第2次世界大戦前後の合衆国で、ウディ・ガスリーやピート・シーガーらによってフォーク・リバイバル運動が起き、アメリカのアーリー・ミュージックにふたたび注目が集まりました。しかし社会風刺を含むそれらフォークは赤狩りの対象となり、勢いが弱まってしまいます。ところがフォークの火は消えず、プロテスト色を弱めたキングストン・トリオやブラザーズ・フォアなどの登場によって息を吹き返し、60年代前半に最高潮に達しました。この時、もっとも広く聴かれたフォークシンガーが、ボブ・ディランです。

彼は、フォークシンガーのみならずロック・ミュージシャンも数多くカバーした「風に吹かれて」や「ライク・ア・ローリング・ストーン」の名曲を生み、ギター弾き語りに拘らずにエレクトリック・バンドを組んでフォークロックの先鞭となり、さらに歌手としてはじめてノーベル文学賞を受賞するなど、ミュージシャンとしてだけでなく、文化人として戦後の市民文化に影響を与えました。

今回は、そんなボブ・ディランの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただこうと思います。

■Various / Broadside Ballads Vol. 1 (Broadside Records, 1963)

フォーク・リバイバル運動のただ中に発表されたオムニバス・レコードです。ちなみに、「バラッド」というのは、昔に流行したイギリスの無伴奏歌謡音楽の事で、中でも紙に歌詞とメロディを印刷して販売されていたものは「ブロードサイド・バラッド」と呼ばれていました。50年代から60年代にかけてのフォーク・リバイバル運動で、これと同じスタイルでプロテスト・ソングが流布されたのですが、その掲載紙はそのまま「Broadside」と名付けられ、それ等の曲をレコード化したのが本シリーズです。第1集ではボブ・ディランがブラインド・ボーイ・グラント Blind Boy Grunt という名義で3曲を歌っており(Columbia と専属契約をしていたために名前を変更したのでしょう)、また他のグループがディラン作曲の「風に吹かれて」を歌っています。ちなみに、ボブ・ディランは同オムニバスの6巻にも登場します。

ボブ・ディラン関連のLPレコードでも特にレア度が高いアルバムで、高額必至のアイテムです。買いたい場合は、見つけた時に買わないと一生買えない可能性が高いです。その価値が分かる買取り業者であれば高く買い取ってくれるでしょうが、なにせオムニバスですのでチェックから漏れやすいレコードでもあり、そのあたりに疎い業者さんに引き取りをお願いすると悲劇が起きるかもしれませんね。ちなみに私は、このLPレコードにお目にかかれた事がありません。

■The Freewheelin’ Bob Dylan (Columbia, 1963)

大名曲「風に吹かれて」を収録、アコースティック・ギター弾き語り時代のボブ・ディランを代表するアルバムです。ほぼ全曲をディランが作詞・作曲しており、今も聴き継がれている「戦争の親玉」などのプロテスト・ソングが語られる事の多いアルバムではありますが、トラディショナル「コリーナ、コリーナ」など、帰って来ない恋人を歌う抒情的な曲の素晴らしさにも胸を打たれます。恋人と言えば、このアルバムのジャケットでディランと腕を組んでいるのは、当時ディランの恋人だったスーズ・ロトロ。若い頃、彼女も公民権運動に参加しており、60年代のフォーク・リバイバル運動が公民権運動と連動したものであったことが分かります。

■The Times They Are a-Changin’ (Columbia, 1964)

デビュー当時のボブ・ディランはアコースティック・ギターとハーモニカによる弾き語りでフォークソングを歌うスタイルをとっていましたが、歌とギターでメロディ、バス、コードのバランスを絶妙にアレンジした曲が揃っているのがこのアルバムです。「Ballads of Hollis Brown」、「North Country Blues」のギター・アレンジはドック・ワトソンあたりにも引けを取らない見事さです。一方、スペイン旅行に行ったまま帰って来ない恋人を歌った「Boots of Spanish Leather」の諦観にも似た抒情性は、プロテスト・ソングのイメージばかり先行させられることを嫌ったディランの面目躍如。個人的な話ですが、ボブ・ディランのレコードでいちばん好きなものが本作です。すばらしい。

■Highway 61 Revisited (Columbia, 1965)

ボブ・ディランの不運は、デビューして間もなくビートルズがデビューし、アメリカのチャート音楽がブリティッシュ・ビート一色になった事でした。そこでディランは弾き語りのバックにロックのエレクトリック・バンドをつけて「フォークロック」というスタイルの確立に踏み込みます。第1号アルバムが『Bringing It All Back Home』、続けてリリースされた本レコードで、フォークロックは英米の軽音楽シーンに確固とした足場を築く事になりました。マイク・ブルームフィールドとアル・クーパーの参加や「Like a Rolling Stone」などの名曲の収録など、ロックの名盤ガイドには必ずと言っていいほどに登場するレコードです。

ボブ・ディランは人気アーティストであり、しかもレコード会社が大資本を持つコロンビアであったために世界流通が確保され、60年代に発表されたアルバムはどれも200以上のバージョンがあります。中でも人気の本作は最多のバージョン数となっていますが、それでも65年のUSオリジナルはモノ盤もステレオ盤も高い人気で(どちらもコロンビア赤ラベル)、一定以上の買取り価格が期待できます。

■フォークの貴公子のレコード買取は、時代ごとに査定ポイントが違う?

ボブ・ディラン以前のアメリカン・フォークソングとなると、ウディ・ガスリーやピート・シーガーがビッグネームとなりますが、その世代となると、ビートルズ以降の洋楽を聴き親しんでいた人からするとアーリー・ミュージックのような感触を覚えます。その時代のディランの作品は、ブロードサイドのオムニバス盤のように、骨董価値が高くなるのかも知れません。一方、60年代のレコードは音質の良さを期待できるUSオリジナルに人気が集まり、その後では、無数のミックス違いが存在する『Blonde on Blonde』のバージョン違いに目が行く人もいるでしょう。

それぐらいに、ボブ・ディランのレコードの査定は、業者であってもこのジャンルに詳しくないとなかなか正当な評価が難しく、知識の十分でない業者に買取りを依頼すると貴重盤が安く買いたたかれてしまう不幸も起きかねません。もしボブ・ディランのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。