子どもの頃、夢中になって観たテレビアニメがあります。緑色のジャケットを着た現代の怪盗、1971年から72年にかけて放送された『ルパン三世』ファースト・テレビ・シリーズです。大変な低視聴率に苦しんだ作品だったそうですが、そのアダルトなテイストは他のアニメにない独特の魅力を放っていました。(雨に)「降られた」と(女に)「振られた」を掛けたフィルム・ノワール的な知的で露悪的なセリフ回し、同時に二人の男を愛した女の物語など、アニメどころか実写テレビドラマの上を行くほどの傑作で、制作陣のレベルの高さを感じさせられました。それはセリフや物語にとどまらず、オープニングや劇中で聴かれる英詞や、陽に照らされて揺れる草を「赤い波」と例えるメタファーの素晴らしさなど、音楽や歌もインテリ感と悪さの同居した魅力あふれるものでした。

ところで、あのアニメを見るたびにクレジットで目にしたシンガー「チャーリー・コーセイ」って、いったいどのような人なのか、ご存じでしょうか。今回は、チャーリー・コーセイの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただきます。

■ザ・ヘルプフル・ソウル / ソウルの追求 (Victor, 1969)

チャーリー・コーセイは神戸で結成されたザ・ヘルプフル・ソウルに在籍、これがプロ・ミュージシャンとしてのデビューとなりました。神戸のヘルプフル・ソウルが残した録音は少ないですが、これは純粋なミュージック・アルバムとしてリリースされた唯一のLPレコードです。

ジミ・ヘンドリックスやクリームのナンバーが合計4曲とりあげられ、オリジナル曲の長尺なインプロヴィゼーションの中からもアイアン・バタフライ「イン・ア・ガダ・ダ・ヴィダ」のメロディが聴こえてくるなど、本格的なサイケデリック・ロックのアルバムです。

69年といえば、フラワー・トラベリン・バンドのデビュー・アルバムすら出てない時代です。その時代にサイケデリック・アルバムをリリースしたバンドといえばモップスぐらいしか思いつきませんが、そのぐらい先鋭的なバンドだったとは言えるのではないでしょうか。

■千夜一夜物語 オリジナル・サウンドトラック (Victor, 1969)

ザ・ヘルプフル・ソウルの残した音源は少ないですが、虫プロ制作のアニメ映画『千夜一夜物語』のサウンドトラックにも音源を残しています。映画自体がアダルト層を意識したアートとエロスの混在した大変な野心作。実写とアニメを合成した素晴らしいオープニング・シーケンスに合わせて使われた「アルディンのテーマ」は、サイケデリック感覚に満ちたザ・ヘルプフル・ソウルならではのエキゾチックなものでした。映画を観ていなくても、この曲だけは聴けば知っている人も多いでしょう。

なお、オープニング・シークエンス直後に流れる民族主義的な管弦楽曲は冨田勲による作曲。映画の素晴らしさはもちろんですが、管弦楽とサイケデリックの同居するこのサウンドトラックだけでも大変な作品と感じます。

■ルパン三世 テレビオリジナルBGMコレクション (Columbia, 1980)

低視聴率にあえいだ『ルパン三世』テレビ第1シリーズですが、再放送を繰り返すにつれて人気上昇、放送終了から8年がたった80年にサウンドトラック盤の制作が企画されました。しかしマスターテープが紛失しており、オリジナルのスコアを元に新録されたのがこのレコードです。よってオリジナルなサウンドトラックではないのですが、第1シリーズのエンディング曲のフルコーラスの詞を聴く事が出来るなど、聴きどころも色々とあります。この録音にチャーリー・コーセイも参加しました。

71年制作のルパン三世第1シリーズは、同時代のやや不良でイケてる若者のライフスタイルが反映されています。登場人物の峰不二子はニーハイブーツを履いてバイクを乗り回し、ルパンはゴーゴークラブで踊ります。神戸のインターナショナル・スクールに通うハーフだったチャーリー・コーセイの起用は、ここにあったのでしょう。ジャングリッシュではないネイティブの発音が出来るヴォーカリストだった事。グループサウンズ全盛期に、業界関係者の人気を集めたクラブで最先端だったサイケを演奏していた数少ないバンドのメンバーだった事。いずれも、ルパン第1シリーズのアダルトな魅力を引き出すに見合ったヴォーカリストでした。

■ルパン三世 ’71 ME TRACKS (VAP, 1999)

高まる需要にこたえ、マスターテープ紛失ながら、セリフをダビングする前のMEテープから音楽をつなぎ合わせる形で作られた、『ルパン三世』第1テレビシリーズの準オリジナル・サウンドトラックです。MEなので、車のエンジン音といった効果音が入っていますが、音楽自体は純然たるオリジナルです。

私は、第1テレビシリーズの音楽では、ナレーションが被さる形となった英語詞のオープニング曲が好きだったのですが、これは先述の新録BGM集には収録されていません。かといってオリジナルのオープニングから拾うと、ナレーションがかぶってしまいます。しかしこのCDではナレーションがカット。恐らく第15話『ルパンを捕まえてヨーロッパへ行こう』のラスト・シーンから拾ったバックトラックを軸に繋いだのでしょうが、子供のころから追い求めていたものがようやく形になって、本当にうれしかったです。まあそれ以前に、自分でもこれと同じ編集をして聴いていたのですが…。

■レコード高価買取に関するあれこれ

『ザ・ヘルプフル・ソウル / ソウルの追求』のLPレコードは、ブートを除けば69年リリース時にしか生産されておらず、大変なプレミアとなっています。2022年2月の日本の某オークションサイトでは、帯つきのものが35万円を超す値をつけました。同タイトルはCDでも人気があり、未開封品が1万円近い値をつける事もあります。

『千夜一夜物語 オリジナル・サウンドトラック』も、オリジナルのLPは法外なプレミアとなっています。帯つきは2万円超えもある状態。また海外でも上映されたカルトアニメという事もあり、海外で10万円以上の値をつけた事があります。

もし、チャーリー・コーセイのレコードを譲ろうとお考えでしたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。もしかしたら、思わぬ高額買取りをしてくれるかもしれませんよ。