50年代にはすでにフリージャズと呼んで音楽を作り出していたピアニスト作曲家が、セシル・テイラーです。過激なほどの白熱した演奏の印象も強く、一部ではその点ばかりが取り上げられるきらいもありますが、実はニューイングランド音楽院などでピアノのみならず作曲法や和声法を学び、正式に西洋音楽を修めた立派なミュージシャンでもあります。

ジャズマンという生き方をしたため、どうしてもジャズのフォーマットに則った音楽や、大道芸的な即興演奏芸を披露したレコードも生み出しましたが、20世紀クラシックの先鋭的なサウンドを受け入れられるだけのユニット作曲を施したアンサンブルを試みた音楽は、芸術音楽と呼んでまったく違和感のない境地にまで達していた、素晴らしいミュージシャンでもありました。

今回は、セシル・テイラーの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただきます。

■Cecil Taylor Quartet / Jazz Advance (Transition, 1957)

セシル・テイラーの初リーダー・アルバムです。スティーヴ・レイシー参加、ジャケットには「Cecil Taylor Quartet」と書かれていますが、レイシーの参加したカルテットでの演奏は7曲中2曲のみ。後年になって、クレジットから「Quartet」が外されたのはこれが理由でしょう。

アルバムの半分は、セロニアス・モンクのような少し風変わりなバップ。これだけでもかなり面白いですが、白眉はアルバム後半に入っている2曲です。「You’d be so nice to come home to」は、原曲が分からないほど即興の度合いが増し、オリジナル曲「Rick kick shaw」では、リズム・セクションがジャズのビートをキープしつつ、半音階を感じさせるピアノが独特のサウンドを持ってインプロヴィゼーションを繰り広げます。

50年代には先鋭的なジャズ自体があまり聴かれる状況ではありませんでしたが、僅かにあったものも、クラシックの近現代曲をベースにした白人音楽が先行していました。その中で、アフリカン・アメリカンが先導した60年代以降のフリージャズがすでに確立されている事に驚きを禁じえません。

■Cecil Taylor / Unit Structure (Blue Note, 1966)

50年代から60年代初頭までのセシル・テイラーは、バップ系のメインストリームなジャズをベースにした音楽を演奏していましたが、フリージャズ全盛期に入ると、4ビートにドミナント・モーションにリハーモニゼーションを施したアメリカン・ソングフォーム形式の音楽という所謂「ジャズ」から大きく離れ、芸術音楽へと舵を切ります。ブルーノートが録音した事で、恐らくセシル・テイラーのレコードでもっとも多く聴かれただろうこのレコードは、1966年というセシル・テイラー最初の黄金期の幕開けを告げるものでした。

演奏が苛烈、さらに冒頭曲「Steps」が奇妙なメロディラインをテーマに持ち、あとはソロをまわすため、ともすれば「黎明期フリージャズの典型的な作品」と思われがちですが、アンサンブルごと作編曲した展開部を用意し、それを20世紀クラシック的な発展的なサウンド・イメージを持つ即興演奏の中で発展させた「Enter, Evening」は、以降のセシル・テイラーの即興の中でのアンサンブルとコンポジションの方法論がついに確立された瞬間だったのでしょう。

■Cecil Taylor / Great Paris Concert (BYG/Black Lion, 1973)

1966年のセシル・テイラーを録音で追うと、5月の『Unit Structures』に始まり、10月『Conquistador!』を経て(以上2作がブルーノート盤)、11月30日のパリ公演である本作へと至ります。時系列面でもそうですが、実際の音を聴いても、パリ公演が60年代セシル・テイラーの頂点である事は間違いないです。66年のユニットは、多少の楽器編成やメンバーの変更がありますが、メロディにジミー・ライオンズ(sax)、バスにアラン・シルヴァ(b)、リズムにアンドリュー・シリル(dr) という構造は動きません。特に複数管も2人ベース体制も削られた本作では、ライオンズとシルヴァの活躍が顕著。ライオンズは単管ではアドリブかテーマか見分け辛いエキセントリックな主題を見事アンサンブル上に成立させ、シルヴァはフロントのカウンターとバスを同時に演奏。フリージャズという言葉にはとても還元できないアンサンブルを形成します。

また、主題をヴァリエーション化していくセシル・テイラーの即興演奏上でのクラシカルなアプローチも見事で、芸術音楽として見た際のジャズの頂点のひとつとなるレコードだと思います。

■CT:The Quartet (Cecil Taylor•Evan Parker•Barry Guy•Tony Oxley)/ Nailed (FMP, 2000)

60年代のフリージャズの流行が去ると、先鋭的なジャズを演奏したジャズ・ミュージシャンは合衆国で苦しみます。シェーンベルクやバルトークがそうであったように、ヨーロッパではあれほど芸術志向の強かったクラシックの作曲家でさえ、合衆国では大衆迎合的な作品へと変化してしまうぐらいですから、元々の文化が芸術音楽に向いていない国なのかも知れません。80年代以降のセシル・テイラーを音楽的に受け入れたのはやはり音楽先進国のヨーロッパで、88年に行われたドイツ公演は大変な衝撃を持って迎えられ、これでFMPから数多くのレコードが発表されるようになりました。

その白眉が90年録音となる本作、イギリス勢のトップ級ジャズ・ミュージシャンとの邂逅となりました。技巧重視や内省的な演奏の多いエヴァン・パーカーも、セシル・テイラーとの共演によって生涯随一ともいえる熱い演奏を見せました。水準は高いながらも煮え切らない事の多いブリティッシュ・ジャズが、セシル・テイラーという本家フリージャズと接触する事で、ついにブレイクスルーを起こしたと瞬間とも言えそうです。

■レコード高価買取に関するあれこれ

『Jazz Advance』は、ブルーノート作品かと思いきや、オリジナルはTransition レーベルからのリリース。カタログ数の多いレーベルではありませんが、サン・ラやドナルド・バードなど、通好みの作品を揃えたレーベルです。セシル・テイラーが有名になる前の作品という事もあって希少価値が高く、オリジナル盤はプレミア状態です。海外で数万円の値が当たり前の状態で、日本では値段以前にオリジナル盤を見つける事自体が大変です。

『Unit Structures』は、66年オリジナルはモノとステレオの2種。後年の再プレスや再発がほとんどステレオである事もあって、モノ盤は大変に貴重、プレミア状態です。無論66年のステレオ盤も高評価で、1万円超えも普通に起こる状態。以降の再発も、やはり一定以上の評価を受けています。

『Great Paris Concert』は、レーベル、タイトル、ジャケットを変えながら何度も再発されたレコードです。それだけセールスに苦しみ、しかし多くのレーベルが評価した音楽という事でもあるのでしょう。初出時のタイトルは『Student Studies』で2枚組、以降は1集2集に分けて発表さるなど、とにかく形態はさまざまでした。CD化の際は、LP2枚分がディスク1枚にまとめられました。

『Nailed』は知っている人なら誰もが知る大名盤ですが、レーベルのFMP自体が解体状態となったため再発が難しく、今ではプレミア状態です。日本でもドイツ盤に日本語解説つきでリリースされた事があり、そのライナーがまた素晴らしかったのですが、今では幻となっています。

もし、セシル・テイラーのレコードを譲ろうとお考えでしたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。思わぬ高額買取りをしてくれるかもしれません。