ロック編に続き、ジャズの各ジャンル別アルバム3選をご紹介させていただきます。あくまで筆者基準ですので、異論はもちろんあるかと思いますが、もし良い音楽をお探しの方の参考にでもなりましたら。全10項目30枚、さっそくいきます!

■ビバップ・レコード編

・Charlie Parker / The Genius Of Charlie Parker (Savoy, 1955)

・Dizzy Gillespie / Groovin’ High (Savoy, 1955)

・Bud Powell / The Genius Of Bud Powell (Verve, 1956)

それ以前からジャズは存在していましたが、ヴァイナル・レコードでのアルバム登場に合わせ、モダン・ジャズから話をスタートさせていただきます。まずはビバップ!

モダン・ジャズは、チャーリー・パーカーの登場によってブレイクスルーが起きた結果に生まれた音楽と言っても過言ではありません。ところがアルバムが登場した頃、すでにパーカーは下り坂。彼の演奏に期待してレコードを漁るも、「これ、本当に凄いの?」という経験をした人も少なくないのではないでしょうか。そんな方におすすめしたいのが、47年12月録音の曲「Bird Gets The Worm」。信じがたい高速でのチェンジを見せるアドリブ演奏、はじめて聴いた時には度肝を抜かれました。この演奏はいくつかのアルバムに収録されていますが、ボックスではなくアルバムで聴くならこれです。

ディジー・ガレスピーは、パーカーと双璧をなすビバップの超絶高速プレーヤー。スピードだけで行ったらパーカー以上かもしれません。

バド・パウエルは、パーカーのチェンジをピアノで演奏した恐らく最初の人です。ビル・エヴァンスもケニー・ドリューも、バド・パウエルを手本にしてモダン・ジャズの語彙を学んだ事は、間違いない所でしょう。

■ウエスト・コースト・ジャズ・レコード編

・Gerry Mulligan / Night Lights (Phillips, 1963)

・Shelly Manne / 2-3-4 (impulse!, 1962)

・Chet Baker / The Touch Of Your Lips (SteepleChase, 1979)

一般論とはいいがたい私見ですが、50年代前半に最盛期を迎えたウエスト・コースト・ジャズが音楽的に洗練を極めたのは、ブームが去った60年代以降だったように感じます。ウエスト・コースト・ジャズの傾向を、西海岸特有の心地良さと、ヨーロッパ白人音楽直系の知性のふたつに見るのであれば、両者のバランスが素晴らしいのがこれらのアルバムです。チェット・ベイカーは、50年代しか知らない人には信じがたいほど、彼のリリシズムが音楽そのものになっている事に驚かれるのではないでしょうか。

■ビッグバンド・レコード編

・Duke Ellington / The Ellington Suites (Pablo, 1976)

・Count Basie / Basie Big Band (Pablo, 1976)

・Woody Herman / The 3 Herds (Columbia, 1955)

ビッグバンド最盛期はスイング時代でしょうが、LPレコードはその時代をリアルタイムでフォローできていません。しかし現代の耳からすれば、それ以降に素晴らしいアルバムが生まれています。デューク・エリントンとカウント・ベイシーはジャズ・ビッグバンドを代表する名オーケストラで、流行をはるかに過ぎた後に、さらなる進化を遂げていた事かが分かります。

ウディ・ハーマン楽団は、時代とともに「セカンド・ハード」「サード・ハード」と区分けして呼ばれますが、後半になると古き良きなんていうレベルの音楽ではなくなり、以降のジャズよりもよほど先を行った音楽を聴かせます。すごいです。

■イースト・コースト/ハード・バップ・レコード編

・Jimmy Smith / The Sermon! (Blue Note, 1959)

・Charles Mingus / In Amsterdam 1964 (DIW, 1989)

・Mal Waldron / All Alone (GTA, 1966)

モダン・ジャズのど真ん中と言ったらここではないでしょうか。名盤として良く名のあがるアルバムを選べずにすみません。ハード・バップでよく名のあがるアルバムは、アドリブは見事かもしれませんが音楽が単純すぎて面白くないものが多いのです…。その点、ここにあげたアルバムは、何かのプラスアルファを持っています。チャールズ・ミンガスのコンボの音楽などその最たる例ですが、彼が生涯で生み出した最上のパフォーマンスは、エリック・ドルフィーの参加した64年の欧州ツアーだったと心の底から思います。

■ジャズ・ヴォーカル・レコード編

・Carmen McRae / The Great American Songbook (Atlantic, 1972)

・Beverly Kenney / Snuggled On Your Shoulder (SSJ, 2006)

・Nina Simone / Pastel Blues (Phillips, 1965)

このリストにアニタ・オデイやダイナ・ワシントンを入れる事が出来なかった事が残念でなりません。ベスト3は辛いです。ビヴァリー・ケニーは清廉とした白人女性ジャズ・ヴォーカルとして、レコードをぜひ聴いて欲しい人。これはデビュー前のデモテープですが、バンドやアレンジで派手な化粧が施されていない音の中に、彼女の心の声を聴いた思いがしました。ニーナ・シモンはどの時代も素晴らしいですが、個人的にはもっとも個性を放ったように感じるフィリップス時代が最高です。

■モダン・ビッグバンド他、レコード編

・The Gil Evans Orchestra / Out Of The Cool (Impulse!, 1961)

・George Russell Sextet / At Beethoven Hall (MPS, 1971)

・Jimmy Giuffre / Piece For Clarinet And String Orchestra Mobiles (Verve, 1961)

ビッグバンド・ジャズのレコードは古くさい気がして、若い頃は食わず嫌いでした。ところがスモール・コンボどころではない斬新さを持つ音楽だと思い知らされたのが、ギル・エヴァンスとジョージ・ラッセルのアンサンブルでした。ここでは、比較的大きめの編成で、アンサンブルの書きこまれた音楽を紹介させていただきます。ジミー・ジュフリーのものはビッグバンドではなく、弦オーケストラによる、ほとんど現代音楽に近い音楽です。

■サード・ストリーム・ミュージック・レコード編

・Jimmy Giuffre 3 / Fusion (Verve, 1961)

・Jeanne Lee, Ran Blake / The Newest Sound Around (RCA Victor, 1962)

・MJQ / Space (Apple, 1969)

音楽面でジャズのもっとも進化した形を聴く事が出来るのは、この分野ではないでしょうか。20世紀クラシックの語彙をここまで取りこんだジャズは以降にも生まれなかった(またはすでにジャズと呼ばれなくなった)のではないでしょうか。

ジミー・ジュフリーのトリオは、映画『真夏の夜のジャズ』で聴かれたあの和やかなトリオではなく、ドビュッシー以降のフランス印象派音楽をジャズで実現させたような音楽。スタンダード・ナンバーを変容させたラン・ブレイクのサウンドは、彼以外でこんなサウンドの音を聴いた事がありません。MJQを退屈なイージーリスニングと思っている方、そういうアルバム・レコードもたしかにあるのですが、室内楽ジャズを追求した時のMJQを侮ってはいけません。ジャズの歴史で唯一無二といっていいほどの音楽を聴かせます。

■フリージャズ・レコード編

・Cecil Taylor / Student Studies (BYG, 1973)

・Anthony Braxton / Town Hall 1972 (Trio, 1972)

・John Butcher, Xavier Charles, Axel Dörner / The Contest of Pleasures (Potlatch, 2001)

過激さ、破壊力、既成概念を超えていく創造性…フリージャズの魅力は様々ですが、個人的にはメインストリームのジャズが、その「ジャズ」というアイデンティティからどうしても迫り難かった高度な西洋音楽へアプローチできたものが、特に好きです。セシル・テイラーは、ソナタなどの楽式を現代的な和声感覚で構成する事があります。これだけでも凡百のジャズでは足元にも及ばない素晴らしさ。アンソニー・ブラクストンも、ジャズの即興的側面と現代音楽の交点に音楽を成立させています。ヨーロッパのプレーヤーによる管楽即興『コンテスト・オブ・プレジャーズ』の驚異的な…これは聴いてのお楽しみのレコード。

■モード/ニュー・メインストリーム・レコード編

・Anthony Williams / Spring (Blue Note, 1966)

・Herbie Hancock / Empyrean Isles (Blue Note, 1964)

・Wadada Leo Smith And N’Da Kulture / Golden Hearts Remembrance (Chap Chap, 1997)

むろん例外はありますが、フリージャズ以降のジャズは、ジャズ本来の大衆性に回帰していったものと、プレーヤーという立場から芸術音楽として深化していったふたつの軸を持ったように感じます。モードやニュー・メインストリームは、特にその初期において後者の可能性を見せた名盤を数多く生み落としました。「フリー以降の芸術音楽的発展を遂げた音楽」という中からレコードをチョイスさせていただきました。

■エレクトリック・ジャズ/フュージョン・レコード編

・Miles Davis / At Fillmore (CBS, 1970)

・日野皓正 / HI-NOLOGY (Columbia, 1969)

・Weather Report (CBS, 1971)

ビバップやハード・バップを軸としたモダン・ジャズ黄金時代を終焉させたものは、ジャズではなくロックでした。50年代後半にはプレスリーらのロックンロールが旋風を巻き起こし、その波終わるや否や、今度はビートルズ旋風が巻き起こります。そんなロックが武器としたエレクトリック・サウンドを取りこんだジャズがありました。まだ産声をあげたばかりだったロックよりも音楽能力面で上回っていたジャズ・ミュージシャンたちが、ロックを凌駕するエレクトリック・サウンドを生み出したのは面白い現象でした。

■レコード高価買取に関するあれこれ

ロック編に続き、今回も私基準で音楽的に高い価値を有していると思うものを選びました。それ以外の基準を無視したため、意外に安く手に入るものから、日本に入ってきている数自体が極めて少ないと思われるものまで様々ですが、いずれ素晴らしい音楽体験をさせてくれる名盤と信じています。

もし、これらのレコードを譲ろうとお考えでしたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。思わぬ高額買取りレコードがあらわれるかもしれません。