コロナ禍の2021年2月、エレクトリック・ジャズのレジェンドのひとりであるチック・コリアが世を去りました。ジュリアード音楽院卒業後、多くのジャズ・ミュージシャンと共演を重ねたチック・コリアがブレイクしたのは、マイルス・デイヴィスのエレクトリック・バンドへの参加からでした。エレクトリック化を進めるマイルス・バンドで、マイルスは次第にプレイヤーではなく指揮者のような役割を担うようになり、演奏表現は参加ミュージシャンの力量に頼る傾向が強まり、その中でチック・コリアは衆目を集める演奏を披露しました。以降、サークル、リターン・トゥ・フォーエバー、エレクトリック・バンドなどへつながるチック・コリアの華々しいキャリアについては知られるところです。

今回は、そんなチック・コリアの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただこうと思います。

■Chick Corea / Now He Sings, Now He Sobs (Solid State, 1968)

ハービー・ハンコックに変わってマイルス・デイヴィスのバンドに参加したチック・コリアですが、その在籍期間は68年『キリマンジャロの娘』から70年『マイルス・アット・フィルモア』まで。チック・コリアの出世作として知られるこのセカンド・アルバムはマイルス・バンドでの活動と並行して制作されたことになります。

バップ色を消して進化していく60年代ジャズにとって、ジュリアード音楽院卒のチック・コリアは時代が求めた逸材だったのでしょう。あらゆるモーダルなフォームに対応し、流れるように音を紡いでいきます。60年代のハンコックとコリアの演奏が以降のジャズ・ピアノの指標となったことを痛感できる演奏で、コリアがオーセンティックなジャズに正面から取り組んだのが(ひとまず)ここまでだった事もあり、本作はジャズ・ピアニストとしてのコリアの決定作となりました。

このレコードは後にブルーノートから再発されましたが、リリース時はSolid State というレーベルから発表されました。オリジナルのSolid State盤はゲートフォールド(見開きジャケット)仕様で、日本盤や後のブルーノート盤のシングル・ジャケットとは仕様が違います。ゲートフォールドの初期Solid State盤が人気で、なかなかの評価を受けています。

■Chick Corea / Is (Solid State, 1969)

アーティストとしてのチック・コリアの代表作はこれでしょう。モチーフやモードなど、楽曲を維持する最低限の規則が設けられたうえでの壮絶なインプロヴィゼーションで、挑戦に富んだ楽曲と白熱の演奏が素晴らしいバランスで調和しています。前作が新主流派ジャズの名作ならば、本作はモードからフリーまでを視野に入れたニュージャズの大名作。ここから数年のチック・コリアは神がかった音楽を生み出し続けます。

高度な音楽ながらファン受けしなかったのか、このレコードは再発回数も少なく、初期チック・コリア作品の中でも目に触れる機会の少ない作品でした。しかし一部ファンから根強い支持を受け、本作と同一セッションから別曲を集めたレコード『Sundance』が制作され、後年には『Is』『Sundance』全曲に別テイクを加えた『the complete ”Is” sessions』がブルーノートからリリースされました。このブルーノート盤は現在貴重盤としてプレミア化しており、2021年4月6日時点で米アマゾンで148ドル、日本のアマゾンでは3万円を超える状態となっています。

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■Circle / Paris-Concert (ECM, 1971)

チック・コリアのリーダーバンドの代表作が『Is』なら、チック・コリアが参加した音楽の最高傑作がカルテット「サークル」での諸作ではないでしょうか。アンソニー・ブラクストン(sax)、デイヴ・ホランド(b)、バリー・アルトシュール(dr, perc) といったテクニシャンが揃ったモンスターバンドで、チック・コリアですら霞むほどの衝撃の音楽が展開されます。本作はレコード2枚組で発表されたパリ公演のライブ録音です。

スタンダードジャズからフリーフォームまで様々な音楽が演奏されますが、白眉はウェイン・ショーター作「ネフェルティティ」。マイルスの演奏が霞むほどの高密度インプロヴィゼーションで、コントラバスとは思えないほどのホランドの高速ピチカート、また尋常でないブラクストンのハイパッセージなど、モードやフリーのほか、現代音楽も通過してきた60年代プレイヤー・ミュージックの到達点のひとつと思わされる見事な音楽です。

■Chick Corea / Return to Forever (ECM, 1972)

チック・コリアのみならずECMの大ヒット作ともなった傑作です。チック・コリアはエレクトリック・ピアノに徹し、スピード・プレイで一世を風靡したベーシストのスタンレー・クラークもアンプリファイドされたエレクトリック・サウンドで迫ります。

エレピのサウンドやボッサ調の曲の演奏など、涼し気な印象が残るアルバムですが、よく聴くとモードを軸にシ熱いインプロヴィゼーションが展開されています。ウェザーリポートの第1作やマハビシュヌ・オーケストラのライブ盤と並ぶエレクトリック・ジャズの傑作と言えるのではないでしょうか。

いわずと知れた超人気作だけあって、LPレコードの価格はドイツやアメリカの72年オリジナル盤はもちろん、日本をはじめとしたポリドール盤も一定以上の価格で買取りされている状況です。音楽の内容も勿論ですが、この海鳥ジャケットはLPレコードで持っていたいですよね。

■アーティスト・イメージは72年以降、しかしレコードの評価は71年以前

今回は、チック・コリアのレコードのうち、音楽性が高いものをピックアップしました。チック・コリアのキャリア・ハイはここに紹介しきれなかったものを含め、69年から71年に集中していると感じます。チック・コリアのレコードで買取り価格が比較的高いものも、この時期のものが多いようです。

しかしチック・コリアのイメージと言えば、ロック/フュージョン的なリターン・トゥ・フォーエバー2作目以降や、チック・コリア・エレクトリック・バンド、あるいは速弾き合戦となったゲイリー・バートンとのデュオなどをイメージする人も少なくないのではないでしょうか。この食い違いはチック・コリアの活動を反映したものとも言えて、68年までが習作期、69年から71年までに純粋に音楽を追求した作品を発表し続け、72年以降はプロとしてエンターテイメントも考えるようになったという事かも知れません。いずれにせよ、アーティストとしても、技芸披露のエンターテイナーとしても、トップレベルに長く留まったピアニスト/キーボーディストでした。

もしチック・コリアのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。