アメリカの自動車産業の中心地 デトロイトを擁するミシガン州は、ロックでは過激なバンドを輩出する事でも有名です。20世紀合衆国のチャート・ミュージックは白人と黒人の聴く音楽が明確に分かれていましたが、ブルース、ジャズ、ソウルという伝統をはぐくんだデトロイトの黒人音楽に対し、白人音楽はデトロイト出身のビル・ヘイリーと56年のエルヴィス・プレスリー公演によって、ロックンロールをベースにする土壌が出来上がりました。ミッチー・ライダー&デトロイト・ホイールズをはじめ、60年代からしばらくのデトロイトのロックバンドにはロックンロール色を感じさせるバンドが多いですが、それはデトロイトでの初期衝動がロックンロールにあったからでしょう。こうして60年代のデトロイトにはロックンロール色の強いバンドが数多く生まれ、中でも労働者の子供たちが熱狂したのが、それをさらに過激に演奏したガレージ・ロックでした。

MC5と並んでデトロイトのガレージ・ロックを代表するバンドがストゥージズです。ロックンロールをよりシンプルかつラフにしてサイケデリック色を強めた音楽性、「お前の犬になりたい」といった倒錯的な詩、ステージ上で自傷行為を行って血まみれで歌うイギー・ポップのパフォーマンス、これらが粗暴で野卑なガレージ・ロックの象徴となり、また反体制を標榜するパンク・ロックの先駆ともなりました。

今回は、ザ・ストゥージズの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただきます。

■The Stooges (Elektra, 1969)

69年発表、ストゥージズのデビューアルバムです。のちにパンク・ロッカーたちがこぞってカヴァーした「1969」や「I wanna be your dog」といったストレートなロック・ナンバーが有名ですが、このアルバムに漂う独特の不穏さは、これら有名曲以外のところに現れているように感じます。

ほとんどワンコードで演奏され、その上をファズやワウで過剰に変質させられたギターが這いずるBサイド曲の数々、ジョン・ケイルのヴィオラがドローンを作り上げ、まるで葬送曲のように歌が木霊する「We will fall」などがその例で、ガレージ・ロックが暗にそのアイデンティティとした狂暴性はこうした曲により強く感じられます。プロデュースと演奏に参加したヴェルヴェット・アンダーグラウンドのジョン・ケイルの意図が少なからずあったのではないでしょうか。

リリース時から世界発売されたレコードなだけに、69年プレスでも各国盤が出回っています。しかしその数は決して多くなく、特にAB面ともコロムビア・ピットマンのプレスとなった(盤面「CP」の刻印が目印になります)USオリジナル盤は1万円超えが当たり前、海外のオークションでは7万円を超えた事もあります。

■The Stooges / Fun House (Elektra, 1970)

70年発表のセカンド・アルバムです。音楽はファーストアルバムと同傾向ですが、制作陣からジョン・ケイルが外れた事で、音楽を不穏な方向に意味づけする数々の道具立てが排除され、よりストレートになりました。それでも、ワンコードで演奏されてギターが暴れる曲、フリージャズと見まがうような無調インプロヴィゼーション「L.A.Blues」など、初期ストゥージズ独特のサイケデリックなガレージ感覚は失われていません。サイケデリックなガレージ・ロックとしてのストゥージズは初期2枚までで、どちらもロック史に名を残す名盤と思います。

ファーストアルバムに続き、これもレコードはプレミア化しています。ゲートフォールド仕様の70年USオリジナルは1万円から5万円あたりの価格がついて当然の状況。セカンド・アルバムはリアルタイムで日本盤も制作され、裏面などのジャケット・デザインが違う日本盤は、帯つきで状態良好となると驚くほど高額化する時があります。それにしてもこのジャケット、不穏で恰好いいですよね。

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■Iggy And The Stooges ‎/ Raw Power (Columbia, 1973)

2枚のアルバムのセールスが芳しくなく、またメンバーがヘロインに溺れた事も重なり、ストゥージズはエレクトラから契約を切られます。その間にイギー・ポップはデヴィッド・ボウイとも親交を深め、ジェームズ・ウィリアムソンという凄腕ギタリストを加入させてバンドを立て直し、「Iggy And The Stooges」とバンド名を改めて再出発。その第1作がこのレコードです。

音楽/演奏面からみた本作はジェームズ・ウィリアムソンに多くを拠っています。不穏さを醸し出すと同時に単調でもあった演奏が発展したのはジェームズ・ウィリアムソンひとりの力と言っても良いほどで、ギターだけでオーケストレーションのほとんどが成立しています。パンク系のギタリストとしては、ウィルコ・ジョンソンやロバート・クワインとともに、後世まで名を残すひとりかと思います。

同時に、詞や音楽がサイケデリックさを薄めてプロト・パンク的な色を濃くしたのも特徴です。アルバムタイトル曲「Raw Power」の中に、「俺は世界に忘れられた男」という詞が出てきます。ストゥージズの出身地ミシガン州アナーバーにはミシガン大学があり、これが自動車産業と並んでアナーバー経済の中心となっていますが、イギー・ポップはミシガン大学をドロップアウトした過去を持っています。そして70年代、アメリカの自動車産業は斜陽となり、スラム街が形成され、労働力として集まったアフリカ系アメリカ人と白人の間で対立が生じ…ストゥージズがどういう聴衆の心情に響いて何を代弁していたのか、これが「Raw Power」の詩に凝縮されていると感じます。

同タイトル同ジャケットながら内容が相当に変わるレコードというものがありますが、本作はそのひとつです。当初、このレコードのミックスはデヴィッド・ボウイが担当していました。しかし評判が芳しくないため、のちにイギー・ポップ本人がリミックスを手がけました。良し悪しはともかく、ボウイ版ミックスとなったレコードは価格高騰、コロンビア盤USオリジナルはプレミアがつき、3万円を超えるものを目にする事もあります。

■寡作・短命に終わったプロト・パンクの代表バンドのオリジナル・アルバムは、買取り価格も上昇

MC5同様、ストゥージズも熱狂的な聴衆を集めながら、レコードセールス面では苦戦したバンドで、その評価が高まったのはパンク・ロックがブレイクしたのちに起きたプロト・パンクとしての再評価からです。つまりオリジナル盤の出回り数はのちの重要に比べて圧倒的に少なく、これがオリジナル・アルバムのプレミア化につながったのかも知れません。

もし、ザ・ストゥージズのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。