1960年代後半、イギリスで大きな潮流となっていたブルース・ロックが、より高度に、そしてよりハードになっていきました。60年代中頃にデビューしたジョン・メイオール・ブルース・ブレイカーズやローリング・ストーンズをハード・ロックと呼ぶ人はいないでしょう。しかし、60年代後半にデビューしたレッド・ツェッペリンやフリーは、すでにブルース・ロックを超える音楽を生み出していました。

フリーといえば、セールス面ではサード・アルバム『Fire and Water』、知られた曲はシンプルなロック・ナンバー「All right now」に注目が集まりがちですが、音楽的に圧倒的な内容を誇るのはそれより前。わけてもデビュー・レコード『トンズ・オブ・ソブズ』はイギリスのブルース・ロックのレベルを飛躍させたばかりか、それを超える大きな音楽的な成果すら残した素晴らしいアルバムでした。

■ブルース・ロックを超える作曲の深み

アルバム『トンズ・オブ・ソブズ』は、アルバム冒頭と最後に同じ曲「Over the green hills」を配し、アルバムを通してひとつの作品のように聴こえる作りとなっています。アルバムのイントロとコーダのように使われるこの曲は、迫力や表現には優れるものも単調になりがちだったブルース・ロックの楽曲を大きく超え出るものでした。

Aパートで弾かれるギターのアルペジオは長調か短調か判別できない音を選んでの下降ラインを作ります。その上に乗る歌のメロディはまず長調を、次に単調を示す音が提示されます。これを倚音と取るか同主調転調と取るかは考え方次第ですが、どちらともつかないサウンドが独特の浮遊感を生み出します。サビではマイナー調に代理コードを用いる事で平行進行を作り出し、スリーコードをベースにしていたブルース・ロックの和声進行面での弱点を乗り越え、またサウンドに彩を与えています。

いずれもエリック・クラプトン在籍のクリームやジミ・ヘンドリックス在籍のエクスペリエンスでさえ出来なかった作曲術で、ブルース・ロックが音楽面で次のレベルへと進化していくその過程を見る思いがするアルバムでもありました。

■マイク・ブルームフィールドと双璧をなすブルース・ロック・ギターの最高峰ポール・コゾフ

フリーといえばシンプルなロックをイメージする人も多いでしょうが、このファースト・アルバムに関して言えば、その演奏はシンプルなどという点は微塵もない圧倒的なものでした。後期フリーやバッド・カンパニーでは手数少なく叩いていたサイモン・カークも、このアルバムでは叩きまくりといってよいほどです。

中でも素晴らしいのがポール・コゾフのギターです。サード・アルバム以降おとなしくなった彼のギターも、このアルバムでは図太い音で弾き倒します。ブルース・ロックのギターの優位性に、拍を細分化するのではなく、フレーズ単位でタイムを自在に変えて演奏できる点があると思うのですが、これをやらせたらマイク・ブルームフィールドとポール・コゾフは抜群。

フリーを「ハード・ロック前夜にいたシンプルなロック・バンド」程度に思っているなら、このレコードをまずは聴いて欲しいです。ブルース・ロックの極致とも、産業化し単純化する以前の迫力に満ちた初期ハード・ロックとも取れる、素晴らしい名盤と思います。

■レコード高価買取に関するあれこれ

素晴らしい内容ながらセールス的には成功とは呼べなかったレコードなので、リリース時のレコードの枚数は決して多いものではありません。ゲートフォールド仕様にすみれ色レーベルのUKオリジナルは1万円を超えて当たり前、状態が良いものだと海外では数万円に達する事があります。

メンバー4人の写真が分割表示されるジャケット違いのUS盤は、珍しくはあるのですが評価が安定せず、1万円に迫る値をつける事もあれば、意外と安価に取引される事もあります。

フォンタナレーベルとなる69年初期日本盤はレア度もあってか、帯つきで状態が良いとなかなかの値段をつける事があります。なお、日本盤は72年以降はアイランド・ラベルとなります。

もし、フリーのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。