その長い歴史を通し、常にアドリブ演奏が最大のセールス・ポイントとなったジャズですが、一方で芸術音楽としての特徴を発展させた現代の音楽という側面もありました。モダン期以降のジャズのビッグ・ネームとして名を残したチャーリー・パーカーやジョン・コルトレーンは、アドリブ演奏に優れるプレーヤーとしての側面が非常に強いミュージシャンですが、そうしたスター・プレーヤーの影で、ジャズという音楽を芸術音楽として発展させた素晴らしい理論家/作編曲家の存在がありました。

ギル・エヴァンスやジョージ・ラッセルはその最たる存在で、リディアン・クロマチック・コンセプトという和声理論を立て、ジャズのみならず一部の現代音楽の世界にも影響を与えました。

そのリディアン・クロマチック・コンセプトがどのような響きを持つ音楽なのか、それが特によく分かるものが、ドイツのシュトゥットガルトにあるベートーヴェン・ホールでのライブでした。

■リディアンをモード1に捉えた調性の海!

独特の和声的色彩と、シーンが目まぐるしく変化していく冒頭曲「freelin’ up」は、シンプルな歌謡形式を何度も繰り返してアドリブ演奏するジャズとは隔絶の構造とオーケストレーションをもつ、紛うことなき芸術音楽です。その素晴らしいオーケストレーションの前で素晴らしいアドリブを展開するのはドン・チェリーで、アドリブ音楽としてのジャズの魅力も失っていません。この1曲だけでも、ジョージ・ラッセルがジャズの歴史にとてつもなく大きな足跡を残したといえるのではないでしょうか。

このライブ・レコードでは「Bag’s Groove」「Confirmation」「’Round Midnight」という曲をリディアンに置き換えた音楽も披露していますが、これはリディアン・クロマチック・コンセプトというものがどのような特徴を持つものかを端的に示しています。分かりやすくいえば、普通の長調(これはアイオニアンと言います)が、常にドミナントという音に向かう重力を持つに対し、リディアンはもっと自由に色々なプログレッションを作り出せることを示しているように感じます。強い調感覚を持ちつつ、和声進行に対してはより自由度の高い音楽。このレコードで聴く事が出来るのはそういう音楽なのではないでしょうか。

■レコード高価買取に関するあれこれ

ジャズの歴史に名を残すこのレコードも、65年の初リリース時にはドイツとフランスというヨーロッパでしかプレスされませんでした。ジャズ熱の強かった日本でも初プレスは69年、アメリカに至っては70年代になるまで紹介されませんでした。これは、ジャズを芸術音楽として捉える人が多いか、エンターテイメントとして捉える人が多いかといった文化差が現れた例であったと思います。

また、このレコードには『at Beethoven Hall II』という第2集があり、US盤は1集と2集を合わせた2枚組としてリリースされています。ジャケット・デザインは同じであるため、購入時には注意が必要です。

このレコードのCD化では、1集と2集をまとめ、デザインを改めたものがありますが、音質の良さと、コンサートを通して聴けるという利便性もあってか、これがかなりの高値をつけています。

もし、ジョージ・ラッセルのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。