20世紀初頭、フォードがその本拠地とした事でアメリカ自動車産業の要地となったデトロイトは「モーターシティ」と呼ばれ、アメリカの産業の要地として発展しました。しかし工場の安価な労働力としてアフリカン・アメリカンを集めたため、代償としてスラム街を多数発生させます。そこから白人の流出現象が起き、日本車の登場による大規模な不況、浮浪者の増大、インナーシティの発生など、治安は悪化していきました。そして1967年、ついにデトロイト暴動が起き、街が焼かれる事態に発展します。

デトロイトで生まれたロックが過激化するのは自然な流れだったのかも知れません。中でも有名であったのがストゥージズ、そして今回取り上げるMC5です。フリージャズに強くインスパイアされたそのサウンドは過激なものでした。

今回は、MC5の名盤や高額買取りレコードを紹介させていただこうと思います。

■Kick Out The Jams (Elektra, 1969)

MC5のデビュー作はライブアルバム、バンドの最高傑作です。Aサイドはすべてきわめてハードなロック曲で埋め尽くされます。ラウドながら技の多いドラム、左右から飛び交う激しく歪んだギター、そして絶叫をやめないヴォーカルと、激しいこのバンドの魅力が詰まっています。しかし勢いだけのバンドではなく、「Borderline」や「Starship」に聴かれる独特の展開を含む構成力や、ジャズへの傾倒があったのではないかというほどに見事なドラミングなど、頭も技もあるバンドであったことが分かります。

詞も扇情的なものが並び、ライブという事もあって数多くのMCも含まれていますが、その中で叫ばれる「Mother fucker」の一節が大きな問題となりました。このセリフを差し替えたバージョン違いのレコードが生まれています。この文言を含む本アルバムの過激さから、デトロイトの某デパートチェーンが本作の取り扱いを拒否する事態へと発展、最終的にMC5はエレクトラ・レコードとの契約破棄となってしまいます。

この「Motherfucker」のMCとジョン・シンクレアの過激な宣言文の入ったゲートフォールド仕様の初期盤は、状態さえ良ければ1.5万円を優に超える高額プレミア盤となります。以降、世界中で果てしない数の再発がされ、レコード盤であればいずれも一定以上の価格での買取りされる人気となっています。

■High Time (Atlantic, 1971)

バンドが活動していた時期に発表されたMC5のレコードは3タイトルしかなく、これがラストアルバムとなります。セカンド・アルバム『Back in the USA』が演奏も録音も大人しいロックンロール・トリビュート・アルバムであった事を考えると、MC5自体の音楽性を記録できたスタジオ録音のアルバムはこれが唯一と言えるかもしれません。

「Gotta Keep Movin’」「Future/Now」「Poison」といった優れたロックナンバーが多数収録されている中、ロック史の中で特別な位置を占めていると思われる演奏が「Skunk (Sonicly speaking)」で、ほとんどフリージャズというほどの爆発力ある打楽器群の演奏は傾聴に値します。

このレコード、発表時には宣伝がほとんどされなかったそうで、バンドのオリジナル・レコードとしては最低の売り上げであったそうです。しかし内容は決して低いものではなく、質に対して量がない事からか、USオリジナルは5000円を超える価格での取引が目立ちます。

■Babes In Arms (ROIR, 1983)

もともとニューヨークのカセット専門レーベルからリリースされたコンピレーションです。ミックス違いや貴重なデモ音源を数多く含み、内容の素晴らしさが評判を呼んで後にレコード化されました。

映画劇伴のために録音されるもオフィシャルにはリリースされなかったサイケデリックな魅力あふれる「Gold」、ガレージな魅力あふれるデモ録音「I just don’t know」、アルバム『Back in the USA』収録バージョンの大人しさが嘘のようなノイジーなギターが暴発する「Looking at you」など、本作でないと聴くことが難しいトラック多数、正規のスタジオ盤をはるかに凌駕するガレージでアヴァンギャルドな魅力にあふれたアルバムです。

2種類のジャケット違いがある日本盤は、日本よりむしろ海外でプレミア化しているようです。

■Teen Age Lust (Total Energy, 1996)

良きにつけ悪しきにつけ注目を集めながら、その過激で反社会的なパフォーマンスや活動期間の短さなどから、MC5は知る人ぞ知る伝説のバンドとなりましたが、「Kick out the jams」や「skunk」に触れたリスナーからの支持は後を絶たず、ブートレグが次々に登場しました。特に『Kick out the jams』で聴かれたライブ演奏の凄まじさから、ライブ音源は数多くリリースされ、これはジョン・シンクレアがプロデュースした数少ない正規盤ライブです。

こもりがちで音質は良くないですが、「Looking at you」「Human Being Lawnmower」といったナンバーのライブ演奏を聴くことが出来るのはたしかに貴重です。

■MC5はレコード自体が貴重、オリジナル盤はいずれも一定以上の買取り価格が見込めるかも

ロック・ファンでさえあれば、聴けば誰もが熱狂するほどの素晴らしさの『Kick out the Jams』という大傑作を残しながら、MC5は知名度がもうひとつありません。それが日本での出回り数の少なさにつながったか、オリジナルのレコードは3作すべてがそれなりの価格になっています。また、解散後に発表されたライブ盤やコンピレーションにも素晴らしい作品が埋まっているなど、中古レコードを探していると宝探しのような楽しさもあるバンドだと思います。

もしMC5のレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。