80年代にデジタル・メディアであるCD が登場すると、アナログ・メディアであるレコードは音楽再生ソフトの頂点としてのシェアを奪われ、一時は一部の好事家だけが楽しむメディアになってしまいました。しかしCD どころかダウンロードやストリーミングが当たり前となった現在、レコードはふたたび人気を集めています。それはリスナー間でおさまらず、大手レコードメーカーはプレス環境を復活させ、オーディオ機器メーカーはレコード・プレーヤーの新製品を発表するなど、その人気が一過性のものではない様相を呈しています。

ところで、レコードを再生するための大切な装置であるレコード・プレーヤーにこだわっている人はどれぐらいいるでしょうか。近年のレコード人気を見るに、「アナログでないと聴く事の出来ない魅力がある音」を感じている方は多いのでしょうが、オーディオ装置の柱となるアンプやスピーカーはまだしも、レコード・プレーヤーは「とりあえず現状で買えるもの」で済まし、そのままになっている方も少なくないのではないでしょうか。

今回は、レコード・プレーヤーの基礎知識を、なるべく専門用語を使わずに解説させていただきます。

■レコード・プレーヤー周辺のオーディオ基礎知識

レコード・プレーヤーの話の前に、簡単にレコード・プレーヤーを鳴らすためのオーディオ装置の説明をさせていただきます。

レコード・プレーヤーだけでレコードを聴く事は出来ません。通常は、レコード・プレーヤーの後に、フォノイコライザー、アンプ、スピーカーが必要となります。 

アンプは、厳密にはプリ・アンプ(コントロール・アンプ)とメイン・アンプ(パワー・アンプ)に分かれます。両者を一体化したプリメイン・アンプ(インテグレーテッド・アンプ)というものも存在し、その中でもレコード・プレーヤーの接続口を持っているプリメイン・アンプの場合、通常はフォノイコライザーが内蔵されています。

フォノイコライザーは、レコード・プレーヤーの音を正常に鳴らすために必要となる装置です。レコードはそのまま音を増幅したのでは高音域と低音域のバランスが良くない状態でカッティングされており、それを戻すために必要となるのがフォノイコライザーです。前述のとおり、フォノイコライザー内蔵のプリメイン・アンプに繋ぐ場合には必要ありませんし、最近ではレコード・プレーヤー側にフォノイコライザーを内蔵した機種もあり、その場合もフォノイコライザーは必要ありません。

■ターンテーブル

それではいよいよ、レコード・プレーヤーについて見ていきます。レコード・プレーヤーはターンテーブル、トーンアーム、ヘッドシェル、カートリッジ(ピックアップ・カートリッジ)で出来ています。

ターンテーブルは、レコード盤を乗せて回転させる場所です。音の向上を図るのであればレコード・プレーヤーの各パーツに手を出していく事になるでしょうが、ターンテーブルは最初に導入したレコード・プレーヤーから変更しにくい部分です。将来の拡張を考える場合、ターンテーブルはレコード・プレーヤー選択の重要な要素となります。

(ダイレクトドライブ方式/リムドライブ方式/ベルトドライブ方式)

ターンテーブルは、駆動方式によってダイレクトドライブ方式、リムドライブ方式、ベルトドライブ方式の3種類に分けて考えることが出来、それぞれに長所と短所があります。

ダイレクトドライブ方式は、モーターの回転部とターンテーブルが一体となっている方式で、その為にターンテーブルに力を伝えやすく、回転が安定する長所があります。一方でモーターの振動がダイレクトに伝わるという弱点があります。

リムドライブ(またはアイドラードライブ)方式は、モーターでアイドラーと呼ばれる車を回し、アイドラーでターンテーブルを回すものです。構造がシンプルで作りやすいためか、かつて大量に生産されたミニ・コンポに付属していたレコード・プレーヤーはほとんどこの形式でした。現在はあまり採用されていませんが、ガラードなどのヴィンテージ・プレーヤーがこの方式を採用しています。

ベルトドライブ方式は、モーターの回転をゴムや樹脂のベルトを介してターンテーブルに伝えるものです。ベルトを介してモーターの振動が緩和されるためにノイズが少ない長所があると言われています。一方、ベルトの劣化による回転ムラが起こりやすい短所があります。現在のレコード・プレーヤーの多くがこの方式を採用しています。

■カートリッジ

レコード盤に接触するレコード針を含むパーツが、カートリッジです。カートリッジには大きく分けてMM型とMC型がありますが、詳しい事は以前に書いた記事「昔と違うアナログ盤の再生事情 フォノイコライザーとレコードカートリッジについて」で述べましたので、ここでの詳述は省かせていただきます。

■ヘッドシェル

カートリッジを取り付ける事になるパーツが、ヘッドシェルです。ヘッドシェルはトーンアームから着脱出来るモデル(ユニバーサル型)が多いですが、トーンアームとヘッドシェルが一体となったモデル(インテグレート型)もあります。

 ヘッドシェルを取り外すことが出来るユニバーサル型の場合、シンプルにカートリッジの付け替えが楽になります。また、複数のヘッドシェルを用意すれば、複数のカートリッジのきき比べなども容易になります。一方、インテグレート型はケーブルの着脱点が減る分だけ、音質トラブルなどが起きにくいです。

■トーンアーム

カートリッジを支え、レコード針をレコード盤の溝に沿って外周から内周まで支えるパーツがトーンアームです。トーンアームはレコード・プレーヤーに付属していて交換の難しいものもありますが、交換可能なプレーヤーや、最初からトーンアームのついていないアームレスのターンテーブルも存在します。

トーンアームはいくつかに分類できますが、それら方式の違いは、「カーブしたレコード盤に溝にどうやって針を垂直に走らせるか」、「どのようにして針を適切な重量でレコード盤と接触させるか」にあります。

(スイングアーム方式/リニアトラッキング方式)

トーンアームは、針をレコード溝に垂直に接触せるための方式として、スイングアーム方式とリニアトラッキング方式に分かれます。スイングアーム方式は、トーンアームがひとつの軸を中心に回転していくもので、多くのトーンアームがこの方式を採用しています。リニアトラッキング方式はトーンアームが回転するのではなく垂直に移動していくものです。音溝に垂直に入りやすくなるために様々なメリットがありますが、メカニズムが複雑になるために主流とはなっていません。

(ストレート型/J字型/S字型)

次に、アームの形状による分類です。これはストレート型、J字型、S字型に分かれます。この形状の違いは、分かりやすくいえばレコード溝に対して針を垂直に入れるためのアングルをつける事と、そのことによるアーム自体のバランスなどの考慮によって生まれます。

(スタティック・バランス型/ダイナミック・バランス型)

最後に、針圧の調節法による違いで、これはスタティック・バランス型、ダイナミック・バランス型に分かれます。スタティック・バランス型はアームのカートリッジ側の反対に錘をつけて針圧を調節、ダイナミック・バランス型はばねなどを用いてより積極的に針圧を調節します。

■レコード・プレーヤーをカスタマイズして、アナログのレコードの音質を向上させ、好みの音を作る

ダウンロードやストリーミングで気軽に音楽を聴けるようになった今、なぜレコードで音楽を楽しむのでしょうか。理由は人それぞれでしょうが、いちばん単純な答えは「レコードの音が好きだから」ではないでしょうか。レコードの音に関する薀蓄は色々ありますが、最大の違いは「アナログ」という所が、デジタルであるCDやダウンロードやストリーミングと違う所です。

そして、アナログの音には、カスタマイズできる楽しみがあります。例えばデジタルの音であれば、アンプ以前ではD/Aコンバータぐらいしか差を生み出すところがなく、そのD/Aを自分でカスタマイズする事は難しいですが、レコードの場合はカートリッジ、針圧、カートリッジのアジマス合わせ、プレーヤーの水平、トーンアーム、フォノイコライザーなど、音を変化させるポイントが無数にあり、音質向上ばかりか自分好みのサウンドに近づけることも出来ます。

カートリッジを変えるだけでも大きく変化するアナログ・レコードならではの音質を、色々と楽しんでみるのもいいですよね。