アナログ盤独特のあたたかい音を楽しんだり、色々なカートリッジの交換してみたり、レコード・プレーヤーを自分好みに調整したりと、レコードの再生には独特の魅力がありますよね。自分好みの音がレコードからフワッと出た時には、他に代えがたい悦楽を感じます。

そんなレコードにも大敵があります。針飛びです。音楽が急に先に飛んだ、元に戻った、同じところを何度もループし始めた…レコードを聴く人なら誰もが一度は経験したことがあるだろう、あれです。レコードを雑に扱って傷がついたのならまだしも、買ったばかりのレコードや、大切にしていたレコードが針飛びを起こした時などは、実に残念な気持ちになってしまいます。

今回は、レコード・ファンの大敵である、レコードの針飛びに関するお話をさせていただこうと思います。

■針飛びの原因1:ほこり、ごみ、汚れ

針飛びは、レコード針がレコード盤に刻まれた溝を飛び越える事によって起こります。なぜ飛び越えるか、その一番の原因はほこりや汚れではないでしょうか。

レコード盤は塩化ビニールで出来ているために静電気を発生しやすく、どうしてもほこりを吸いつけてしまいます。このほこりが満面の溝にたまったり、盤についたほこりを針が拾ったりしていくと、針が飛んでしまう事があります。

ごみや汚れも同様で、これが溝に挟まって障害となり針が飛ぶ、という事が起こりえるわけです。

■針飛びの原因2:傷

ほこりや汚れは手入れをする事で比較的容易に落とす事が出来ますが、そうはいかないのがレコード盤面についた傷です。

傷によって針飛びが起きる理由はいくつかありますが、よくあることのひとつが傷に沿ってレコード針が進んでしまう事です。レコード針は、レコードの溝に沿って進んでいきますが、傷がレコード溝と同じ役割を果たしてしまうわけです。

レコードの溝には深さがあります。深く刻むとバイアスを深く書けたリッチな音になる半面、歪みっぽい音になる、盤の裏まで穴があいてしまうなどのデメリットもあります。浅く刻むと歪みの少ないきれいな音になる半面、迫力に欠ける音になる、レコード溝というレールが低くなって針飛びしやすくなるというデメリットもあります。一概には言えませんが、US盤は前者が多く、日本盤は後者が多い傾向にあるように感じます。これは針飛のみならず、覚えておいていい傾向でしょう。

■針飛びの原因3:逆相

レコード愛好家にもあまり知られていない針飛びの原因に、逆相によるものがあります。逆相を説明するのは少し難しいですが、これはレコードがモノからステレオになった時に生まれました。

ステレオ・レコードは、ふたつの異なる音を記録しています。ひとつの音しか聴こえない場合は理解しにくいかも知れませんが、たとえばピアノが左、ベースが右から聞こえる場合などは、ピアノとベースの音が別々に記録されているのが分かると思います。このふたつの音をレコード溝の右側と左側に刻み込んでいるわけです。

そして、ふたつの耳で音を聞く人間にとって、音には位相という状態が生まれます。音は疎密波と言われる波の形状をもって空気中を伝わる現象です。疎密波は疎になったところ(綿に例えれば、綿がフワッと広がったような状態)と、密になったところ(綿をぎゅっと握りつぶしたような状態です)が出来る現象ですが、録音ではこれをプラス電極とマイナス電極に置き換えて表現します。レコード溝の場合、そのプラスとマイナスの変化を溝に刻まれた波で表現する事になります。

さて、まったく同じ音をレコード溝の左右に刻み込み、位相を正反対にするとどうなるでしょうか。まるで道路の道幅が狭くなっていくように、レコード溝の右も左も狭くなったところが生まれます。これで針の進む場所が狭くなり過ぎ、レコード針が宙に浮かされてしまう、こういうわけです。

逆相による針飛びはリスナーにはあまり知られていない事ですが、アナログ・レコード制作に関わるエンジニアにとっては必須の知識です。エンジニアであっても、アナログ時代を経験していない録音エンジニアの場合、これを知らない事があります。もし自分で録音した音楽からアナログ・レコードを作ろうと思い、マスタリングやカッティングの立ち合い無しでプレスを依頼した場合、デジタル音源では何も問題がなかったのにアナログ・レコードにするや否や問題が発生してしまう事故は起こりえるので、どうぞご注意を。

■針飛び対策1:レコードの手入れ

さて、レコードの針飛びを防ぐにはどうしたらよいでしょうか。その第一は、レコードを手入れする事です。レコードの手入れについては以前に書かせていただいたので、そちらを参照なさってくださいね。また、針についたほこりも、払っておくことが大事です。

■針飛び対策2:針圧調整

あまり良い方法とは言えませんが、しかしレコードが針飛びを起こして聴けないよりはまし、という方法です。単純に針圧をあげ、レコード針がレコード盤から離れにくくするわけです。逆相による針飛びなどは、どのような手入れをしても防ぎきれませんが、浮かされた針が他の溝に飛ぶより前に元の溝に落ちてくれれば、針飛を防ぐことが出来ます。同じことが傷による針飛びにも言えます。

■針飛び対策3:傷の修復

 少し荒っぽい方法ですが、傷を修復するという手もあります。正確には傷の修復ではなく、汚れを取ったり、新たに刻んだ傷によって別の溝にジャンプする事を防ぐ方法です。後者は、傷によって別の溝に行ってしまうのであれば、その傷よりも深い溝を掘ってレコード針を正規の溝に進むよう誘導してあげればいい、という考え方です。

針飛びをした箇所を正確に見定めたら、その場所の溝を、まずは爪楊枝でゆるくなぞります。溝にごみがたまって針飛を起こしやすくなっていたのであれば、これで十分です。しかしそれでも針飛を抑えきれない場合は、縫い針でなぞってやると効果がある事があります。

ただし、この方法は、さらに傷をつける事になりかねので、「どうせ現状では聴けないのだから、ダメもとでレコードが聴けなくなってもいいや」という覚悟がある時だけという事で、自己責任でお願いします。

■さいごに

不具合が出たレコードの場合、誠意あるレコードショップで買っていれば、たいがいは返品に応じていただけることが多いです。ですから、傷の修復を試みなければ再生できる可能性がない場合などは、自分でどうにかしようとせずに返品した方が賢明でしょう。しかしネットでの個人売買だと、「ノークレームで」などと書かれていたらそれでアウト。レコードの売買は、信頼できる中古レコード店で行った方がより安心かもしれませんね。