まるで管楽器のようなシングルトーンでのアドリブを得意とするギタリストが多かったモダン・ジャズ黄金時代にあって、メロディとハーモニー、あるいはアンサンブルとアドリブを問わず、見事に形にしてしまった魔術的なギターを演奏したのが、ジム・ホールです。若い頃からチャーリー・クリスチャンの演奏に惹かれ、クリーヴランドの音楽学校でセオリーと作曲、そしてピアノやベースを学んだギタリストは、全盛期ウエスト・コースト・ジャズやサード・ストリームあたりに、クラシックとジャズの中間を行く音楽に従事できていれば、さらに才能を発揮できたのかも知れません。それでもメインストリーム・ジャズの中に生きた事で、モダン・ジャズのギタリストとして神格化された存在となり、シングルラインだけでもコード・ソロだけでもない、現代的なジャズ・ギターの大きなルーツとなりました。

今回は、ジム・ホールの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただきます。

■Jim Hall Trio / Jazz Guitar (Pacific Jazz, 1957)

 ウエスト・コースト・ジャズ風のレイドバックした心地よいジム・ホールを聴くなら、このレコード。ジム・ホールの初リーダー・アルバムです。このレコードの前年にジム・ホールはジミー・ジュフリー・トリオに参加、クラシックのクラリネット奏者としても通じるほどの技量を持ったジミー・ジュフリーと共に、ジャズにあって室内楽のようなアンサンブルを完成させましたが、これはその延長線上にある音楽です。トリオの編成はギター、ピアノ、ベースであり、力の抜けたセッションの中にも、知的なアプローチが随所に垣間見えました。

■Sonny Rollins ‎/ The Bridge (RCA, 1962)

サイドマンとしてのジム・ホールを聴くなら、ポール・デスモンドのアルバム『East Of The Sun』か、ソニー・ロリンズのこのレコードが絶品です。フロントを食うほどのアドリブを演奏するわけではないのに、フロントに寄り添い、知的なアプローチで音楽のカラーを決定づけ、気がつけば音楽全体をコントロールしているのはジム・ホールであるという魔術的な演奏です。このレコードを聴いて、フロントマンではなくギターに耳を奪われる人も、少なくないのではないでしょうか。

■Bill Evans & Jim Hall / Undercurrent (United Artists Jazz, 1963)

ピアノとギターのデュオという、和声楽器2台でのアドリブ演奏という難易度の高い挑戦をしたレコードです。ギタリストが単旋律主体なるウェス・モンゴメリーやグラント・グリーンならば和声楽器と旋律楽器という関係にも出来たのでしょうが、ギタリストはジム・ホール。これが即興でピアノ連弾を行うような唯一無二の音楽を生み出しました。

このアルバムを音楽的に楽しみたいのであれば、音や曲を含めてレコードがおすすめです。スローバラードでのまるでインタープレイのような両者の絡みは絶品です。しかし、CD化に際して収録された没テイクや未発表曲からは、プレーヤー同士がデュオを成立させるために悪戦苦闘した様が伝わってきて、独特の面白さがあります。「My Funny Valentine」など、没テイクとOKテイクではアプローチ自体がまるで違います。

なお、即興演奏でないものであれば、ジム・ホールとビル・エヴァンスの共演には『Bill Evans / Unknown Session』という素晴らしいアンサンブル作品があります。カノン状になった曲など、クラシックを学んだ両者にして初めて生み出せる独特の室内楽ジャズが並びます。

■Jim Hall / It’s Nice to Be With You (MPS, 1969)

70年代以降のジム・ホールは、いわゆるモダン・ジャズの枠を離れたギター音楽にも関わりました。チェット・ベイカーらと共演した『アランフェス協奏曲』などもその例ですが、こうした一連の嚆矢となったのは、このアルバムだったのではないでしょうか。 

同じジャズ・ギターの巨人であるジョー・パスもそうですが、ジム・ホールもまた自分の音楽性がジャズの流行と一致しない不幸を背負った人でした。その結果、これだけのビッグ・ネームでありながらリーダー・アルバムが意外に少ないのですが、そんな状況のジム・ホールを高く評価したのはドイツでした。本作は、ギターをオーバーダビングした曲あり、コーラス・グループであるフィフス・ディメンションのカバーあり、オリジナル曲に至ってはそれまでのジャズやジャズ・ギターにおさまらない挑戦あり。ポピュラーにより近づいた作品ですが、一筋縄でいかない独特のギター音楽を楽しむことができます。

■Jim Hall / Live! (Horizon, 1975)

モダン・ジャズのギタリストとしてのジム・ホールの真骨頂を聴くなら、なにはともあれこのアルバムです。ここまでアグレッシヴに即興演奏したジム・ホールは他にないのではないでしょうか。ピアノにも管楽器にも頼る事の出来ないギター・トリオという状況で、メロディもハーモニーも、まさに変幻自在で即興演奏してしまいます。

なお、こうしたジャズ・チューンでの見事な演奏を聴くなら、ロン・カーターとのデュオ『Alone Together』(Milestone, 1972)、『Live at Village West』 (Concord Jazz, 1982) のふたつも推薦です。ドラムレスな分だけ、あたたかいジム・ホールのジャズ・サウンドをより堪能する事が出来ます。

■レコード高価買取に関するあれこれ

『Undercurrent』は、のちにブルーノートからもリリースされましたが、元々はUnited Artist s Jazz のカタログです。62年発表時にはモノとステレオの2タイプが発表され、ジャケットはモノクロでロゴが入っていません。これは現在数万を超すプレミア盤となっており、ゲートフォールド仕様のステレオ盤は5万円を超す事もある状態です。

『Live At Village West』は、LPレコードを探すと意外に見つからず、CDも高額化しています。内容はジャズ・ギターの歴史に残るほどの名演ですので、これからプレミア盤として定着していくかもしれません。ロン・カーターとのデュオでは、『Alone Together』の方が有名で、こちらも素晴らしい演奏ですが、ヒットしたからか、そこまでプレミア化はしていないようです。

もし、ジム・ホールのレコードを譲ろうとお考えでしたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。思わぬ高額買取りをしてくれるかもしれません。