ネット全盛期なので、ネットを通してレコードの売買をなさる方も多いのではないかと思います。しかし直接見ないとなかなか分からない事のひとつに、レコードのジャケットがあります。レコード・ジャケットには、大きくふたつのタイプがある事をご存じでしょうか。これが意外な盲点で、ネットを通じた通販で、ジャケットの種別が書かれている事はまずありません。

今回は、レコード・ジャケットの種類に関するお話をさせていただこうと思います。

■薄いジャケット、その正体は…

私がもっとも胸をときめかせてレコードを買っていた時代は、CDが出てしばらく経った頃でした。CDに駆逐されてLPレコードはなくなるという噂も信憑性をもっていた頃で、在庫を一掃するためにレコードメーカーがそうしたのか、あるいは円高の影響か、輸入盤の新品レコードが安く大量に出回っていました。

しかし、喜んで買って帰った輸入新品レコードを見ると、ジャケットが薄い事に気がつきました。当時は製作費を抑え込む目的でこうなっているのだと思ったものでしたが、あながちそういう理由だけでもない事を知るのは、後年になってからでした。

輸入盤を買い始める前、自分が買っていた70年代の日本盤レコードは、みな分厚いジャケットでした。それらのレコード・ジャケット裏側をよく見ると、紙を張り合わせてある事が分かりました。紙のうしろに、折り返した下の紙の切れ目が段差になって浮いている感じです。きれいに制作してあるので分かりにくかったのですが、これって、ボール紙の上から印刷した紙を貼ってあるのですよね。

一方、輸入盤屋で買ってきた薄いジャケットのものは、ジャケットの素材となっている紙自体に印刷がしてありました。薄さの正体は、ボール紙を使わず、集めの紙に直接印刷したことでした。

■レコード・ジャケットの種類

疑問に思った私が輸入盤屋で買った薄いジャケットのレコードのクレジットをよくよく見ると、ヴァン・ダイク・パークスもジョン・メイオールもイギリス盤。キング・クリムゾンがドイツ盤。いずれもヨーロッパで製造されたものでした。

持っていたレコードの日本盤を漁ってみたところ、薄いジャケットのものは矢沢永吉『ライジング・サン』、ジミ・ヘンドリックス『アー・ユー・エクスペリエンスド』、そしてローリング・ストーンズ『ダーティー・ワーク』ぐらいで、いずれも80年代に制作されたものでした。

製法別に見たレコード・ジャケットは、大別してボール紙製の芯材の上から印刷された紙を貼って作ったものと、ジャケットの素材となる厚手の紙自体に印刷をしたものの2種類に大別できます。前者はA式、後者はE式と呼ばれます。Aはアメリカの略で、Eはヨーロッパの略。

アメリカ基準でレコードを作ってきた日本は、元々はA式でしたが、時代の経過とともにE式も取り入れたのでしょう。A式とE式の2系統は、CDの紙ジャケットにも受け継がれています。仕事がら、私はこれまでいくつもCDを作ってきましたが、A式とE式では製造コストが驚くほど違います。材料費も貼りの作業も入るA式の方が高いです。

■A式もいろいろ

A式も色々です。ボール紙の色が本当に茶色いボール紙のもの、あるいは白に近いもの。厚さも違います。

またゲートフォールド(2つ折りのジャケット)となると、ジャケットの内側も紙が張り合わされることになるのですが、日本盤はボール紙を包み込むようにして貼る丁寧な仕事ぶりで、海外の中古レコード市場では、日本型ゲートフォールドが高く評価されています。海外のレコード市場で日本盤が意外と高く評価される事が多々あります。他の国にはない帯というものがついている、モノを大事にする日本の国民性もあって状態が良いものが多いなど、色々と理由はあるのでしょうが、そもそもジャケットもレコードも作りが丁寧である、という点も評価に入っているのではないでしょうか。

そんなA式にも弱点があります。ボール紙の上から印刷氏を「貼って」いる事です。何で貼るのかというと、糊なのですよね。水気を含んだ糊を使っているのだから、カビが生えやすいのです。この事に気づいたのか、ある時代のA式レコードからは糊面でもカビにくくなった気がするのですが、もしかすると糊に防腐剤か何かを入れたのかも知れません。

海外で評価が高い日本盤ですが、私の感覚では日本盤A式はカビやすく感じます。同じ状況で保存しているのですが、日本盤のビートルズだけどうもカビやすく感じたりして。単なる個体差で実際はそんな事はないかも知れませんが、日本が高温多湿地帯であるので、乾ききる前に出荷されていたなどの事情もあるのかも知れません。

■E式だっていろいろ

制作側から見たE式のメリットは製造費の軽減、そしてそれによって価格が下がれば消費者もそのメリットにあやかる事が出来ます。

また、E式のジャケットが薄いと言っても、ものによってさまざまです。先にあげたE式の中では、矢沢永吉『ライジング・サン』やヘンドリックス『アー・ユー・エクスペリエンスド』はE式ながらなかなか頑丈で折れにくく、自分で探そうとしなければE式だと気づかなかったかも知れません。もしかすると、日本製はいい仕事といい紙素材を使ってることが多いのかも知れませんね。

E式にはA式には真似できないメリットもあります。紙に直接印刷したあとに折って貼るのですから、ジャケットの内側でも印刷する事が可能です。先にあげたローリング・ストーンズ『ダーティー・ワーク』は、内側がピンクに印刷されています。このアルバムのデザインにおけるイメージ・カラーはブルーとピンクですが、これを反映した見事なデザインと感じました。あとから紙を貼るA式にこの芸当は不可能です。また、紙を折り返して張った時の段差や貼り痕も残りません。かようにして、デザイン面でE式はA式に優る点が多いです。

一方のデメリット、その第1は、やはり薄さ。この弱点を補おうと紙を厚くしたり、手で付ける折り目が奇麗になるよう工夫しているものなどは良いのですが、「安く作るため」だけに作ったものは本当に粗雑と感じるものもあります。若いころに買ったジョン・メイオール『The Blues Alone』イギリス復刻盤は、下にレコードがない角の部分を持っただけで簡単に折れ目がついてしまうほどの薄さでした。

ゲートフォールドとなると、内ジャケットの折り目部分に印刷が出来なくなるというデメリットもあります。折り目の部分だけ、なにも印刷されないという状態になるのです。それが気にならないデザインであればなんら問題はないですが、もとが折り目にも印刷できるA式を前提にデザインしたものをE式にした場合、写真が2分割されるなどの不具合が生じます。

■レコード・ジャケット、どれを選ぶ?

レコードの魅力って色々ですが、ジャケットもそのひとつでしょう。A式とE式、互いにメリットとデメリットがあるので一概には言えませんが、せっかくレコードを買うのですから、選べるようなら自分の趣味やそのジャケットに見合ったレコードを選ぶのもいいかも知れませんね。