50年代のモダン・ジャズを大きく分けると、アメリカ東海岸のイーストコースト・ジャズと西海岸のウエストコースト・ジャズに分けることが出来ます。大雑把にいえば、イーストコーストはアドリブ重視、ファンキー。ウエストコーストはアレンジ重視、上品。あくまでこれは目安ですが、たしかにイーストコーストはスタープレイヤーにソニー・ロリンズ、アート・ブレイキーなどファンキーで活発なプレイをするミュージシャンが目立ち、一方のウエストコーストはジェリー・マリガン、チェット・ベイカー、そして今回取り上げるアート・ペッパーなど、どこかエレガントで内省的な演奏をするプレイヤーが目立ちます。

ウエストコースト・ジャズのスタープレイヤーは、アレンジが重要となるビッグバンド出身者が多いです。アート・ペッパーもそのひとりで、ペッパーはスタン・ケントン楽団に長年在籍、そこで評価をあげて自分のコンボを持つようになりました。そんな事もあって、ウエストコースト屈指のインプロヴァイザーのひとりでありながら、バンドのオーケストレーションやアンサンブルを乱さないところがアルト・サックス奏者(のちにテナー・サックスも演奏)アート・ペッパーの特徴のひとつでしょうか。

今回は、そんなアート・ペッパーのアルバム・レコードのうち、名盤レコードであるとともに高額買い取りが見込めるレコードをご紹介させていただきます。

■The Marty Paich Quartet featuring Art Pepper  (Tampa, 1956)

ピアニストである以上に作曲家アレンジャー、そしてバンドマスターでもあるペイチのコンボに、アート・ペッパーが参加したアルバムです。アート・ペッパーのリーダー作ではないものの、ペッパーの出世作レコードとして知られる1枚です。

昔のジャズ・ミュージシャンには珍しくない事ですが、アート・ペッパーは麻薬中毒に苦しんだひとりで、音楽活動を何度も中断したのは麻薬中毒のためです。1952年に自分のコンボを持つもすぐにジャズから離れたのも麻薬によるもので、そんなペッパーを救ったのがマーティ・ペイチでした。本作はペイチのアレンジによるアンサンブルと、フロントで華麗なアドリブを披露するアート・ペッパーが見せ場となっています。50年代後半に最初のピークを迎えるアート・ペッパーのリーダー作よりも優れて感じられるのは、このアンサンブルの見事さです。ちなみに、この時のマーティ・ペイチに恩義を感じたか、アート・ペッパーはブレイクしたのちに、59年録音のアルバム『+Eleven』でアレンジャーとしてペイチを起用します。いい話ですよね。

素晴らしい内容の上にレア度が高く、ペッパーを聴く最初のレコードはないにせよ、ペッパーに嵌まったら避けて通れない1枚。オリジナルUSの赤盤レコードは超高額、オリジナル盤でなくともLPレコードであれば高額査定されることの多いアルバムです。

■Art Pepper Quartet / Modern Art (Intro, 1957)

名盤と呼ばれるアート・ペッパーのアルバムは56~57年録音に集中していますが、これはその中の1枚。個人的には、これがアート・ペッパー最高傑作レコードと思っています。

アート・ペッパーはアドリブに優れる人なので、どうしても小編成で演奏すると曲想やアンサンブル面よりも演奏が勝ってしまうときがあります。しかしこのアルバムはそうしたバランスの悪さを全く感じさせない見事なディレクションで、ウエストコースト・ジャズらしい素晴らしいレイドバック感と見事な構成にため息が出るほどです。アルバムの冒頭と最後をブルース曲とした点から推測しても、狙ってそうしたのでしょう。

このアルバム、もともとはIntro という弱小レーベルからリリースされたために入手困難、幻の名盤として語り継がれていました。Intro盤は高額で取引され続けています。ようやく手に入れやすくなったのは日本のジャズ熱の高さによるもので、70年代半ばに日本がこのレコードを復刻した事でようやく一般にも手の届く状態となりました。LPレコードの質感とレイドバック感漂うこの音楽がしっくりくることは間違いがなく、Intro盤でなくともLPレコードは相応の値段で取引され続けています。

■Art Pepper / Meets the Rhythm Section (Contemporary, 1957)

西海岸のペッパーが、東海岸のマイルス・デイヴィスのリズム・セクションと共演したアルバムです。ペッパーのレコード知名度ナンバーワンはこれではないでしょうか。

50年代ウエストコーストの白人サクソフォニストには、リー・コニッツを手本としたサブトーンで演奏するプレイヤーが多く、アート・ペッパーもそのひとりです。このアルバムに収録された「You’d be so nice to come home to」は、そのサブトーンのクールな印象と相まって、大量に存在する同曲の中でも最大の名演といえるのではないでしょうか。

なにせ大変な人気盤で多くの人が入手したこともあり、「もの」としては前述の2作のような希少さには届きません。しかし音楽内容は折り紙付き、人気盤なので今もレコードの需要は高いです。

■チェット・ベイカーに並ぶウエストコースト・ジャズのスタープレイヤーのひとり

アレンジに優れるウエストコースト・ジャズの素晴らしさが生まれるためには、アレンジャーとプレイヤーが揃う必要があると感じます。そんな中、プレイヤーとしてアート・ペッパーとチェット・ベイカーのふたりがウエストコースト・ジャズの大看板となったように思います。どちらも素晴らしい演奏技術を持ち、かつルックスが俳優なみですからね。

また、今回は触れませんでしたが、アート・ペッパーは70年代になるとジョン・コルトレーンに影響されたアドリブを展開する新境地に達しており、音楽としてはそちらも素晴らしいです。

もし、アート・ペッパーのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門のレコード買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。