切れ味するどい強烈なビートをひっさげ、60年代前半のブリティッシュ・ビート・ミュージックの中心バンドのひとつとなったキンクスは、60年代末から物語性の強いコンセプト・アルバムを連発し、独自の世界観を築きあげました。嚆矢は68年発表『The Kinks are the Village Green Preservation Society』、そして翌69年に『Arthur Or The Decline And Fall Of The British Empire』(邦題『アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡』)という本格的なロック・オペラを完成させました。

今回は、ザ・フーが作ったレコード『トミー』に並ぶロック・オペラの代表作として知られるレコード『アーサー』を取り上げさせていただきます。

■風刺と劇性をミックスした見事な構成

アルバムを通してひとつの物語が完成する本作、タイトルからアーサー王の物語と勘違いしてしまいそうですが、このレコードに登場するアーサーは、現代イギリスに生きる一市民で、キンクスのデイヴィス兄弟の義兄がモデルとなっています。イギリスの一市民だった彼は国に愛着を持ち、国や家族のために大戦で戦いましたが、戦後にオーストラリアへの移住を決意することになります。

秀逸なのはアルバムの構成力で、物語がイギリス市民アーサーの物語として順に語られていくわけではありません。冒頭曲「Victoria」は大英帝国の繁栄を築き上げたヴィクトリア女王をたたえる歌。第2曲「Yes sir, no sir」は、愛する国のために戦う市民の心情を利用する事しか考えていない権力者が腹のうちが描かれます。「Victoria」の詞は、権力者の2枚舌を風刺する「Yes sir, no sir」を聴くかどうかで意味が反対になるわけです。このようにして、独立した曲をアルバム全体として聴くと、歌の意味さえ反転するようなひとつの物語が出来上がる。こうした見事な構成のアルバムでした。

■産業音楽としてだけでなく、フォークロアとしても

ロックが産声を上げた50年代も、それ以来となる衝撃をもたらしたビートルズが台頭した60年代初頭も、ロックとは何にも先行して産業音楽であって、フォークロアではありませんでした。これがミュージシャン自身のリアルな肉声として成立し始めたのは60年代の後半に入ってからのこと。イギリスのチャート音楽の先頭集団にいたジョン・レノンやキンクスが、忖度なしに市民としての言葉を語り始めた事は、ロックを次の段階に押し上げたように感じます。

本作をはじめ、キンクスには少なくとも6作のコンセプト・アルバムが存在しますが、いずれも詞が作品で重要な位置を占めています。この時代のキンクスの演奏は、お世辞にも上手とはいいがたいですが、ロック版ヴェリズモともいうべき詩の世界観は、ロックの歴史の中でも特質に値するといえるのではないでしょうか。

■レコード高価買取に関するあれこれ

ザ・フーが流通の弱いレーベルと契約したために、初期アルバムの生産量が少なくプレミア化したように、PYE と契約した初期キンクスのレコードも高額化しやすい傾向があります。まして産業音楽の逆を行ったコンセプト・アルバム時代のレコードはなおさられ、このレコードはその最たるものです。

69年発表のUKオリジナル盤はゲートフォールド仕様、ポップにデザインされたヴィクトリア女王のコミック超イラストは風刺に富むもので(各国盤はこれがないものが多いです)、1万円以上の値がついて当たり前のプレミア状態。それ以上のプレミアとなっているのが同69年発表のUKモノ盤で、これは4万5万は当たり前といった高額に達しています。そこまでではないにせよ、LPレコードであれば一定の評価をされる人気盤ではあって、70年発表の帯つき日本盤なども5000円超えが当たり前の評価となっています。

もし、『アーサー』をはじめとしたキンクスのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。