ピアノだけでなく、プロデューサー、劇音楽の作編曲など、多岐に活動を展開する佐藤允彦という音楽家をひと言で語るのは難しいです。それでも、その本筋はやはり先鋭的な音楽を生み出してきたジャズ・ミュージシャンとしてではないでしょうか。

幼少時にヴァイオリンを手にし、慶應大学卒業後は渡米してバークリー音楽院に学びました。たしかな音楽教育を受けてきた技術と知性をもって、帰国後はニュージャズから現代音楽に至るまでの音楽を手がけ、富樫雅彦や高柳昌行といった猛者がひしめく日本の先鋭的なジャズ・シーンで存在感を放った素晴らしいミュージシャンです。その演奏技術は、菊地雅章や山下洋輔といった同時代に活躍した素晴らしいピアニストをも凌駕、ドイツでも高く評価され多くのレコードを生んだほどでした。

今回は、佐藤允彦の名盤や高額買取りレコードを紹介させていただこうと思います。

■佐藤允彦トリオ / パラジウム (Express, 1969)

当時日本のジャズメディアの中心にあったスイングジャーナルで日本ジャズ賞を受賞、佐藤の名を一躍轟かせたレコードです。バークレー音楽院を卒業したばかりの佐藤允彦は、ここで60年代ジャズの最先端を行く音楽を披露しました。当時のアメリカの第一線にあるジャズ・ピアニストに比肩するプログレッション内インプロヴィゼーション、モード以降に急速に発展した多才なサウンド・パレットの獲得など、作曲家としても演奏家としても見事な演奏を披露しました。

しかしそうしたジャズの第一線以上の音楽にまでアプローチできたところが、このレコードの素晴らしさではないでしょうか。本作の冒頭、ビートルズの「ミッシェル」をモチーフとした大楽節を持つ音楽を作り上げていますが、ピアノのプリペアド、内部奏法、ディミニッシュを基調とした不安定な和音で形成する序章部分などは明らかに現代音楽を視野に入れたもので、楽式や和声を含めて当時のジャズだけでなく、より広く音楽を捉えた作品でした。

レコード番号EP-8004の1969年盤(指ジャケット)は高額必至で、特に赤盤となると2万円を超えるプレミアがつく事もあり、高額での買取りが期待できます。78年以降の再発盤はジャケットのデザインが変わりますが(魚ジャケット)、これも初期盤ほどではないにせよやはり高い価格がつくことがある人気盤となっています。

■Attila Zoller · Masahiko Sato ‎/ A Path Through Haze (MPS, 1972)

ジャズ・ピアニストとしての佐藤允彦の実力を知ることが出来るすばらしいレコードです。ドイツのレーベルMPSからリリース、佐藤允彦トリオとギタリストのアッティラ・ゾラーの共演作です。アッティラ・ゾラーはギターのエリック・ドルフィーと呼びたくなるようなプレイヤーで、通常のコード・プログレッションの上でも奇抜なメロディラインと独特かつ卓越したインプロヴィゼーションを行うばかりか、ニュージャズ特有の独特なモーダルな調域でも見事なインプロヴィゼーションを披露してくれます。本作でもそうしたゾラーの音楽性が発揮されますが、佐藤はそれを受けるばかりか対等以上に渡り合い、ジャズ・ミュージシャンとしての即興演奏能力を示しました。「Black Is The Color Of My True Love’s Hair」での佐藤の高速での演奏は驚異です。

MPS のオリジナル・レコードは再発されず仕舞いのため平均以上の値がついています。日本盤も再発回数は少なく、やはり平均以上の値がついています。いずれのミュージシャンもジャズを聴いていればいずれ行き着く通好みなミュージシャンのため、この出回り数の少なさからすると今後は買取り価格が上がっていくかもしれません。なお、このデュオは『Duologue』というアルバムも発表しており、これもすばらしい内容です。

■富樫雅彦+佐藤允彦 / 双晶 (Trio, 1973)

1973年の6月から7月にかけての2週間、アート・シアター新宿文化劇場にて日本初のフリージャズ音楽祭が開かれました。この模様は2枚組レコード『インスピレーション&パワー14』として内容が抜粋されてリリースされましたが、本作は7月7日に行われた富樫雅彦と佐藤允彦のデュオの記録です。

『パラジウム』が現代音楽寄り、『A Path Through Haze』がニュージャズ寄り、そして本作はフリー・インプロヴィゼーションです。しかしさすがに日本を代表する卓越したジャズ・プレイヤーだけあって、第1主題、第2主題…と立派なフラグメンツや構造を構築しており、これがフリー・インプロヴィゼーションとは思えないほどの完成度です。個人的に、佐藤允彦の代表作を挙げるなら、本作か、後年発表されたやはり富樫雅彦とのデュオ『Contrast』のどちらかです。

日本のフリージャズにさん然と輝く名盤ですが、このレコードのマスターテープは既に紛失しているらしく、現状でも一定以上の価格で取引されており、今後ますます値が上がっていくのではないかと思われます。

また、後年にコンサート全体をフル収録したCD『カイロス』が発表されました(PJL, MTCJ-5503)。カセットテープから起こしたため音質は『双晶』には及ばないものの、それでもピアノが低音抜けしている以外はカセット・マスターとは思えない良好な音質であり、また60分と『双晶』の倍を超える収録時間も魅力で、こちらもプレミア化しています。

■佐藤允彦のレコードは先鋭的なジャズに取り組んだものが買い取り対象になりやすいか

60~70年代の日本の先鋭的なジャズのトップランナーのひとりであり、またドイツのレーベルMPSからも高く評価されて海外ミュージシャンとの共演作も数多く出してきた佐藤ですが、他にも仕事としてテレビ音楽、博覧会などのシアター・ミュージック、当時結婚していた中山千夏とのポップス作品など、さまざまな活動をしています。この多彩さがむしろアーティスト性を損ねているようにも感じますが、芸術音楽に取り組んだ時の作品のクオリティは文句なしの素晴らしいもので、レコードの人気はやはりそういった作品に集まっているようです。

もし佐藤允彦のレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。