ホラー映画『サスペリア』の大ヒットを受け、日本の映画配給会社は『サスペリア2』なる映画を公開しました。しかし『サスペリア2』の原題は『Profondo Rosso』(直訳すれば「深紅」)であり、制作はサスペリアよりも前でストーリーも繋がっていないという、続編でも何でもない映画でした。しかし両者には共通点もあり、どちらもダリオ・アルジェント監督によるショッキングな恐怖映画で、演奏をロック・バンドのゴブリンが担当していました。そしてこのレコードが、イタリアのプログレッシヴ・ロックの歴史に名を残す事になるゴブリンのデビュー作となったのでした。

今回は、レコード『Profondo Rosso』(邦題『赤い深淵』または『サスペリア2』)を取り上げさせていただきます。

■実は超重要!ジョルジョ・ガスリーニの存在

イタリアのオリジナル盤のタイトル表記に従って言えば、本作は映画『サスペリア2』のサントラ以上に、ジャズ・ロック・バンドであるゴブリンのアルバムという事になります。実際、この音楽を端的に言うなら、70年代のイタリアン・プログレッシヴ・ロックの重要な一潮流となったジャズ・ロックという事になるでしょう。

面白いのは、このジャズ・ロック調の音楽を成立させた影の作曲者の存在です。作曲はゴブリンではなく、イタリアのジャズ・ミュージシャンであり映画音楽作曲家でもあったジョルジョ・ガスリーニが行っているのです。ジャズ・ミュージシャンとしてのガスリーニの素晴らしさはいつかまた紹介させていただきたいですが、イタリアのジャズがほとんど聴かれない日本の場合、ガスリーニは映画『夜』などの映画音楽作曲家としての知名度の方が高いのではないかと思います。ガスリーニはヴェルディ音楽院卒という事もあり、音列技法をはじめとした20世紀音楽の作曲技法にも通じた、正真正銘のヨーロッパ作曲家。ジャズの世界でもいわば「ジャズ以上」のものを数多く生み出した音楽家でもあります。

■70年代イタリアの映画音楽/ジャズ/ロックが融合した稀有な作品

そんなガスリーニの手によるスコアを、わざわざロック・バンドのゴブリンが演奏した理由は、この映画の監督であったダリオ・アルジェントの意向でしょう。それまでは管弦楽曲が主流であったヨーロッパの映画音楽にロックを据えることによって、アルジェントはいくつもの効果をあげていますが(映画『フェノミナ』などはその最たる例ではないでしょうか)、その最初の成果が『赤い深淵』です。それどころか、『赤い深淵』はイタリアのジャズ/映画音楽の鬼才と、70年代に興隆を極めたイタリアン・プログレッシヴ・ロックが融合する事にもなったのです。

こうした路線は初期ゴブリンの音楽の特徴となり、翌76年発表の純音楽作品『Roller』、そして大傑作『サスペリア』へと繋がっていきます。

■レコード高価買取に関するあれこれ

オリジナルのイタリア盤はゲートフォールド仕様で、映画タイトル通りに深紅のジャケットです。ジャケット内側にはこの映画の謎を解くトリックがそのまま写っているので、まだ映画を観ていない方は、内ジャケットを見ない方が良いかも知れません。

日本ではまだ映画未公開だった75年に発表された日本盤は『赤い深淵』のタイトルでリリース、ジャケットはオリジナル盤に準じた赤いデザインでした。帯コピーから類推するに、映画サントラというよりも、ヨーロッパの優秀なプログレッシヴ・ロックのレコードとして紹介されたようです。出回り数が少ない事もあるのか、帯つきとなるとオリジナル盤以上の値がつく事があり、5000円以上が相場、いびつ機となると相当な高額とる事が多いようです。なお、75年公開時の海外盤は数が少なく、日本盤のほかはオーストラリア盤とドイツ盤があるだけです。

日本盤は日本映画公開となった78年にも再度制作され、こちらは『サスペリア2』のタイトルが冠され、サウンドトラック扱いでした。ジャケットは映画のシーンをうまくコラージュしたもので、日本では平均的な相場のようですが、海外では人気が高く、3000円台後半から、帯つきとなると1万円を超える事もあるようです。

もし、ゴブリンや『サスペリア2』のレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。