ジャズの世界から眺めた1970年代は、クロスオーヴァー~フュージョンの席巻した時代で、ロックやポップスをはじめとした他ジャンルの音楽との融合が進んでいきました。この流れに呼応してか、純邦楽の世界も他ジャンルとのコラボレーションが数多く行われるようになりました。現代音楽の世界では武満徹の「ノーヴェンバー・ステップス」をはじめ純邦楽とモダン・コンポジションの融合が行われ、都山流の人間国宝・山本邦山は菊地雅章や山下洋輔といったジャズ・ミュージシャンと積極的に交流、レコード『銀界』はこのジャンルのマイルストーンとなりました。

この流れの中に登場した尺八奏者が、ジョン・海山・ネプチューンです。アメリカ出身の海山は、若い頃にトランペットやドラムを演奏してジャズに親しみ、のちに尺八に魅せられて来日、研鑽を積んで都山流師範にまで登りつめ、雅号である「海山」を授与されます。そんな海山がレコードとして発表した音楽は、時代潮流でもあったクロスオーヴァーから始まっていきました。

今回は、そんなジョン・海山・ネプチューンの名盤や高額買取りレコードを紹介させていただこうと思います。

■ジョン・海山・ネプチューン with 荒川バンド / バンブー (Far East, 1980)

海山のデビュー・アルバムは79年発表『バンブー・テクスチャーズ』ですが、実質的なブレイクは翌80年に発表された本作です。文化庁芸術祭で優秀賞を獲得、また、テレビ/映画音楽で活躍していた荒川バンドとコラボレーションする事で知名度が一気に広がりました。

音楽の内容は典型的なクロスオーヴァー・フュージョンで、まるでフルートのように尺八が演奏されます。共演の荒川バンドによる編曲と演奏が見事で、中でも手を抜かずに仕上げられた編曲は絶品です。ちなみに、翌81年発表のアルバム『将軍』も同傾向の音楽で、東芝がらみのジョン・海山・ネプチューンのアルバムは押しなべて本作と同傾向にあります。こうした音楽活動が出来たのはジョン・海山・ネプチューンが都山流であったからかも知れません。現在の尺八は都山流と琴古流が2大流派ですが、より伝統を重んじる琴古流ではこうしたフュージョンアルバムの制作は難しかったかもしれません。

レコード・デビュー以降、数多くのアルバムを出してきたジョン・海山・ネプチューンですが、恐らく最も知名度の高いレコードがこれで、日本のみならずアメリカでもリリースされました。それだけに人気も高く、LPレコードは今でも一定以上の価格で取引されており、中古の買取り価格も期待できそうです。

■ジョン・海山・ネプチューン / ウエスト・オブ・サムウェア (Eastworld, 1981)

アルバム『バンブー』がブレイクした80年からの数年が、ジョン・海山・ネプチューンが最も精力的にアルバム制作をした時代です。80年から82年までの3年だけを見ても、実に8枚ものアルバムを制作しています。

81年発表のアルバム『ウエスト・オブ・サムウェア』は東芝内レーベルのEastworld 制作ですが、ミュージシャンのほとんどがアメリカのクロスオーヴァー系プレイヤーで固められ、アメリカではMilestone のカタログとして発売されています。つまり、大量に作られた80年代初頭のジョン・海山・ネプチューンのアルバムの中で、本作は本格的なアメリカ進出アルバムと位置付けられて制作されたのではないでしょうか。それを意識してか、音楽内容は完全にクロスオーヴァーで、大変に聴きやすくなっています。

ちなみに、アメリカでの発売元となったマイルストーンの創設者は、モダンジャズの大名門レーベルであるリバーサイドを創設したオリン・キープニュースです。

■ジョン・海山・ネプチューン / ザ・サークル (DENON, 1985)

 東芝との契約が切れて以降、海山はしばらくアルバムの制作を控えます。そんな中、85年に入って久々に制作されたアルバムが本作で、ここから音楽が飛躍的にオリジナリティを増していきました。

音楽の進化は、表現にも作曲にもあらわれます。タブラ、箏、三線といった音色やデュナーミクを変化させて表現として使えるアコースティック楽器の導入と、恐らく入念に行われたであろうリハーサルが、これまでとはまったく違う次元の表現力を獲得しています。また作曲面での進化も顕著で、それまではアメリカのポピュラー音楽のアメリカン・ソングフォーム形式がほとんどだった曲から脱しています。プロ・ミュージシャンではなくアーティストとしてのジョン・海山・ネプチューンの歩みは、アルバムとしてはここから始まったと言えるかも知れません。なお、88年にビクターからリリースされたレコード『TOKYOSPHERE』も、本作と同傾向にある素晴らしい音楽です。

作品の高いクオリティに比べて出回り数の少ないアルバムであり、CDですら高額化しています。LPレコードはレア盤と言っていい状態にあり、高額での買取が見込める1枚です。

■ジョン・海山・ネプチューンのレコードは、初期人気盤、レア盤、85年以降の入手困難盤が高額買取り対象になりやすい?

 ポピュラー音楽のジャンルとしてのクロスオーヴァーから始まり、音楽面でのトータル・ミュージックへと進化していったジョン・海山・ネプチューンのレコードは、ブレイク前、メジャーのレコード会社による大きな宣伝とディストリビューションの確保が出来たもの、そうでないもの、この3つに分けて考えることが出来ます。まず、『バンブー』以前にリリースされたレコードは出回り数が少なく、高額での買取りが期待できます。ブームとなった81~83年のレコードは、やはり人気盤ほど高額化しやすく、あまり人気のないものは出回り数の多さもあって廉価となりやすいようです。ブームの去った85年以降は出回り数があまり多くないものの音楽のクオリティが非常に高く、ものによっては既に高額化、それ以外のものでも再評価されていけば今後高額化していくかもしれません。

もしジョン・海山・ネプチューンのレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。