60年代後半に浮上したハード・ロック創成期には、強烈な個性を持つバンドが数多く存在しました。レッド・ツェッペリンはブリティッシュ・トラッドから引き継いだ複雑なオープン・チューニングを駆使し、ディープ・パープルはオーケストラとの共演を実現させるだけの演奏技術を備えていました。

ブラック・サバスは、不穏なサウンドや執拗に繰り返されるリフを軸に、劇的構成を持つ楽曲やアルバムを作り上げ、唯一無比のキャラクターを持つに至ったハードロック・バンドです。「悪魔の音程」と言われる減5度という不安定なサウンドを多用したサウンドは、詞とともにサタニズムや黒魔術というイメージをバンドに纏わせ、のちにドゥーム・メタルと呼ばれるようになるジャンルを生み出したほどでした。

今回は、そんなブラック・サバスの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただこうと思います。

■Black Sabbath (Vertigo, 1970)

「ブラック・サバス」(黒い安息日)というバンド名は、イタリアン・ホラーの巨匠マリオ・バーヴァの映画タイトルから借用したもの。パーヴァ映画に多くの人が詰めかけている様子を見たギーザー・バトラー(ブラック・サバスのオリジナル・ベーシスト)が、「人は恐怖に惹きつけられる」と感じたことが、命名の理由だそうです。そしてこのコンセプトは、音楽の内容にまで発展していきます。

「恐怖」というコンセプトは、本デビューアルバムの時点ですでに徹底されていました。アルバム冒頭では雨の音が聴こえ、教会の鐘が鳴り、雷鳴がとどろき、そして聴こえてくるイントロで使われる3つの音は悪魔の音程関係にあります。以後も「魔術師」、「Behind the Wall of Sleep」(恐怖小説の作家ラヴクラフトの短編小説のタイトル)、「魔女よ、誘惑するなかれ」、「N.I.B.」(ルシファーの視点による詩を持つ)と徹底してサタニズムや黒魔術を扱った詩で埋め尽くされ、その徹底度には舌を巻かされます。

また、メドレーを1曲と数えると全5曲という長尺楽曲で埋め尽くされた本作は、劇的構成に優れるバンドの特徴をも示していました。冒頭を飾る「Black Sabbath」は悪魔の音程による不気味な曲想だけでは終わらず、途中でテンポとデュナーミクを増し大きな盛り上がりを見せ、アルバム最後の「眠れる森~警告」は、中世のミンネジンガーを思わせる弦楽器アルペッジョから始まり、移調やリズム変更を繰り返して曲を展開させていきます。ロックの視点から見ればハード・ロック全盛期の名盤のひとつであり、ヘヴィーメタルの視点から見ればメタルのルーツのひとつとなった重要なロック・クラシックという位置となる、ブラック・サバスの代表アルバムのひとつではないでしょうか。

魔女を思わせるジャケット・アートの秀逸さもあってか、ジャケットの大きなLPレコードは現在でも人気があります。UKオリジナル盤は見開きジャケットとなっており、日本で8万円超えの値がついていた事があります。恐らく今後一層高くなっていくのではないでしょうか。また、日本盤も国内外でなかなか人気があり、74年Vertigo盤(70年発表時はフィリップス)の帯・ライナーつきに1万円ほどの値がついているのを見た事があります。

■Paranoid (Vertigo, 1970)

ブラック・サバスでもっとも一般に知られた曲というと、「パラノイド」か、プロレスのロード・ウォーリアーズの入場曲としても一世を風靡した「アイアン・マン」のどちらかでしょうが、その両方が収録されているのがセカンドアルバム『パラノイド』です。イギリスでチャート1位を記録し、ブラック・サバスを大メジャー・バンドへと引き上げたレコードともなりました。

アルバム全体でひとつの交響曲であるかのようなコンセプト色の強かったデビュー・レコードとは対照的に、ハード・ロック調にまとめた楽曲を集めた印象の強いアルバムです。それが、個別の楽曲の完成度に繋がったのかも知れませんね。

デビューアルバムほどではないにせよ、このレコードも、やはりUKオリジナルの70年Vertigo盤は1~3万円が当たり前という高額で取引されています。そしてやはり日本盤の人気がやはり高く、帯とライナーつきのレコードにオリジナル盤以上の値がついているのを見た事があります。例えば、2020年11月のYahooオークションでは、見開きジャケットのフィリップス盤帯つきに、29501円という値がつきました。

■Black Sabbath Vol.4  (Vertigo, 1972)

ブラック・サバスの代表作は何かと訊かれれば、私ならば迷うことなく72年発表の本作と答えます。一般にも本作を代表作に挙げる人が多いようです。演奏のレベルは初期では出来なかっただろう音楽の演奏を可能にしていて、楽曲の完成度も高く、そして練りに練られたアルバム全体がブラック・サバスのすべてのレコードの中で群を抜く構成力と感じました。その構成力たるや、デーモニッシュなハード・ロック曲を軸としながら、まるでアルバム全体を考えながら作曲されたかのようです。私はこのレコードをLPで聴いていたのですが、マルチディレイや残響などだけが響く曲、短く挟み込まれるインスト、終盤でまったく別の曲が始まったかのように大きく展開する第1曲「Wheels Of Confusion」などが挟み込まれるので、どこまでがどの曲か混乱するほどでした。

■オリジナルUKオリジナルのVertigo盤は高額必至、日本盤帯つきも高額買取の傾向

ロックとジャズではレコードの価値判断の基準が若干違うようです。ジャズのレコードの場合、オリジナルマスターに近いものほど高音質であるのではないかという推測が高額化の主要因であるように感じますが、ロックの場合はそれだけでなく、帯の付属やジャケット違いといった「もの」としての価値も人気や買取り価格に大きく影響するようです。

60~70年代前半のロック全般に言える事ですが、オリジナル盤だけでなく日本盤も高く評価される傾向があるようです。帯の魅力が高い事も間違いありませんが、日本人はレコードを丁寧に扱う人が多いので状態の良いものが多い事も理由のひとつかも知れません。15年ほど前、ニューヨークの中古レコード店に寄った事があるのですが、「どうやればここまでジャケットにダメージを与えられるのか」と思わされるレコードもそれなりにありました。なるほど、海外での日本盤の評価もうなずけますね。

ブラック・サバスのレコードも例外ではなく、初期レコードはUKオリジナルや帯つき日本盤の人気が高く、高額化する傾向があります。ブラック・サバスがオリジナル・メンバーで演奏したレコードは6枚ありますが、これらはすべて人気があります。今回紹介したレコードの他にも、文字が浮き彫りになっている『Master of Reality』、オリジナル・メンバーによる最後のアルバム『Sabotage』も、先の条件で1万円超えとなるレコードが続出する状態です。

もしブラック・サバスのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。