60年代に隆盛を極めたアメリカのフリージャズは、ニューヨークとシカゴというふたつの中心点を持っていました。特にシカゴでは、ライブハウスやレコード会社の主導ではなく、音楽面でも活動面でもミュージシャン自らが率先して活動できるよう、AACM(Association for the Advancement of Creative Musicians)という組織が結成されました。AACM に所属した多くのミュージシャンは、バップ系の音楽に留まらず、また勢いだけで押すようなフリージャズにも走らず、創造力あふれる音楽を生み出していきました。ブルーノートを創始したアルフレッド・ライオンが「シカゴのミュージシャンはテクニシャンが多い」と発言していますが、そうした音楽能力の高さあってこそ創造力の高い音楽を作り得たのかも知れませんね。

そんなAACM から巣立ったミュージシャンでもっとも成功したのが、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ(Art Ensemble of Chicago)です。アメリカ音楽であるジャズの伝統の延長にフリージャズを成立させたジョン・コルトレーンらと違い、「アメリカ」や「ジャズ」というワードを除いても充分に成立するだけの音楽を作った彼らはヨーロッパで人気を集め、その人気は世界に広がっていきました。

今回は、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ(以下AEOC)の名盤や高額買取レコードを紹介させていただこうと思います。

■Roscoe Mitchell Sextet / Sound (Delmark, 1966)

フリージャズという演奏スタイルの利点のひとつはその爆発的な表現力でしょうが、欠点はアンサンブルの崩壊でしょう。これは構造上の問題なのでしょうが、AACM のフリージャズは、音楽面からその弱点を克服しようとしたものが多いです。実際のところ、AACM 創設者であるピアニストのリチャード・エイブラムスもAACM きってのテクニシャンであるアンソニー・ブラクストンも、活動初期には集団での即興演奏とアンサンブルを両立させようとするアルバムを作っています。そして、のちにAEOCを結成する事になるリード楽器奏者のロスコー・ミッチェルも、やはりフリーとアンサンブルを両立する試みをしていました。それがこのアルバムで、のちにAEOC を結成するマラカイ・フェイヴァースやレスター・ボウイも参加、AEOC 前夜の音楽状況を伝える歴史的な意味も持つアルバムです。

このレコードをリリースしたのは、シカゴのデルマークです。デルマークと言えばシカゴ・ブルースの名盤レコードを数多く作ったレーベルとして有名ですが、実はシカゴ・フリーの重要な名演も記録しています。このレコードをプレスしたのはアメリカと日本のみで、独立系レーベルの作品という事もあって再発の回数も少なく、特にUS盤はある程度以上の買取価格が見込めます。

■Art Ensemble of Chicago / A Jackson in Your House (BYG, 1969)

リード楽器奏者ジョセフ・ジャーマンの加入によって、ロスコー・ミッチェル・セクステットからアート・アンサンブル・オブ・シカゴへとグループ名を変更した、AEOC のデビューアルバムです。詩の朗読、ニューオリンズ・ジャズ、アンサンブル音楽、フリーなどをひとつの作品としてまとめるなど、この時点ですでに大変なオリジナリティを持ったグループに成長しており、ジャズ史上唯一無二の音楽が生まれています。

世界中でレコード化されるなど、当時からフリージャズとしては異例の人気を集めたレコードです。AEOC の初期レコードは発売国などの違いによってジャケット違いが多く、コレクター心をくすぐるものがあります。中でも、Pヴァインが再プレスしたレコードのイコン・ジャケットは300枚限定のレア盤で、いずれさらなる高額で買取されるようになるかもしれませんね。

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■Brigitte Fontaine / Comme À La Radio (Saravah, 1969)

60年代末にシカゴのジャズ・ミュージシャンが大挙してフランスに渡りましたが、理由のひとつはビートルズをはじめとしたブリティッシュ・インヴェイジョンによって、アメリカでジャズが斜陽になったためだそうです。しかしそれは米仏の音楽の発展に大きな成果をもたらし、そのひとつとして生まれたのが前衛色の強いシャンソンを歌うブリジット・フォンテーヌのこのレコードです。ジャズやシャンソンというスタイルに拘らず、バッソ・オスティナートを活用した曲、朗読に近い曲など、作品も演奏も完成度の高い大傑作。ブリジット・フォンテーヌ、作曲担当のアレスキー、そしてAEOCそれぞれにとって特別なアルバムとして完成しました。ちなみに、このアルバムの何曲かでトランペットを吹いているのは、レスター・ボウイではなくレオ・スミスです。

音楽内容・人気ともに文句なしの大名盤で、レコードであればどれも高値での買取りが見込めます。中でも人気はやはりサラヴァ・オリジナルの69年フランス盤で、これは状態さえよければ高額での買取り確実です。

■Art Ensemble of Chicago / The Spiritual (Freedom, 1972)

フリーダムはイギリスのジャズ・レーベルで、アメリカのジャズ・レーベルのようなエンターテイメント性が強い音楽ではなくややフリー寄りで、かつ音楽性の高いレコードを数多く制作しました。フランスで活躍したAEOC の、レコード上での次の活動拠点となったのがこのフリーダムで、AEOC はこのレーベルでまたしても傑作を数多く残しましたが、これはその中の1枚です。AEOC の作品中でも特に内省的であるのが特徴で、会話やリップノイズで構成されているパート、それとは対照的なきれいにアンサンブルされたパートなど、やはりアルバム全体でひとつの作品を作るその構成力に驚かされます。

■AEOCのレコード買取りはBYGとFreedom時代が一番人気か

アメリカン・ソングフォームに終始するジャズが多い中、その型にはまらない独創性もあって、AEOC の音楽はジャズ・ファン以外にも一定の人気があるように思われます。最近の音楽を聴くと、プレイヤーの技術は非常に高いものの、何かの焼き直しと感じる事が多々あるのですが、そんな時にAEOC の音楽を聴くと、独創性が音楽にとってどれほど重要であるかを考えさせられます。

AEOC は他にも『People in Sorrow』など、名作として知られるレコードを数多く発表していますが、中でも人気はフランスで活動したAEOC 全盛期を捉えたBYG録音、そしてAEOC の音楽が最も洗練されたその後を捉えたFreedom 録音の諸作が一定の評価を受けており、それだけに買取り人気もあるようです。もしAEOC のレコードを譲ろうと思っていらっしゃる方がいましたら、その価値が分かる専門の買い取り業者に査定を依頼してみてはいかがでしょうか。