60年代、すでに日本人ジャズ・ピアニストとしてビッグ・ネームとなっていた菊地雅章のバンドに起用されてその名を知らしめ、リーダー・アルバムを発表すると一気に人気沸騰となったサックス奏者、それが峰厚介です。

正規の音楽教育を受けたその実力は折り紙つきで、B♭管もE♭管も難なく吹き分けます。海外のジャズ・ミュージシャンが来日すれば、ギル・エヴァンス・オーケストラにも参加できる能力を発揮し、音楽の傾向問わずさまざまな海外ジャズマンとの共演メンバーに抜擢されて実力を発揮しました。まだバップやスタンダードやブルースの演奏が中心であった日本人ジャズの世界に、新主流派ジャズを持ち込んだ先鋭性も持っていました。以降、渡米から帰国したあとは、フュージョン・バンドのネイティブ・サンに参加するなど、精力的に活動を続けました。

60年代から現在に至るまで活躍を続ける峰ですが、今回はデビュー時となる70年代に発表された名盤や高額買取りレコードを紹介させていただこうと思います。

■峰厚介クインテット / Mine (Three Blind Mice, 1970)

70年発表のセカンド・アルバムです。峰はこのレコードで某ジャズ雑誌のアルト・サックス部門で渡辺貞夫に次ぐ人気を得る事になり、一気にスターダムに躍り出ました。また、後年はアコースティック・ピアノによる見事なバラード演奏を聴かせるようになった市川秀男が、見事にエレクトリック・ピアノを弾いているのも聴きどころのひとつです。

モード曲を含むアルバムの楽曲や演奏のアプローチは、少し前までの日本人ジャズでは聴かれる事の無かったものです。その演奏も、ウェイン・ショーターやデイヴ・リーブマンのそれを思わせる正確なリズム感と見事なアドリブで、その切れ味に感動を覚えるほどです。峰はジョン・コルトレーンに心酔していたそうですが、お世辞抜きでこのアルバムはもう少し先を行っているように感じます。

1970年に発表された日本人ジャズのレコードの中でも出色の名作ではないでしょうか。個人的には、これが峰厚介の最高傑作と思っています。

■峰厚介クインテット / 2nd Album (Three Blind Mice, 1972)

72年発表のサード・アルバムです。タイトルがセカンドとなっているのは、スリー・ブラインド・マイスからの2枚目のアルバムという意味でしょう。メンバーを見るとまるで渡辺貞夫バンドを引き抜いたかのようですが、音楽が違っていました。

前作『Mine』から2年の開きがありますが、内容は続編といった所で、新主流派的な色彩が強いです。1曲目「Y.M」は、マイルス・デイヴィス「So What」やジョン・コルトレーン演奏の「My Favorite Things」同様、ツーコードを往復するモード曲。曲だけでなく演奏もジョン・コルトレーンを彷彿とさせる快演です。3曲目「Striped Slocks」もフリジアンで、やはりモード。モダン・ジャズ以降、フュージョン以前という非常に音楽のレベルが高かった時代のジャズを、日本で見事に演奏しきった名演でした。

スリー・ブラインド・マイスに残した峰厚介クインテットの2枚のアルバムが日本のジャズにもたらした功績は、計り知れないほど大きなものでした。

■峰厚介 / Out of chaos (East Wind, 1974)

リーダー・アルバムを発表する前、峰厚介が注目を浴びるきっかけとなったのは、すでに大物として名声を得ていたピアニスト・菊地雅章のバンドに起用された事でした。そんなかつてのボスである菊地が、峰のリーダー作のサイドマンとして参加したのが本作です。

モード、ブルース、バラードと、バランスの取れたアルバムです。峰の演奏も相変わらずの素晴らしさですが、それ以上に耳を奪われるのは、菊地雅章の演奏でした。実際のところ、ソロに与えられた時間にしてもアンサンブル上の役割にしても、菊地は特別な待遇を受けています。峰から大先輩かつ大恩人である菊地へのリスペクトの気持ちもあったのかも知れません。

菊地の演奏は、バークレー留学の前と後で大きく変わりますが、留学後となる本作での演奏は格別で、あまりプログレッションしないモード曲でのヴォイシングなど、菊地がこのアルバムのカラーを決めているといっても過言ではない状態です。

■レコード高価買取に関するあれこれ

プレミア度という事になると、70年代初頭に発表された2枚のスリー・ブラインド・マイス盤は格別です。どちらもCDでは再発盤が手軽な価格で手に入るのですが、LPレコードは数万の値をつける超プレミア状態です。レア度や音楽の素晴らしさもさることながら、部屋に飾りたくなるほど見事なジャケット・アートも高額化している要因のひとつかもしれません。ちなみに、このジャケット・デザインを手掛けたのは西沢勉。西沢はスリー・ブラインド・マイスのアルバム・ジャケットのデザインを一手に引き受けましたが、峰厚介『Mine』はその傑作でしょう。西沢のデザインが、スリー・ブラインド・マイスのイメージの一角を作り上げたといっても過言ではありません。

もし、峰厚介のレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。