今年(2022年)9月、テナー・サクソフォニストのファラオ・サンダースが逝去しました。ジャズ・ファンの間では、ジョン・コルトレーンがフリー・ジャズに傾倒していく音楽を、共に築いた時期のプレイが真っ先に思い返されるのではないでしょうか。コルトレーン以上とも言える強烈なブロー、そしてフリーキーな演奏の影に隠れた見事なスケール・インプロヴィゼーションは鮮烈でした。

しかしフリー・ジャズ愛好家からすればジャズを超えた劇的な音楽を築いたリーダ作品や、アリス・コルトレーンとの絡んだソウル・ジャズ系の音楽をイメージされるかもしれません。また、クラブ・シーンや80年代以降のジャズ・ファンであれば、コンテンポラリー・ジャズやレア・グルーヴを含むクラブ・ジャズの活躍が思い返されるかも知れません。これら多岐にわたる音楽も、あらためて活動初期のレコードを聴くと、最初からそれらすべての音楽の邦画があったように思われてなりません。

今回は、ファラオ・サンダースの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただきます。

■Pharaoh Sanders / Pharaoh (ESP, 1965)

ファラオ・サンダース初のリーダー・アルバムです。学生時代からデューイ・レッドマンらのプロ・ミュージシャンと既に共演し、このレコードを発表する前にもサン・ラ・アーケストラにも参加していたファラオ・サンダースにしてみれば、遅すぎたぐらいのデビュー・レコードだったかも知れません。

アドリブはフリー色が強いとはいえ、ビートもコード・プログレッションも紛う事なきジャズ。強烈なブローの印象が強いサンダースですが、実際にはデビュー時よりオン・コード上で見事なインプロヴィゼーションを聴かせる一流ミュージシャンであった事が分かります。初期のフリー・ジャズは完全なフリー・フォームではなく、ジャズの延長線に音楽を作った物が多いですが、こうした土壌があったからこそ、のちにあれだけクリエイティブな音楽を作ることが可能だったのかも知れません。

■John Coltrane / Live at the Village Vanguard Again! (impulse!, 1966)

65年のレコード・デビュー以降、サンダースはオーネット・コールマンなどフリー・ジャズ方面のジャズ・ジャイアンツから引く手数多となります。特にジョン・コルトレーン・クインテットへの参加は、サンダースのみならずジャズ界全体にも衝撃を与え、ファラオ・サンダースの名を世に轟かせることになりました。

ファラオ・サンダースの参加したジョン・コルトレーンのアルバムは10作を超えますが、それはコルトレーンがモード・ジャズからフリー・ジャズへと緩やかに音楽性を変えていくタイミングと重なっています。いずれ傑作揃いですが、昔から名盤との評価が高かった本作は、「ネイマ」と「マイ・フェイバリット・シングス」をフリーキーに演奏するという、まさに両者の中間。サンダースのインプロヴィゼーションも名演の名に恥じない最高の演奏です。

■Pharoah Sanders / Tauhid (impulse!, 1967)

コルトレーン・クインテットへの参加がきっかけとなったのでしょう、66年にサンダースはインパルスと専属契約を結び、ここから名盤の名に値するレコードを連発して発表しました。その第一弾がこれ、邦題は『神話』とつけられました。

15分を超える大曲ふたつと、その間に挟まれた小曲で構成されたこのレコードは、音楽の楽曲様式自体がすでにジャズを離れた劇的構造となっています。「Upper Egypt & Lower Egypt」はまさに劇的、B面は連続で演奏される組曲構成であり、楽式面からアフリカン・アメリカンのジャズが芸術音楽の領域に踏み込んだのは、フリー・ジャズのミュージシャンたちが最初の事でした。個人的に、ファラオ・サンダースのリーダ・アルバムで推薦盤をひとつ挙げろと言われれば、これを選びます。

■Pharoah Sanders / Karma (impulse!, 1969)

67年のジョン・コルトレーンの死が合図になったかのように、ジャズは大きく変わる事となりました。それはジョン・コルトレーンの影響の強かった領域―ニューヨーク周辺、フリー・ジャズ、そしてアフリカン・アメリカンのミュージシャン―で特にそうで、コルトレーン・グループに参加していたファラオ・サンダースは直撃でした。

ファラオ・サンダース最高傑作の呼び声も高いこのレコードにも変化があらわれています。これまでサンダースが行ってきた音楽のほか、この後に深く傾倒していくスピリチャル・ジャズの傾向がそれです。2小節1パターンのレペティションが30分以上にわたって続くこのレコードの中心曲「The Creator Has A Master Plan」は、レア・グルーヴのルーツのひとつとさえいえるかも知れません。アフリカン・アメリカンによるジャズと、バック・トゥ・アフリカに繋がる独特の牧歌的なムードの共存する、独特の音楽です。

■Pharoah Sanders / Thembi (impulse!, 1971)

ジョン・コルトレーン・クインテットでのサンダースの印象がすべての人からすると、大変驚く事になる音楽ではないかと思います。ひとつは、アリス・コルトレーンあたりに繋がるソウル・ジャズ、ひとつは、デビュー時代からサンダースの看板となってきた破壊的なブロー・サウンド。しかしアルバムの大半を占めるのは、フュージョン系レア・グルーヴと言いたくなるような、心地よくもスピリチャルな音世界です。

このアルバムのキーマンは、フェンダー・ローズというエレクトリック・ピアノを弾いたロニー・リストン・スミス。彼は、エレクトリック・マイルスやローランド・カークのアルバムにも参加しています。コルトレーンが死に、ベトナム戦争反対や民権運動に揺れた合衆国で、ジャズに思想表現の道具という色を付け、また汎ブラック・ミュージックという枠からとらえ直した動きを作った潮流の中の影の重要人物です。私がフェンダー・ローズのサウンドに魅了されたレコードがいくつかあります。映画『ロッキー』のサウンドトラックや、ダニー・ハサウェイのレコードがそれですが、ローズの音を最も美しく録音したレコードはこれではないかと思っています。

■レコード高価買取に関するあれこれ

初期のファラオ・サンダースのレコードは、USオリジナルとあれば間違いなくプレミア、それ以外でも高額必至のレコードが並びます。

ESP盤『Pharoah』は、65年USオリジナルにはモノとステレオがありますが、うず巻きジャケットとなると、どちらも数万円が当たり前のプレミア盤です。なお、65年盤には後光の差す人の輪郭が縁どられた白いジャケットもあります。初の日本盤となった75年盤はこのデザインで、うず巻きジャケットほどではありませんがこれもなかなかの値がつきます。

『Tauhid』も、USオリジナルはモノとステレオの2種があります。いずれも1万円越えが当たり前の状態で、このレコードはUSオリジナルでなくともやはり高額となる事が多いです。

『Karma』は、「The Creator Has A Master Plan」と「Colors」の2曲が入ったアルバムですが、1曲目が32分を超える大曲である事が、いくつかの混乱を巻き起こしたように感じます。私が持っている73年日本盤(東芝音工盤、『因果律』のタイトルがつけられたレコード)の裏ジャケットには、収録されてない「Light of Love」という曲名がクレジットされています。また、USオリジナルをはじめいくつかのレコードは、サイドAを「The Creator Has A Master Plan」、Bすべてを通して「Colors」と表記しています。しかしレコードの中にも、サイドA「The Creator Has A Master Plan Part 1」、B「The Creator Has A Master Plan Part 2」「Colors」としたものがあり、これが正解。実際、CD化にあたって、ABに分割収録されていた「The Creator Has A Master Plan」は、ひとつにまとめられました。

そして『Karma』は、USオリジナルは数万に達する事もあるプレミア状態となっています。USオリジナル以外も、レコードであれば高額化する傾向にあり、 73年の日本『因果律』盤も、日本の某ネットオークションで今年(2022年)9月に帯なしが2万円で落札され、海外でも数万円の値がついています。

『Thembi』は、71年に日本盤もリリースされています。71年盤はUSオリジナルだけでなく、日本盤も高額化しています。またやはり、オリジナルでなくとも一定以上の値がつく状態です。これは、ファラオ・サンダースのインパルス盤全般に当てはまるようです。

もし、ファラオ・サンダースのレコードを手放そうとお考えでしたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。思わぬ高額買取りレコードになるかもしれません。

■関西買取.com編集部がおすすめする、ジャズの高価買取レコード店をご紹介!

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売却や買取を考えている方はぜひ参考にされてはいかがだろうか。それでは、また次回の記事でお会いしましょう。