という3枚組CDにまとめられています。なお、スティーヴ・ポッツを含むコンボでは、デレク・ベイリーの参加も見られた『Saxophone Special』(Emanem, 1975)、ライブでは79年のスイス公演を収めた『The Way』(hat ART, 1994) も素晴らしいパフォーマンスでした。

■レコード高価買取に関するあれこれ

なにせ素晴らしいサクソフォニストにして、独特な思想まで持つアーティストですので、ファンのみならず世界中のレーベルがレイシーのレコードをリリースしたがる状態で、残されたレコードのタイトルは膨大な数にのぼります。

プレミア度という意味でいうと、先ほどご紹介させていただいた『Solo At Mandara』(邦題は『スティーブ・レイシー・ソロ』)は、日本公演時の限定盤という事もあり、ほとんど見かけることが出来ません。海外では7万円を超す価格で取引されていたのを見た事があります。

『Reflections』は、59年のUSオリジナル盤が高額、2万円以下で買えれば安い方かも知れません。

『The Forest And The Zoo』は、レイシーの作品であること以外に、コレクターの多いESPレーベル作品という事もあり、これも高額化の傾向にあります。このレコードは日本盤も制作されましたが、67年のUS盤の方が高額化しやすいようです。

『Scratching The Seventies』はCDですが、これも入手困難。数万円の値をつける事があります。

もし、スティーヴ・レイシーのレコードを譲ろうとお考えでしたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。思わぬ高額買取りレコードになるかもしれません。
サイト・メニューに当編集部が一押しプッシュしている、おすすめの関西(大阪、神戸兵庫、京都、奈良、和歌山、三重)のレコード高価買取店を紹介しておりますので、売却や買取を考えている方はぜひ参考にされてはいかがだろうか。それでは、また次回の記事でお会いしましょう。