ロックが再びビジネス的な大量消費財という側面を強めた1980年代、それとは違う価値観を重視する潮流が生まれました。それらの音楽は総称としてオルタナティヴ・ロック(直訳するなら別潮流のロック)と呼ばれ、中でも過剰なギターサウンドとポップな曲想を持つシューゲイザーはオルタナティヴ・ロックの潮流のひとつとして見られるジャンルでした。そして、当初はオルタナティヴ・ロックの音楽傾向のひとつという程度に過ぎなかったシューゲイザーを一躍世間に広めたのが、アイルランド出身のマイ・ブラッディ・ヴァレンタインというバンドでした。中でも91年発表のアルバム『Loveless』は世界的にヒットし、今もシューゲイザーの代表作のひとつとして知られています。

今回は、そんなマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただこうと思います。

■This is Your Bloody Valentine (Tycoon, 1985)

1985年発表のミニアルバムで、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン最初期の音楽を聴くことが出来ます。キーマンとなっているのはロカビリー調のヴォーカリゼーションを聴かせるデイヴ・コンウェイの存在で、ネオ・ロカビリー調の音楽をガレージに演奏しています。ギターこそノイジーではあるもののシューゲイザーからは遠い音楽ですが、だからと言って音楽として劣るわけではありません。個人的にはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのアルバムの中で抜きん出て好きなレコードで、ガレージな迫力に満ちた演奏を聴くことが出来ます。

このレコード、85年の初回リリースはドイツのTycoon というプライヴェート・レーベルが行い、 12インチのレコードのみでの発表でした。バンドのブレイク前という事もあり、Tycoonのロゴが入った白レーベルのレコードは希少価値が高く、日本で見つけるとなるとかなり困難でしょう。手に入るとしても1万円以下での入手は難しいでしょう。

再発は90年にレーベルDossier(これもドイツのレーベルで、エクスペリメンタルなロックを紹介したレーベルでした)が行い、その時にレコードとCDが作られました。レコードのレーベルは黒のDossier ロゴに変わり、レコードには通常盤と青いピクチャーレコードの2種が存在します。いま日本で手に入りやすいのは90年の通常盤で、それでもなかなかの値がつく事があります。青盤は通常盤より人気が高く、1万円越えとなる事もあるようです。

■Ecstasy (Lazy Records, 1987)

ヴォーカルのデイヴ・コンウェイとキーボードのティナが抜け、バンドの主導権がギターのケヴィン・シールズに移った事で、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの音楽が変化。87年に発表された本作もやはりミニアルバムで、ガレージ期とシューゲイザー期の中間にあたる音楽となりました。音楽そのものはポップになり、ノイジーなギターだけがガレージ期の名残理を残しています。ギターがシューゲイザー期ほどの過剰なエフェクト処理をされていない分だけバンドのアンサンブルが際立って聴こえ、良質のアングラ・ポップにまとまって聴こえます。

本作はリリース時にCDはプレスされず12インチレコードだけが作られ、再発時には3曲を追加して『Ecstasy & Wine』とタイトルを変えました。そのため87年リリースのレコードしか存在せず、希少価値が高いタイトルになっています。これが高額化の原因となり、今では1万円超えは当たり前、2万円近い値となる事もあります。

■Isn’t Anything (Creation, 1988)

バンド初のフル・アルバムです。ポップな曲想、囁くようなヴォーカル、そして過剰なエフェクト処理を行ったギターによる音の壁と、ここからシューゲイザーと呼びうる特徴を持つ音楽が演奏されるようになりました。バンドはこのアルバムでブレイクし、一気にアンダーグラウンドから抜け出る事になります。

本作は88年のリリース当初からLPレコード、CD、カセットテープのすべてで発表され、また最初から世界発売でもありました。再発も幾度となく行われ、ロゴのレイアウト位置や帯の有無など、ジャケットひとつをとってもいくつかのバリエーションがあります。LPレコードで注目はイギリスとドイツで発売となった7インチEPつきの初回限定盤で、これは現在のところ1万円以上が普通、状態が良ければ2万円越えもありうる状態です。

■Loveless (Creation, 1988)

マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン最大のヒット作というだけでなく、シューゲイザーを広めた作品としても知られるレコードです。あまりのヒットのため、シューゲイザーの定義自体がこのアルバムを前提としている面すらあると感じます。

このアルバムも発表当時からLPレコード、CD、カセットの3種類が作られて世界発売されました。しかし時代は91年とCD全盛期でアナログ・レコードはいずれ全滅すると言われていた頃だったので、LPレコードの人気は高いものとは言えませんでした。それがレコード人気となった現在では希少価値を高め、Creationレーベルの91年UKオリジナルレコードは2万円超えでも当たり前の人気となっています。

■シューゲイザーの代表バンドは意外にもレコードが人気

シューゲイザー以降のマイ・ブラッディ・ヴァレンタインは、フェイザーなどの空間系エフェクターを多用しているという意味で、デジタル色の強い音楽と言えそうです。ところが価格面で見たアルバムの人気はデジタルではなくアナログのレコードが高額化している所は面白いところです。そこには、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン自身が初期からレコードにこだわってきた事と同じ理由があるのかも知れませんね。

もしマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。