良い音でレコードを聴きたいのなら、まずはアンプとスピーカー。このふたつは明確なキャラクターの違いがあるので(スピーカーでいえば密閉型かバスレフか、あるいはツーウェイかスリーウェイか、など)、意外と判断に困る事は無いと思います。ところがレコードプレーヤーとなると、これが意外に判断に困ります。

カートリッジで音が左右されるなら、レコードプレーヤー自体はそんなにこだわる必要もないんじゃないの?それなのに、なんでプレーヤーによって何十万円も差が出るの?そんな疑問を持つ方も少なくないのではないでしょうか。

レコードプレーヤーの構成要素を大きく分ければ、カートリッジ、トーンアーム、駆動方式の3つになります。そのうちカートリッジは着脱可能、駆動方式は現在ではそのほとんどがベルトドライブ方式となっているため、レコードプレーヤー導入時にどうしても目が行きやすいのがトーンアームになります。

今回は、そんなトーンアームについての基礎知識をご紹介させていただきます。

■トーンアームはスイングアーム方式だけではない?!

トーンアームって、支点を軸に、針がレコード溝に沿ってレコードの内側に進むに応じてバーに角度がついていくものが多いです。この方式のトーンアームは「スイングアーム方式」と呼ばれ、現在のレコードプレーヤーの大多数はこれです。ただ、スイングアーム方式が構造上抱える事になるアームの角度が、レコードプレーヤーにとって大きな課題になります。

これを解消するため、支点を軸にトーンアームを回転させるのではなく、レールを作って平行にアームをスライドさせることで、アーム角が生まれないようデザインされたものがあります。これを「リニアトラッキング方式」といいます。

リニアトラッキング方式は、原理的には大変に有効な方式です。主流派とはなれませんでしたが、なにせ理論上スイングアーム方式の大きな課題を克服できているのはたしかで、現在でも高級機種で採用される事があります。

■スイングアーム方式トーンアームが抱える2つの課題

さて、トーンアームの主流となったスイングアーム方式です。スイングアームを採用するとふたつの大きな課題が発生します。ひとつは、トラッキングエラー、もうひとつはインサイドフォースです。

トラッキングエラーとは、レコード溝とカートリッジの向きが最善の角度よりずれたその角度の事です。インサイドフォースは…言葉で説明するのが非常に難しいのですが、簡単に言うと、レコード針の先は単純に溝に従いたいのですが、針先とトーンアーム軸の間にバーがある事により、どうしてもアームが内側に針を押す形になってしまいます。これがインサイドフォースで、これを解消するために、スイングアーム方式のトーンアームにはインサイドフォース・キャンセラーというものがついています。これで外向きの力をかけて相殺するわけです。

■スイングアーム方式トーンアーム、3つの形状とその特色

こうした課題を克服するため、スイングアーム式トーンアームには3つの形状が生まれました。ストレート型、J字型、S字型です。それぞれの形状にはメリットとデメリットがあります。

海外製のプレーヤーにはストレート型が多いように感じます。ストレート型の利点は構造がシンプルな事と、角度をつけたアームよりもインサイドフォースが発生しにくく、アンダーハングになるのでアーム長を短くすることが出来、剛性が得やすい事です。重量を持つカートリッジを支えるのですから、剛性は音にも影響していく重要な要素です。ある見方でいえば、トラッキングエラーよりもインサイドフォース対策に優れた形状といえます。

一方、J字型の狙いはトラッキングエラー角の減少です。ただしこれだとアームの左右の重量バランス(「ラテラルバランス」なんて言います)が取れないため、これを克服しようと逆側にもカーブをつけたのがS字型となります。このふたつの方式は、インサイドフォースよりもトラッキングエラー対策を重要視した形状といえます。

■素材や長さも重要、だってカートリッジを支えるんですもの

狙っていることが違うので、一概にストレート型、J字型、S字型のどれが良いとは言えませんが、個人的にはアームの横ブレから発生するジッターが聴感のうえで気になるので、剛性の高いアーム(つまり短めのストレート型)が好きです。ところで、剛性は形だけで決まるものでもありません。材質やアームの長さも影響します。

材質は硬くて軽いものほど理想で、これはトーンアームの値段に直接反映されます。

また、アームの長さも趣味が出ます。長ければ針先が描く弧がより直線に近づくのでトラッキングエラーに対して有利になりますが、剛性は落ちます。私個人はインサイドフォースが気になった事はあまりないのですが(きっとレコードプレーヤーのメーカーの技術がどこも高いのでしょうね)、ジッターはアコースティックな響きの音楽を聴くときには気になる事があるので、短めのトーンアームが好きです。

■波打つレコードの上下動を抑える方式、スタティック・バランス型とダイナミック・バランス型

トーンアームには、インサイドフォースやトラッキングエラー角といった横方向の対策だけではなく、完全に水平になることはあり得ないレコードが生み出す縦方向の対策も求められます。レコードが上下しても針が常にレコードにくっついている必要があるわけです。要するに針圧ですが、針圧をかける方式にはスタティック・バランスとダイナミック・バランスがあります。

スタティック・バランスは、アームのカートリッジの反対側に錘(「カウンターウェイト」といいます)をつけて重さを出す方式です。ダイナミック・バランスはスプリングを使って針圧をかけていく方式です。

現在はスタティック・バランス型の製品の方が圧倒的に多いですが、より安定的に加圧できるのはダイナミック・バランス型であったりするので、このあたりも好みで分かれそうです。

■最初からアームレスのプレーヤーや、アームを複数つけられるプレーヤーもある

ドライブ方式など、トーンアーム以外にも、レコードプレーヤーの性格を決定づける要因はありますが、やはりトーンアームは重要事項。最初からアームレスのプレーヤーや、アームを複数つけられるプレーヤーもありますが、なかなかそこまで手を伸ばせる人も少ないと思いますので、トーンアームを吟味したうえでプレーヤーを選択できると、あとで「あっちにしておけばよかった」とならなくて済むかもしれませんね。

どうぞ、自分の好みに合ったトーンアームを探して、より素敵なレコード・ライフをお過ごしください!