ストリーミングやCDといったデジタル音源の視聴に比べると、アナログであるレコード・プレーヤーは、調整に少しばかり手間がかかります。それでもレコード・プレーヤーは、ある程度いい加減に調整しても音が鳴ってくれるので、大まかな調整をしたまま使われている方もいらっしゃるかも知れません。しかし手間をかければかけるほど、レコード・プレーヤーは良い音を出してくれるようになりますし、針飛びや回転ムラといったもっと根本的な不具合の修正もする事が出来ます。

今回は、レコード・プレーヤーの基本的な調整方法をご紹介させていただきます。

■設置場所

レコード・プレーヤーは、レコードを回転させ、その上に針を乗せて音を出す装置です。そのため、設置場所は水平な場所であることが条件です。また、レコード・プレーヤーは常に物理的に運動するため、出来れば硬い材質のものの上が理想です。良質のオーディオ・ラックが高額である理由は、このふたつを満たすために材質や構造を計算するためなのでしょう。設置場所も、スピーカーなどの振動の影響を受けにくい場所が理想です。

私は、ツアー・ミュージシャンが使うようなラック・マウント式のキャスター付ラックにオーディオ装置を組んだ事があるのですが、困ったのがレコード・プレーヤーでした。安定せず水平が取れない状況だと、これだけLRバランスや回転ムラに影響するのかと驚きました。

オーディオの設置環境は人それぞれですが、レコード・プレーヤーは振動を受けにくい場所に、そして安定した水平面に設置するようにしましょう。

■レコード・プレーヤーの水平

設置場所が決まったら、レコード・プレーヤーの水平を取ります。水平を取るためには水準器というものを使います。水平が取れれば何でも構いませんので、水準器をお持ちの場合はそれを利用して下さい。持っていない場合は、カメラやレコード・プレーヤー用の手ごろなものが売っていますので、それを購入すると良いでしょう。

高さ調節は、脚で高さ調節できるレコード・プレーヤーであれば、脚を回転させて調節します。私が持っているプレーヤーのひとつは、高さ調節できる脚がついていないもので、レコード・プレーヤー付属の脚は外し、別途インシュレーターを購入してレコード・プレーヤーの下に敷き、高さ調節しました。

■カートリッジ取り付けとオーバーハング調整

次に、カートリッジの取りつけです。カートリッジはヘッドシェルに取り付けますが、ヘッドシェルがトーンアームから着脱出来るユニバーサル型の場合、ヘッドシェルを取り外してカートリッジを取り付けると作業が楽です。ちなみに、トーンアームにはそれぞれカートリッジの重さ制限がありますので、カートリッジ購入の際は重さに注意してください。

カートリッジはヘッドシェルにまっすぐネジ付けしますが、最初は仮留めでネジはゆるめにしておき、しっかり締めるのはオーバーハング調整の後にします。

(オーバーハング調整)

次に、オーバーハング調整です。これは針先とレコード・プレーヤーの接地点が、レコードの中心の延長線上に来るようにする調整です。オーバーハングがレコード・プレーヤーやトーンアームによって指定されている場合(例えば「ヘッドシェルの根元からXミリのところに針先が来るように」など)、その通りに調節します。

もし指定が分からない場合、オーバーハングを自分で調整します。要するに、ターンテーブル中心の直線上に針先がまっすぐくれば良いです。やや厚い紙を用意し、同一の中心点に沿ってコンパスでいくつもの円を書き、また中心点から外側に向かって直線を引きます。この紙をターンテーブルの上にのせ、カートリッジが円と水平になるようにし、針先が紙に書いた直線上に来るようにします。

こうする事で、曲線であるレコード溝のうち、なるべく直線となる部分で音を拾う事が出来るようになるわけです。オーバーハング調整が終わったら、カートリッジをヘッドシェルに本締めします。

■針圧/インサイドフォース・キャンセラーの調整

レコード・プレーヤーの調整と言えばこれ、針圧調整です。針圧とは、レコード針がレコード盤に乗る圧の事で、これが軽すぎると針飛びを起こしやすくなり、重すぎると高域が詰まったような音、さらに行き過ぎると歪んだような音になります。適切な針圧はカートリッジによって定められており(適正針圧)、その値に調節する事になります。

(ゼロバランス調整)

まずは、トーンアームのおもり側とカートリッジ側が釣り合うよう、バランスウェイトを移動させ(ほとんどの場合、バランスウェイトは回転させることで移動する機構となっています)、調節します。トーンアームが水平になったところで、針圧のメモリのついたリングのみを回転させて、メモリをゼロにします。このトーンアームが天秤上に釣り合った状態にする調整を「ゼロバランス調整」と言います。

(針圧調整)

次に、カートリッジ毎に指定された針圧になるよう、メインウェイトを回転させます。針圧調整はこれが基本ですが、好みによって針圧を強めにしたり弱めにしたりすることも可能です。もっと高域を奇麗にしたいのであれば針圧をやや軽めに、太い音にしたければ強めにかけるのも、アナログならではの楽しみ方です。

(インサイドフォース・キャンセラーの調整)

トーンアーム式のレコード・プレーヤーの場合、その構造上、レコード針が内側に引っ張られる力が働き、その力を「インサイドフォース」と呼びます。その力を相殺するのがインサイドフォール・キャンセラーです。インサイドフォース・キャンセラーは、アンチ・スケーティングとも呼ばれます。

インサイドフォース・キャンセラーは、針圧と同じ値に設定します。

■トーンアームの高さ調節

トーンアームの高さを調節します。ターンテーブルにレコードを置き、ターンテーブルを回転させずに針を下ろし、横からアームを見て、レコード盤とアームが水平になるように調節します。

トーンアームの高さ調節をいつ行えばよいかは難しい所ですが、アームの高さ調節が楽にできるレコード・プレーヤーやトーンアームであれば、針圧調整の後が理想です。しかし高さ調節に手間がかかるトーンアーム(例えば、高さ調節するとゼロバランスが狂ってしまうような機構のもの)の場合、針圧調節の前に大体合わせ、針圧調節後に問題ないかチェックすると良いかも知れません。

■回転数の調整

最後に、レコードの回転数の確認を行います。レコード・プレーヤーの回転数に関する仕組みは、プレーヤーによってまちまちです。回転数が33と45の2種類固定のもの、自由に変えられるもの。回転数の変更を電源周波数に同期させているもの(この場合は東日本と西日本で別モデルになります)、ベルトで調節しているもの、電子切り替え式のものなど、様々です。

回転数の確認と調整は、レコードの回転数を調べる回転計やストロボライトを使用します。また、測定器とオーディオ・チェック・レコードを持っている場合は、1キロヘルツなどの信号を測定して調節する方法もあります。

■レコード・プレーヤーは調整で大きく変わる

CDやストリーミング、ダウンロードといったデジタルの音源に比べ、レコードの魅力は何と言ってもアナログである点でしょう。アナログ機器であるレコード・プレーヤーは、調整や手入れなどによって、その能力が大きく変化します。どうぞ、レコード・プレーヤーを良い状態で使いこなして、アナログならではの素晴らしい音質で音楽を楽しんでください!